[KATARIBE 29987] [HA06N] 小説『県警女装の伝統余話』

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Date: Tue, 4 Jul 2006 00:21:07 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29987] [HA06N] 小説『県警女装の伝統余話』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年07月04日:00時21分07秒
Sub:[HA06N]小説『県警女装の伝統余話』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
風春祭のほうも進めねばーと思いつつ、諸事情にてこちら。
ちょっと書いてみました。

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小説『県警女装の伝統余話』
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登場人物
--------
 如月尊(きさらぎ・みこと)
     :体は女子高生、心は年上お姉さんな人。豆柴君と友人以上恋人未満。
 軽部片帆(かるべ・かたほ)
     :毒舌大学生。真帆の妹。かなりのシスコン。
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍して姓が変わる。

本文
----

 処はFlowershop Mikoの二階。
「どっから借りてきたんですかこれ」
「んー、史久さんから」

 目の前には数枚の写真。
 その一番上には、多少大判の写真。
 真ん中には茶色がかったショートの髪に、レースのヘッドドレスが映える一
名。細い目を除くと充分整った顔立ちのその一名は、黒を基調とし、白のフリ
ルで飾られた、メイド服ともゴスロリともつかない服装をしている。袖のあち
こちが膨らんだりフリルで飾られている黒のドレスも、その上にかけられた、
やはりレースとフリルでごっそり飾られたエプロンも、メイド服と言うにはあ
まりに豪奢に過ぎる。
 その周囲に重なるようにむくつけき野郎どもが……まるでもみくちゃにする
勢いで写っている。

「…………つーかこれって」
「うん」

 片帆が、柄にもなく遠慮がちに指差したのは……無論真ん中の一名である。
 知らない顔ではない。むしろ最近良く知っている顔である。

 いや、だからこそ……尊がこの写真を凝視し、片帆が何となく横で居心地悪
げに座り込んでいるのだが。

 写真は、多分少し前のものだろう。今の彼よりも少しだけ若い。

「…………」

 じ……っと、尊は写真を見ている。
 片帆は、その尊を見ている。
 流石に……この写真を見ては尊もむっとするだろう、誰が撮ったのだ、くら
い言い出すのでは、でも、この沈黙からして爆発力は凄かろう……などと、う
ろうろと片帆が考えていた、その思考をぶった切るように。

「……可愛い……」

 ほぅ、と、うっとりとした溜息と共に吐き出された一言に、流石の片帆が
見事にこけた。

             **

「って、片帆から聴いたんだけど」
「ああ」

 あばたもえくぼってああいうもんなんだねーと、口調もまとめて脱力状態の
妹が、電話をかけてきたのは今日の夕方である。

「でも……豆柴君が仕事でメイド服を着てたのは知ってるけど」
 何と言ってもその現物が手元にあるのだから、否定しようがない。
「何でまた、そんなゴスロリメイド服着て、それも皆で写真撮るなんてことに
なったのかな」

 豆柴君の名誉のために言っておくと、この写真で、豆柴君は非常に「厭そう」
だったようである。どうも周囲の野郎どもは、彼を抑え込む役目も果たしてい
たではないか、とは片帆の分析であった。
 ああ、と、相羽さんが頷いた。

「そういや警察学校の寮での伝統でねえ、卒業の時に総代(警察学校首席)が女
装させられて胴上げするってのがあるんだよ」
「…………はあ?!」
「幸い俺は成績はさほどでもなかったから、させられなかったけどね」

 この人、その情報を先に仕入れてて……その上で逃げたんじゃないかと、今
一瞬思いました、ええ。
  
「てかね、史の奴それ知ってて東っちに首席ゆずったんだよ」 
「ええっ?!」

 この前の風春祭を思い出す。
 優勝したシーンがとにかく印象的なその人は…………でも女装が似合うよう
にはちょっと思えなかったというか何と言うか。

「……やっぱり、本宮さんって……それなりに……」
 腹黒、と相羽さんが言うのが、何となく判るような判らないような。

 ちょっと待ってな、と、相羽さんが席を立つ。しばらくして少し古びたアル
バムを持って戻ってくると、ぱたん、と目の前で開いて。

「多分、これじゃないかな」
「……うわっ」
 
 レース一杯のヘッドドレスにフリルだらけの少し短めのドレス、それにエプ
ロン。これだけのフリルをくっつけて、それでもすっきり見えるあたり、豆柴
君やっぱりすらりとしてるんだろうなあ…………じゃ、なくって。

「……尊さんて、偉大かもしれない」

 この写真見て、まずは「可愛い(溜息)」って……いや判るような気はする
けど、それが付き合ってる相手だったりした日には。

「で、これが東っちね」
「…………」
 
 流石に、豆柴君ほどのふりふりドレスではない。が、肩紐にはばっちりフリ
ル、無論エプロンの縁取りもしっかりフリル……の一品を、青地に水玉のワン
ピースの上からつけて。
 そりゃもう憮然とした顔のまま、中央で写っている東さん。
 …………本宮さんって、やっぱ相当悪党かも。

 に、しても。

「……てか、どうして、男性って、そうやって女装やらこすぷれやらを喜ぶか
なあ」 
 かなり基本的(?)な疑問に、相羽さんはあっさりと答えた。
「まあ、やっかまれるじゃん。総代とかってさ」 
「うん」 
「体のいいウサ晴らしみたいなもんだよ」 
「……そう、だけど」 

 いや、罰とか何かの遊びだけじゃなく。
 結構本人達も面白がってやってる場合があるし。
 それに。

「かなり真面目っぽいよね、服の材質とか」
「うちの県警お祭好き多いからねえ」 

 ……それは、かなり同意したい。

 それにしても、この写真、あの奥さん知ってるのかなあ、見てひっくり返ら
なかったのかな、とか、見ながら考えていたら。

「……まあ、俺もいつだったか県警の忘年会で女装させられたよ?」 
「?!」

 なんだって?!
 
「え、え、え、あの、どんなのっ?!」 
「……真っ赤なチャイナドレス」 
「しゃ、写真とかあるのっ?!」 
 思わず、掴みかかるような勢いで詰め寄ったあたしを、相羽さんはじーっと
見て。
「………………みたい?」 
「うんっ!」
 だって相羽さん、お母さんに良く似てるのだもの。それにお母さんはとても
綺麗な人だったもの。
 絶対綺麗だと思う。

「……これ」
 と、こちらが考えている間に、相羽さんはまた小さなアルバムを持ってきた。
ぱか、と、開いてこちらによこしてくれる。

「う、わぁっ」

 真紅の、ぴったりと合ったチャイナドレス。それに羽扇子を軽くかざしてい
るポーズ。立っているの、座っているの。
 誰がやったのか(流石に本人じゃなかろうけど)丁寧に化粧がほどこされて
いる。全体に少し色白に、そして綺麗に口紅も塗られて。
 髪の毛は残念ながら短いままだけど、一部に金の色が吹きつけられているの
が、チャイナドレスの光沢のある赤によく似合っている。

 ほんとに、綺麗だなあ、と、思って。
 思って……

「どしたん?」
「……相羽さん、女性にしても、綺麗なんだよね」 
「…………そこは喜んでいいのか微妙なんだけど」 
「褒めてる、んだけど」 

 なんてか……こう。
 女性に見える、わけじゃない。流石に体格一つとっても、男性とわかるんだ
けど、それでもそれなりに様になってて。
 
『なんであんたみたいな女が!』

 そう叫んだ声が、耳朶に残っている。
 何か……納得する。
 人は見てくれではないとよく言う。でも、あまりにそれが不釣合いなら。
 そう考えると、確かに彼女の一言には重みがあって……

「どした?」 
 ひょい、と、相羽さんが覗き込んだ。
「……相羽さん、グインサーガ読んだことある?」 
「んー、それは読んでないな」 
「……あの中にね、ある王女様が、父親の王様と話してるシーンがあってね」 
 シルヴィア姫とケイロニウス皇帝。他愛の無いシーンなんだけど。
「うん」 
「姫様だから政略結婚ってのは厭っていう姫に、王様が挙げた候補者がすごい
美形の王子で……それに王女様が言うの」 
 割と素直で普通の女の子。その台詞に、だから、何だか笑った記憶がある。
「客という客が、自分じゃなくて夫の美貌を褒め称えるようなら、自分は夫の
顔にお酒でもぶっかけたくなるじゃないか、って」 
「ふぅん」 
「そこまで極端じゃないし、相羽さん女性に見えるよーな顔じゃないけど」 
 
 写真を見る。普通にしてたら流石に美貌とは思わないし、こうやって女装し
てても、やっぱり『女装』なわけだし。
 だから……だけど。

「………………なんか」 

 殺してやりたい、と、あの時言われた。
 あの時には……正直、判らなかった。
 でも。

 伸びる手。そっと頬から顎を撫でる指。
 多分あの子が必死で欲して……得られないもの。

「……釣り合ってないって、怒る人が居るの、わかる気がする」 
 一瞬の間。そして少しだけ力の篭る指。
 上を、むかせられて。
「それ、決めるの俺だから、ね」 
 その言葉に重なるように、額に唇が触れる。

 この人だけ見ていたら、迷わないと思う。迷うどころじゃないとも思う。
 だけど、実際には、扉を開けたらそこには山程人が居て、その人達にどう見
えるのかを、どこかで考えている。
 必要と思う。この人はあたしにとって。そして多分、その逆も本当だと思う。
 だけどそう見る人ばかりじゃないなってこともわかる。どちらかというとそ
う見ない人のほうが多いんじゃないかと思う。

 ……だから。

「……面倒じゃ、ないよね?」 
「全然」 
「重くない?」
 尋ねてしまってから、気が付く。確かにこれは意味不明の問いだ。
「こう……世界って、重くない?」 
 言い換えた問いに、間髪居れずに、ある意味確信犯の返事が戻る。
「お前さんとなら平気だね」 

 さらっと言われて……思わず苦笑した。

「……あたしは、へたってるのに」 
 現にへたっているから、こうやってぐずぐず言っているのに。支えるに何の
役にも立っていない……否、足を引っ張るばかりに思えるのに。
 
「そら、ヘたった分支えるよ」 
 だけど、相羽さんの言葉は、軽やかで。
 顎に添えられた指は、だけどしっかりと……確かにあたしを支える指で。
 悪戯っ子のような顔でこちらを見た相羽さんは、にっと笑うと付け加えた。

「旦那だしね」 
「……っ」
 咄嗟に返事をし損ねて……ただ、相羽さんの顔を見た。
 だけど支えられるばっかりで、相羽さんに負担なばっかりで……と、口に出
す前に。

「俺がへたったときは支えてくれるでしょ?」
 やっぱり、にっと笑ったまま。
「奥さんだから、さあ」

 相羽さんという人は。
 これだけ頼りない自分にも、頼ろうとしてくれて。
 一方的ではなく……

「……はい」

 半分。
 周りで見ている人達が、どれだけ釣り合わないと断じても。
 
 この人は、やっぱりあたしの半分。


 視線の先で、相羽さんは。
 やっぱり少しだけ、笑った。


時系列
------
 2006年5月

解説
----
 相羽家の日常。いつものように終了しているようですが……
 実はもう一つ、ネタに繋がります
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 てなもんです。
 ええ、次のネタがあるんです。
 ……(かくきかおのれ(汗)

 であであ。
 


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