[KATARIBE 29986] [HA06N] 小説『風春祭断片・その七』改訂版

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Date: Sun, 2 Jul 2006 22:52:41 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29986] [HA06N] 小説『風春祭断片・その七』改訂版
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年07月02日:22時52分40秒
Sub:[HA06N]小説『風春祭断片・その七』改訂版:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
先日、ねむねむ状態で出した話、一箇所訂正がありましたので、直しておきます。
……そーかあ、みこちは「豆柴君」とは呼ばないのか。

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小説『風春祭断片・その七』
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登場人物
 如月尊(きさらぎ・みこと)
     :体は女子高生、心は年上お姉さんな人。豆柴君と友人以上恋人未満。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍して姓が変わる。基本的に語り手。
 軽部片帆(かるべ・かたほ)
     :毒舌大学生。真帆の妹。かなりのシスコン。

本文
----

 奉納試合、と聞いた。
 つまり、その背に周りの思いを背負っての試合ということだろうか。
 
 第一試合、勝者は中村さん。
 蓉子ちゃんの声は、確実に届いたのだと思う。

            **

「如何でしたでしょうか第一試合っ!」
 マイクを半ば掴むようにして、シルエットのその人は相変わらずのテンショ
ンで叫んでいる。
 試合と試合の間。結構人は入れ替わるようだ。
「次は豆柴さんだね」
「うん……って片帆」
「へ?」
 へ、じゃないよ。
「あんたねえ、目上の人をあだ名で呼ぶかなあ」
「あー」
 いまいち反省とは遠い表情で、それでも片帆は肩をすくめた。
「あんまり印象が一致するんだもの」
 ……これだもの、なあ。
「尊さんが気を悪くするよ、そんなの」
「うーん」
 流石にこれは効き目があったようで、片帆は腕を組んで考え込む。こちらも
一息ついて。

 あれ?

「ね、片帆、尊さんは?」
「ああ、今日出るよ」
「へ?!」
「一般参加者も募ってたみたいだから」

 いやまあ。尊さん強そうだったけど(一撃で人形に穴開いてたし)。
 だ、だけど。

「豆し……本宮君と対戦になったらどうするのかな」
「そうなれば最終戦にするみたいですよ」

 へ??

「あれ、尊さん?」
 片帆にも意外だったらしい。長い髪を今は一つにまとめて、動きやすい服装
に改めた彼女は、あたし達の後ろでにこにこ笑っていた。
「尊さん、この次の試合じゃなかったですか?」
「次、ですけど」
「用意とかしなくてもいいんですか?」
「んーと」
 尊さんはちょっと困った顔になった。困ったというか……照れたというか。
「うん、集中しようとしてたんだけど……やっぱりね、ほら」
「ほら?」
「和久君の試合結果が気になって集中できないから……いっそ見に行っちゃえ、
って」
 てへ、と笑う顔が、やはり愛らしい。
「……そしたら、尊さん」
 不意に片帆がきりっとした顔で声をかける。何だ一体、と、こちらがきょと
んとしたくらいだから、尊さんは余計に、吃驚したような顔で片帆を見ている。
「もっと近く、ちゃんと顔が向こうからも認識できるところに行くべきです!」
 言った時には尊さんの腕を掴んで、前進開始。我が妹ながら……手が早いと
いうか気が早いというか。
「へ??……って片帆、さんっ」
「奉納試合なんだから、ちゃんと尊さんの思いを背中に乗っけてやらなきゃ」
「お、思いってっ」
 ……後ろから見ても判る。尊さん、耳まで真っ赤になってるし。
「ねーさんそこらに居るよねっ」
「居ますよ」
「じゃ、ちょっと行ってくるっ」

 そのまま人の中を突っ切るように前進する妹の背中に重なるように。

「それではお待たせしました」
 またも抑えたような声のアナウンス。本当にこの人素人なんだろうかってノ
リと勢い、強弱で。
「第二試合は……さあ、今リングに上がるのは、火の国の男、葛城!」
 うわ。
 さっきの二人も大きいと思ったけど、この人はまた、それより一回り大きい。
身長も体格も、綺麗に均整が取れている。その割に、こちらから見える横顔は
細い目にどこかしら人のよさそうな色が漂っている。
「相対するは県警一の忠義犬、豆柴くんだーーー!」 
 その前に居ると、豆柴君が本当に小さく華奢に見える。いつも、わざとのよ
うに細めた目が、まず相手をじっと見て。
 そして、ほんの少し、それがずれて。

(あ)

 すう、と。
 その表情が引き締まった。
 いや、今までだって充分に真面目な顔をしていたのだけど、何ていうか……
うん、漫画で言うなら、背景に炎を背負った、みたいな。

 尊さんを、見たのかな。

 咄嗟にそう思う。それくらいの気合が、入ったのがあたしにすらわかった。

「さあ、双方気合充分だ……」
 やっぱり、眼鏡のフレームを指で押し上げながら。
「では、第二試合!」
 
            **

 体格の差がどのくらい試合の結果に影響するのか、あたしには良く判らない。
ただ……その良く判らないあたしから見ても、豆柴君は健闘したと思う。充分
対等な試合であったとも、思う。
 ただ。

 どういう試合で、どういう展開だったかと言われると困る。ただ、どよめく
ような皆の声と、最後にきゃあ、と響いた高い(それも複数の)声から、葛城
さんが勝った……否、豆柴君が負けたのが判った。

 ごうごうと盛り上がる観客席の声。
 ……尊さんは、一体それをどんな風に聞いているだろう。

 視線の先で、豆柴君は、しばらく倒れて動かなかった。
 相手の葛城さんも、立ってはいたけど、一瞬動きがなかった。恐らくかなり
ダメージがあったのだろう。
 それでも、一呼吸後に、二人とも動き出す。大儀そうに歩いて、豆柴君の傍
まで行った葛城さん、そしてその足元で、ぐっと身体をたわめるようにして、
何とか立ち上がった豆柴君と。
 互いにゆっくりと近寄る。
 そして握手して、一礼。
 
 
 どよめくような、観客席からの声と、拍手の音。
 それが、第二試合の終了の合図だった。

時系列
------
 2006年4月23日

解説
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 風春祭の風景、真帆の視点から。
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 てなもんで。
 ではでは。
 


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