[KATARIBE 29982] [HA06N] 小説『攻撃ダメージ1』

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Date: Sat, 1 Jul 2006 01:37:36 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29982] [HA06N] 小説『攻撃ダメージ1』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200606301637.BAA08345@www.mahoroba.ne.jp>
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2006年07月01日:01時37分36秒
Sub:[HA06N]小説『攻撃ダメージ1』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
……なんかこう、先輩に慣らされている今日この頃。
PLとしてそれはどうよという疑問とともに流します。

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小説『攻撃ダメージ1』
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 登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍して姓が変わる。


本文
----

 片帆から、サイトを教わった。
 何だか少し面白くなさそうな顔と一緒に。

 要するに、名前を入れたら、その名前に対応して攻撃力や防御力を割り振り
(どういう基準か知らないが)、そのままバトルを始めるのだ。交互に、攻撃
力に釣りあった力で殴り合い、それを防御力や素早さのファクターでかわす。
他愛が無いといえばそれまでだが、名前だけで決まるので、結構色々な組み合
わせとその結果が面白い。

 試しに、相羽さんとあたしの名前を入れてみた。
 ……片帆が面白くなさそうな顔をしたのがよくわかった。

          **

「攻撃力が全然違うんだよね」
 ご飯を食べて、お風呂に入って、そして和菓子を前にしてしばらく。
 黙って新聞を読んでる時もあるし、ベタ達と遊ぶこともある。今日みたいに
何てことの無い話をすることが、でも一番多いかもしれない。
「あと防御力も全然違うし。上回ったの『素早さ』くらいで……だからこちら
がぼこなぐりにされて、結局3回で終わっちゃった」

 あやめをかたどった練り切りと、青みを帯びた寒天の中に透明と白の浮き身
の入った和菓子。飛びついてくるベタ達を片手でかわしていた相羽さんは、ほ
んの少し肩をすくめた。

「実際やったら俺全敗だよ?」 
「…………やらないけど」

 全敗、と言われると……なんかちょっと困る。実際に拳を振るって、あたし
がこの人に勝てるわけがないのだ。

「でもなんかすごいよ。相羽さんが98のダメージこっちに当てるのに、あたし
のほうは1しかいかないんだもん」 

 実はやってみて、ついつい笑ってしまった。実際、彼我の攻撃力の違いって
そんなもんだと思うから。

「ふぅん」 
 練り切りを食べ終わって、お茶を含む。お代わりが居るかな、と、湯呑みに
手を伸ばしかけた途端。

「ってっ」
 ひょい、と、相羽さんの手が伸びる。そのまま手を掴んで、こちらを見たま
ま口元に運んで……そのまま。
「……だからっ」
 どうしてこの人は、こういうことをするかなあっ……と、睨んだこちらの気
も知ってかしらずか。
「効いた?」 
 にぃっと笑って……そう、くるしなあ。

 全敗する、と相羽さんは言う。
 だけどそれは、本当の能力や実力のせいじゃなくて、単にこの人があたしに
勝ちを譲るからに過ぎない。それくらいは何も沈思黙考しなくたってわかる。
 でも。

 そりゃ、腕力で勝てるとは思ってないし、そんなことで勝とうとも思わない。
 だけど。

 後から考えたらすごく莫迦な話だけど、その時に思ったのだ。
 腕力では勝てない。だけど、じゃあ、もし相羽さんに……やりかえしたら?

「どしたん?」 
 ふい、と、覗き込まれた。
「……なんでもないです」 
「そう?」
 指が頬をそっと撫でる。

 世故に長ける、と言う。だけど反対に馬齢を重ねるとも言う。この人と4歳
違う筈なのに、実際にはあたしのほうが年下のようなもので。
 
 ダメージ1とダメージ98。全敗だよ、と言う相羽さんの言葉。

 実際に、この人に加減してもらわねば勝てもしないって知っている。
 それなのに、全敗って言うから。

「ん?」
 頬を撫でている指を掴む。掴んで口元に引き寄せて……
 …………やっぱり相羽さんて、おネエちゃん情報網の元締めだったんだなあ、
と、こういう時は思う。やり返す積りで手を取ったんだけど、どうしていいか
判らなくて。
 でもこのまま引っ込むのも悔しくて。
 口元に引き付けた勢いもあって……そのままぱく、と。

 食べてみた。

 幾久君のところには、奈々さんの都合の良い時に何度か行った。まだ寝っぱ
なしの幾久君は(良く眠るのでこちらは助かるんです、と、奈々さんは笑って
いた)時折小さな指をくわえるようにして眠っていた。奈々さんがその手を口
から離してみても、やっぱり口元に持っていっては指を吸ってる。
 咄嗟にその時のことを思い出す。噛まないように、出来るだけ歯を当てない
ように気をつけて。幾久君が自分の指を、まだ歯の無い口に突っ込んでいた時
のように。

 ……でも。
 一瞬、目をあげてみた。
 相羽さんは不思議なほど無表情だった。
 手も、唇の間で微動だにしなかった。

 何となく納得して……でも同時に少し拍子抜けして、ぱく、と、口から手を
離す。
「…………ほんとに効き目ないし」 
 攻撃力98と攻撃力1.彼我の差は、やっぱりここでも正しかったらしい。納
得半分、何となく悔しいの半分で、掴んでいた手を離した、時に。

「……効いてるよ」 
「……へ?」 
 
 両手が頬を挟むように、包むようにあてられる。こつん、と、額に額がつけ
られて。

「……かなり不意打ち」 

 至近距離の顔には、やっぱりどこか張り詰めたような無表情が浮かんでいて。
 全く不意打ちの顔じゃなくて。
 ……だから。

「わかってないってのが、更に強力だよ」 
 息がかかるほどの至近距離で、ほんとに小さな声で。
 ほんの少し笑いを含んだ声。

               **

「気づいてないみたいだけど、かなりくらっときたよ?」
 そう、相羽さんは笑いながら言う。 
「って……」
 微動だにしない、うろたえもしないように見えたし、それに。
「……そんなこと」
 してないよ、と言いそうになるのを遮るように、相羽さんがあたしの右の手
を掴む。指先にそっと唇を触れて。
 そのまま。

 数秒、頭が真っ白になってた。
 こちらを見る、どこか悪戯小僧のような相羽さんの表情。何を見たのか、に
やっと笑って、ぱくっと指を離す。

「わかった?」
 笑い混じりの顔を見上げて……ようやく何がどうなったかわかって。
「…………ぅぁっ」

 顔から火が出るって言うけど、本当にそんな感じだった。
 
「ごめんなさいもうしませんっ」
「いいよ、いくらでも」
 そう、相羽さんは言うけど。
「ってか、そういう積りじゃなかったんですっ」
「そういうつもりじゃないのがいいんだよ」
「でもっ……」
 
 何やってんだあたしはとか、もう頭の中がぐしゃぐしゃになったときに。

「じゃ、引き分けってことで」
 頭を撫でる手と一緒に、やっぱり笑いを含んだ声がそう言った。


 攻撃力が幾つかなんて関係無い、と、ふと思った。
 多分この人の攻撃は……どんな形でも、一撃で致命傷になる。

 そして……もしかしたら、この人にとってもそうなのかな、と。
 ふと。

 思いあがりかもしれないけど。どこかでやっぱりそう思ってしまうけど。
 一度、手を握って。
 

「お茶、いる?」
「うん」


時系列
------
 2006年5月頃

解説
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 相羽家に於ける日常の一こま。
***********************************************************

 てなもんで。
 ではでは(脱兎)

 


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