[KATARIBE 29980] [HA06N] 小説『風春祭断片・その六』

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Date: Thu, 29 Jun 2006 00:42:04 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29980] [HA06N] 小説『風春祭断片・その六』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年06月29日:00時42分03秒
Sub:[HA06N]小説『風春祭断片・その六』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
少しずつですが続けます。

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小説『風春祭断片・その六』
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登場人物
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 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍して姓が変わる。基本的に語り手。
 軽部片帆(かるべ・かたほ)
     :毒舌大学生。真帆の妹。かなりのシスコン。
 中村蓉子(なかむら・ようこ)
     :吹利県警刑事部中村辰彦の長女、高校二年生。秋風秦弥と付きあっている
 秋風秦弥(あきかぜ・しんや)
     :吹利学校高等部三年生。中村蓉子と付き合っている。

本文
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 第一試合は、剣道の時にお会いした中村さんと、波佐間さんという人。周り
の話や紹介を聞くに、どうやら豆柴君の同僚らしい。
 それにしても二人とも背が高い……というか大きい。中村さんって、確か本
宮さんと同じくらいあったと思うんだけど、波佐間さんも負けてない。

「少年課なんだってさ」
 どこで聴いてきたのか、片帆が髪の毛を払いながら言う。
「ああ……あれ、豆し……いや、本宮君も少年課なんだ?」
「一緒だってんなら、そうなんじゃない?」
 がんがんと、マイクを持った眼鏡の人が紹介文を……読んではないなあれだ
と。恐らく即興で、まるでDJみたいにがんがん喋っている。
「でも、大きな人だよねえ。普通の高校生が複数でかかっても、ふっとばされ
そうだ」

 視線をめぐらすと、あたしから見てリング……この言葉でいいのかな……の
向こう側に、中村さんのご家族がいる。パイプ椅子に遠慮がちに腰掛けた奥さ
ん。そしてその横にはお母さんそっくりのお嬢さんと、多分彼氏(そういえば
剣道の試合の時にも正座していた子だ)が立っている。まだどこか初々しい、
緊張したような表情のその子は、蓉子ちゃんと何やら二言三言話し……そして
すぐにリングのほうを見上げた。
 試合の始まりの合図と一緒に、二人が動き出す。黙って見ている蓉子ちゃん
の手が、ぎゅっと握り締められた。

 格闘技は苦手だ。
 相撲はまだしも、プロレスは嫌いだったし(父がそこそこ見てたので、その
度に部屋に逃げてたっけ)。柔道や合気道、空手は留学中の弟分でやってる奴
もいたけど……技を見るのはともかく、やっぱり試合には興味が無かった。
 どうなるか興味はある。でも。

 あちこちに据えつけてあるスピーカーからは、実況中継ばりにどんどん声が
流れてくる。その声に押されるように、皆どんどん盛り上がってゆく。
 ああ、盛り上がってる、と思った途端。
 なんだかすっと醒めた。

 と。

 片帆の向こう、二人ほど置いたところに居る人が目に留まった。というか、
互いに目が合ったというか。
 綺麗な人だった。
 綺麗と言っても色々あるし、人の好みで色々変わる。ただ、彼女の場合、十
人を集めて意見を聞いたら十人が十人とも美人と言うだろう。そんな感じの人。
言わば、それぞれの持つ好みやら何やらを吹っ飛ばすくらいの美人。
 目が合った途端、彼女は何だかほんのりと……少し寂しげに笑った。あれだ
けの美人なのに、嬉しそうに笑ったらどれだけ引き立つかと思うのに。
 横には小さなお嬢ちゃんが立って、何やら指差してはお母さん(顔も良く似
てるから、つまりそうなんだろう)に話しかけている。指差す方向を見ると。

「……あれ」
 ふっと不思議そうな声に顔を上げる。片帆が首を傾げながらお嬢ちゃんの示
しているほうを見ていた。
「何?」
「うん、あの人。ジャニスガレージの常連さん」
 あの店、案外県警の人が来ているらしい。
「良く知ってる人?」
「知ってるんだけど……何かねえ、橋本君も空帆ちゃんも、あの人のこと覚え
ないんだよね」
 
 改めて、その人を見る。
 確かに……何というか、普通の人である。例えば誰かに『こういう人』と説
明しようにも、説明するような特徴が無い。多分、どこに居ても違和感が無さ
そうで……
(そういうとこ、この子に似てる、のか?)
 片帆も……まあ、そこまで特徴が無いわけじゃないと思うけど、でもこの子
は異様なくらいどこに居ても違和感が無い。
 でも。

「覚えないって?」
「ほら、うち、サービスでお茶とか出すじゃない。だから店長から『一度聴い
たお客さんの好みはちゃんと覚えてね』って言われてるんだけど」
「……他の人は覚えないの?」
「うん」

 印象が無くて、どこに居てもでも違和感は無さそうで。
 非常に真面目そうな。

「ちなみに好みは、緑茶だったと思う」
「はあ」

 んなもん知ってもどうしようも無いんだけど。


 わあっと、突然のように歓声が上がった。向かいに立つ蓉子ちゃんが、握り
拳を胸元に引き寄せて、表情を引きつらせる。
 そして。

「お父さんっ!がんばって!」

 その声は、スピーカーからの声も喧騒も切り裂いて、凛と響いた。


時系列
------
 2006年4月23日

解説
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 真帆視点からの、武闘大会風景。第一試合。
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 てなもんです。
 ではでは。
 


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