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Date: Tue, 27 Jun 2006 15:29:30 +0900
From: Motofumi Okoshi <motoi@mue.biglobe.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29977] [HA06N] 小説『涙々絵図』
To: KATARIBE ML <kataribe-ml@trpg.net>
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Web: http://kataribe.com/HA/06/N/
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MOTOIです。
いぢられ大樹の日常、今回は茉莉菜さん編です。
例によってキャラチャからの整形ですが、多少の追加描写がありますので、
チェック宜しくです。
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小説『涙々絵図』
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登場人物
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小笠原大樹(おがさわら・だいき)
:いぢられ吸血鬼。意外に純情。
紅野茉莉菜(こうの・まりな)
:いぢり屋吸血少女。意外に涙もろい(のか?)。
ねむけざまし
------------
ここ、歓喜園ゲームセンターは、ゲーマーの間では語り草となっている場所
である。
やや市街地から離れた山の中にあり、広大な敷地内には、ゲームコーナーは
勿論、バッティングセンター、カラオケ、ボウリング場を併設し、24時間営業、
年中無休という、まさに総合アミューズメント施設である。
駅から遠く、自動車・バイクの利用が必須というデメリットもあるが、深夜
には山中の一角のみがまるで昼間のように明るくなり、その様子は圧巻の一言
である。
そんな巨大アミューズメントも、今は平日深夜ということで、比較的空いて
いる。
そして、その施設の中にある一台のベンチに、大樹は座っていた。
この場所、バッティングセンター裏の休憩所は、あまり人の通ることのない
穴場中の穴場で、常連客である大樹のお気に入りの場所のひとつであった。
「ふぅ……」
ゲームで疲労した体と頭を休める大樹。
安心したところで、今度は睡魔が襲ってくる。
いくら「夜の住人」である大樹でも、居眠りくらいはする(本人談)。
と、そこへ。
一人の少女がおもむろに大樹に近づき、大樹の隣に腰掛ける。
そして……大樹の手を取り、彼の指先をひとかじり。
大樹、驚いて飛び起きる。
「ぐわっ、何するんだっ」
「ねむそーにしてたから、こーすれば目さめるかなぁ、って」
と、その少女は悪びれずに言い、さらに別の指に噛み付く。
「〜〜〜〜〜っ」
声にならない唸りを上げる大樹。
「あれ、痛かった?」
「痛いっつーのっ」
「あぅ、ご、ごめんなさいっ」
「ったく」
大樹は、少女の手を振り払い、噛まれた部位を見る。
やはり血が出ていたので、吸血鬼の能力ですぐに傷を塞ぐ。
やはり、いつものように、少女――茉莉菜に吸血されていたようだ。
茉莉菜は、厳密に言えば吸血鬼ではない。
かつて、吸血鬼の研究から産み落とされた「人」と「吸血鬼」の狭間の種族
――封血の一族。
その末裔である茉莉菜は、時折、こうして大樹の血液を吸っている。それが
完全なる吸血鬼への変貌を招いていることも知らずに……。
うるうる
--------
大樹が、茉莉菜のほうに視線を戻すと。
「……」
茉莉菜は、押し黙ったまま、なんと目に涙を浮かべているではないか。
女の子を泣かせて平気なほど図太くはない大樹、やたら慌てる。
「って、泣くなよっ」
「だ、だってぇ」
大樹は、涙ぐむ少女に気の利いた言葉をかけられるほど、器用ではなかった。
大樹がなんとか話題を変えようと思考を巡らせていると、茉莉菜のほうから
大樹に声を掛けてきた。
「でも、目、さめたでしょ?」
「あ、ああ、覚めたから。だから泣くなよ」
「それなら、よかったー」
不意に、大樹の手をぎゅっと握る茉莉菜。
「!?」
突然の茉莉菜の行動に、言葉を失う大樹。
「大樹くんになにかあったらワタシのせいになっちゃうー」
と、茉莉菜は手を握る力をさらに強める。
「いや、あの、えっと、あの、その、うーん」
そんな茉莉菜への照れからか、思いっきり言葉がぎこちなくなる大樹。
「それに……」
「そ、それに?」
「おいしい血、もらえなくなっちゃうー」
「結局それかーっ」
結局は、自分よりも血液の方が大事なのか。
大樹は、もし目の前にちゃぶ台があったなら、思いっきりひっくり返したい
心境だった。
しかし、茉莉菜は悪びれずに言葉を続ける。
「それ以外に、大樹くんに、なにがあるの?」
「……」
もう、怒りを通り越して、がっかりするしかない大樹だった。
ふたりでうるうる
----------------
「俺ってマリナちゃんの餌かよ……」
何気なく発した大樹の言葉に、今度は茉莉菜のほうが動揺する。
「ま、まりなちゃん?」
親以外の男にちゃん付けで呼ばれたのは、初めてであったから。
実のところ、大樹は年下の女性はみんなちゃん付けで呼ぶのだが。
しかし、茉莉菜の動揺は止まらないようで。
「な、ど、どういうっ………」
今度は、茉莉菜が言葉を失いかけている。
当の大樹は、がっかりした状態から立ち直れていないようだ。
「血、吸いすぎちゃった?」
心配になって大樹に尋ねる茉莉菜。
「ぁ〜?」
と、気力のない返事をする大樹。目からはギャグ漫画の如く涙を流している。
茉莉菜、これを肯定と受け取ったようで。
「ご、ごめんなさいごめんなさいゴメンナサイっ」
と、大樹に対して激しく後悔と謝罪の念を示す。
「……はっ」
と、驚いたのは大樹。
「え、えっと」
動揺を隠すために涙を拭き、無理な笑顔を浮かべると、
「ま、まぁ、気にすんなよ、うん」
と、茉莉菜の動揺を鎮めようと、声を掛ける。しかし。
「ううっ」
と、またも目に涙を浮かべる茉莉菜。
「だーっ、泣くな、泣くなってばっ」
うるうるする茉莉菜と、おろおろする大樹。
傍から見れば、女を泣かせる酷い男に見えることは間違いないだろう。
そして、かじかじ
----------------
「……あーもうっ」
いたたまれなくなった大樹、もうほとんどヤケになって、
「血、吸っていいからもう泣くなっ」
と言うと、茉莉菜はとたんに笑顔を取り戻して、
「わぁい」
と、再び大樹の指に噛み付く。
茉莉菜に言わせれば、大樹の血はほのかに甘くてかなりの美味……らしい。
そんな茉莉菜に、さらにがっくりと来る大樹。
「マリナちゃん現金だよ……」
吸われながら、うなだれている。
「だ、だいじょうぶ?」
「あー、血の方は大丈夫だから気にスンナ」
「気にしているのは血のほうじゃなくってっ」
「ん?」
「大樹くんのほうっ」
思わず、指を噛む力を強めてしまう茉莉菜。
「いでっ」
思わず、大樹の表情が歪む。
「もー、心配しちゃうじゃないかーっ」
「いだだだだだだっ」
マリナちゃん、言ってることとやってることが全然違うぞ!
……と、大樹は言いたかった。
そんな大樹の様子を察してか、今度は噛んだ場所を優しく舐める茉莉菜。
「あまり心配かけさせるなーっ」
「だーっ、心配って誰のせいだ誰のっ」
思わず、大きなリアクションで反論する大樹。
しかし、やはり茉莉菜に悪びれる様子はなく、
「……がんばれ」
と、大樹の肩をぽんぽん、と叩く。
「がんばれ、って」
呆れる大樹。それでも茉莉菜は悪びれず、
「応援しているからね」
と、肩をぽんぽん、と叩く。
「……ありがとな」
やっぱり呆れる大樹。心の中ではやはりギャグ漫画のような泣き方をしてい
た。
「……もう、帰る」
どっと疲れた大樹は、ベンチから立ち上がり、駐輪場の方へ歩いていく。
「まったねーっ」
元気いっぱいの様子で、手を振って見送る茉莉菜。やはり、悪びれた様子は
かけらもない。
結局のところ、「いつも通り」で済んでしまうやり取りが、そこにあった。
時系列
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2006年6月頃(平日深夜)
解説
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「いつも通り」にいぢられる大樹、いぢる茉莉菜。
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