[KATARIBE 29970] [HA06N] 小説『淡緑の影』その5

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Date: Sun, 25 Jun 2006 01:04:55 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29970] [HA06N] 小説『淡緑の影』その5
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年06月25日:01時04分55秒
Sub:[HA06N]小説『淡緑の影』その5:
From:久志


 久志です。
何とか続けよう『淡緑の影』
細切れですが、その5

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『淡緑の影』その5
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登場キャラクター 
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 坂口かほる(さかぐち・かほる)
     :吹利に引っ越してきたイラストレーターのお姉さん。
 東治安(あずま・はるやす)
     :吹利県警警備部、公安の人。2000年当時巡査。二十半ば程。

待ち伏せ 〜坂口かほる
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『男の人?……いえ、お見掛けしていませんが?』
『え、貴方が来たのは見ていましたが。男の人、ですか?』
『いえ、見ていませんが。』

 入り口の守衛さんも、受付の司書のおばさんも、書架整理で館内を見ている
はずの男性職員も。
 誰一人、あの人を見ていない。
 でも、そんなはずはない。あの人はちゃんとあの図書館にいて、その場に溶
け込むように佇んでいて、長い指先で静かにページを手繰っていて。
 絶対に幻なんかじゃなかった。

 ***

 翌日の日曜日の朝。
 目を覚ましてからすぐに朝食の支度を済ませ、まだ寝ているみはるの顔をち
らと見てから身支度を整えて家を出た。
 朝まだ早い時間、開館時間はまで三十分近く時間がある。

『まるで、姿なきものってとこね』
『それか図書館に住む新種の座敷童かもしれないわね』

 彼が姿なきものでも新種の座敷童でもないならば、必ず入り口を通るはず。
あの人が今日図書館に来るという保障はなにもない、けど。それでも。
 時計を見る、開館時間まで後十分ほど。入り口の守衛さんが不思議そうな目
でちらちらこっちを見ている。無理もないけれど。図書館で朝一番から開館を
待つ人なんて早々いない。
 あの人、今日は来るかしら?


視線 〜東治安
--------------

 見られている。
 それは本来あるべきことではないはずで。

 朝、三月はじめといっても午前中の時間帯の気温は肌寒い。春物コートの襟
元を寄せて歩いた先、通いなれた図書館入り口の前に佇んでいた姿。

 淡い緑色の影。
 
 図書館の入り口をくぐり、徐々に空調の効きはじめた室内でコートを脱いで
腕に掛けた。自然に振舞っているつもりで、どこか落ち着かない自分がいる。
何故、彼女はなぜそこにいたのだろう? 誰かを待っていたのだろうか。

 彼女。今までも何度か顔を会わせているはずなのに、淡い緑の影に覆い隠さ
れてその姿を思い描けない女性、私の記憶を辿れなくさせる。
 最初に出会ってから数えて彼女にあったのは三回、いずれも午前中の図書館。
年の頃からいって二十代前半、雰囲気や立ち居振る舞いから察して学生には見
えない。かといって肌も化粧慣れした感じはなく生活もさして荒れている風で
もなく、夜の職業や夜間飲食業に従事しているようにも見えない。推測するに
比較的時間に自由がきく、もしくは自宅でできる職種である可能性が高い。
 右手の中指には小さなペンだこのようなもの、小指の爪の先が少し削れて微
かに黒ずんでいる。察するに鉛筆やシャープペンで描かれた上に手をのせて置
いたことにより小指の爪先が削れて跡がついたものと思われる。また、彼女が
時折、書架や窓の景色を眺める際に見せる顔。単に眺めているという雰囲気で
はなく、仔細に観察し思考を巡らせているように見受けられる。
 空想力や思考力が求められ、かつ恐らくは自宅か職場があるにしても時間に
縛られない。小説家、ライター、イラストレータ、漫画家といった類だろうか。

 それにしても不可解な点がある。
 彼女はどうして、私の存在に気づいたのだろうか?

 自分の特技として、自身の存在を気づかれないこと、その場に溶け込むこと
に関しては並々ならぬ自信があった筈だ。この職についてからは更に磨きをか
けてきた技術を彼女はいともあっさりと看破したのだ。

 どこか落ち度があったのだろうか。
 もしくは彼女が非常に鋭い観察眼を持っているのか。

 どうして、私はこれほどに動揺しているのか。


時系列 
------ 
 2000年3月下旬
解説 
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 待ち伏せするかほるさんと動揺している東っちです。
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以上。

 とりあえず書く習慣を取り戻そう。


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