[KATARIBE 29967] [HA06N] 小説『増血覚醒』

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Date: Thu, 22 Jun 2006 16:57:38 +0900
From: Motofumi Okoshi <motoi@mue.biglobe.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29967] [HA06N] 小説『増血覚醒』
To: KATARIBE ML <kataribe-ml@trpg.net>
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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MOTOIです。
いぢられ大樹、増血の力が目覚めます。
これで心置きなく吸われることができます(マテ

基本的にキャラチャからの整形ですが、冒頭に少し台詞を加えていますので、
チェックお願いします。

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小説『増血覚醒』
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登場人物
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 小笠原大樹(おがさわら・だいき)
  :いぢられ体質の吸血鬼。新たな能力(?)に覚醒する。
 九折因(つづらおり・よすが)
  :人形のような吸血鬼。体は小さく態度は大きい。
 豊秋竜胆(とよあき・りんどう)
  :カフェバーを経営する吸血鬼。妹属性・姉属性の二面性を持つ。
 キューブ・クリスタル
  :カフェバーに居座る謎生物。発言はできないが会話はできるようだ。


いらっしゃいませ
----------------
 カフェバーGARDEN。吹利のとある商店街に位置する、小さな店である。
 最近になってできた店だが、制服が可愛いということで、割と評判も良い。

 ただ、この店の店長には、他の店員も知らない秘密があって。

「昨日の彼の血、おいしかったなー……結局メルアド聞きそびれちゃったのは
惜しかったなー……うぅー」

 店長・豊秋竜胆は吸血鬼である。
 昨日、久々にヒトの生き血を吸った彼女は、ご機嫌そのものであった。

 そんな感じで、竜胆が従業員控え室で一人回想していると。

『お客様が来ているようです』
 という文字が、竜胆の目の前の空間に浮かぶ。

「あー、きゅーちゃん……わかった、すぐ行くから」
 竜胆がそう言うと、控え室から、透明な不定形の生物が外に出て行く。
 きゅーちゃんと呼ばれたその生物……正式名キューブ・クリスタルは、この
カフェバーに居ついてしまった謎の生物であり、だれもその正体を知らない。
 ただ、害はないようなので、ほとんどマスコット状態となっている。

 キューブの後に続いて、竜胆が店舗スペースに出てみると、そこには男性客
が一人。
 竜胆には、その客に見覚えがあった。

「いらっしゃいませー。お一人様で…あ…」

 それは、昨日自分が血を吸った青年。
 そして、これからも、自分に生き血を提供してくれる、ステキな青年……と
竜胆は(勝手に)思っている。

 だが、その青年……小笠原大樹は、どこか元気がない。血色も悪い。

「一人っす……ども」
「…ども…どうぞお好きな席におかけくださいー」

 竜胆の言葉に従い、適当な席に座る大樹。やはり、元気がなさそうである。
 ちょっと心配になった竜胆は、お冷を持ってくると、
「…元気ないですね?」
 と、声をかける。
「……まー、いろいろあって」
 大樹が答える。

 軽い罪悪感を覚えた竜胆が、小声で大樹に尋ねる。
「昨日吸っちゃったから?」
「それもあります……それだけじゃないけど」
「そっかー。ちょっと責任感じちゃったけど、それだけじゃない、ならいっか」
 何か言いたそうな大樹だが、気力が持たないらしく、それ以上は話さなかっ
た。


乱入者
------
 と、突然。
「そういうことですか」
 大樹の背後の影から、一人の少女が姿を現した。

「げっ」
 と、これは大樹の驚いた声。
 声には出さないものの、竜胆とキューブも一様に驚いているようだ。

「い、いらっしゃいませっ」
 いつの間に、と思いながらも、そこは店長、とっさに商売モードに切り替わる。
 しかし、その少女……九折因は、周りなどお構いナシに言葉を続ける。

「山犬はん、そりゃ情けなくて言えませんよねぇ」
 大樹の顎をつまみ自分の方に向ける因。大樹は、
「あぐ、いだいいだい」
 と、抵抗する力もない。

 一方の竜胆は、お人形さんみたいで可愛い少女だなぁ、と思いつつ、二人の
様子を見守っている。
 が、因の矛先は、すぐに竜胆へと向かった。

「どこのどなたか存じませんけど、わけ聞かせてもらいましょうか」
 因の眼が妖しく光った……ように感じた竜胆。
「は、はいっ、わたくしでしょうか」
 明らかな棒読みである。

 因は、大樹をそこらへんの椅子に適当に投げるように座らせると、竜胆を品
定めするかのごとく、周りを一周。
 それをなんとなく目で追う竜胆、そして後ろで隠れるキューブ。

「わ、わけと言われましても」
 大樹の扱い方にびくびくしながら、なんとか答える竜胆。

「まあ、山犬はんがこんな美人捕まえて同族に引き込めるとも思えへんし、大
方ながされるままに野良吸血鬼に血とられたいうとこなんやろうけど……」 
 因は、あくまで自分のペースを崩さない。というか、自分の思い込みを貫き
通している、と言うべきか。
 一方の竜胆は、そんな誤解に呆れながらも、美人と言われてちょっと嬉しそ
う。

「ちょっと、その人は悪くないんだから、あまり荒く……」
「だまっといて下さい」
 大樹の精一杯の横槍は、あっさりと因に落とされる。
「これでもこのトーヘンボクのお目付役やさかい、はぁそうですか言うて見逃
すこともできひん」
 大樹、言われ放題。

「そ、そうでしたか、これは失礼を…あ、わたしこういう者でして」
 竜胆は、とりあえず、自分の名刺を因に渡してみる。ただ、「竜胆」という
名前は相当珍しい。因でなくても、初対面の人はまず読めないだろう。
「……とよ、あき……りゅう、ぎも? はぁ。強そうな名前ですけど。ヒトの
方の肩書きなんてどうでもええねん。どこの血族の方か教えてください」
 人一倍「一族」意識が強い因、竜胆に詰め寄る。竜胆は困惑した。
「りゅ、りゅうぎもじゃなくて、りんどう、です…」
 いつものように読み間違えられて、ちょっと凹み気味の竜胆。

「えっとですね…」
 竜胆は仕方なしに、自分の縁者である無道家について因に説明して聞かせる。
 初めて聞く話も多かったが、自分は博識だと見せたい因は、知ったかぶる。

「し、しってますよ? そう、最近はそうも読むんやったね。ね、山犬さん。」
「ね、って言われても、俺だって彼女の名前今はじめて聞いたんだけど」
「ちゃうねん、どうでもいいねん。りんどうとか。無道。無道──聞いたこと
はあります」
「そ、そうですか、やっぱ有名なんですね」
 そういえば相手の名前も聞いていないな、と思いつつ、愛想笑いする。

「その無道の縁者がなんでまたうちの下っ端の血を?」
 核心に迫り始めた因の言葉に、竜胆の答えは……
「いや、それは…『吸うならおれの血だけ吸え』って申し出てくださいまして」
 ……相当、自分に都合のいい解釈である。

 この言葉に、詰め寄っていた因も、顔を赤くして一瞬黙ってしまった。
 後ろでは、混乱したキューブが、出鱈目な模様を映し出している。
 
「はぁ、それはまた──」
「それは拡大解釈でしょーがっ」
 がたっ、と立ち上がる大樹。こう誤解されてはたまったものではない。

 しかし、当の本人たちはお構いナシに話を続ける。
「それはじゃあ、私、お邪魔でしたね?」
「なんて親切な方なんだろうって」
「山犬さん。頑張ってください。この事は身内だけの秘密にしときますから」
「だから、そうじゃなくてっ」

 ふらっ、がく、すてん。
 
「あ、また倒れた」
 因の言葉通り、その場に倒れ臥す大樹。
 心配したのか、キューブがおしぼりを持って大樹に近づく。

「こんな貧弱なのに迫られても迷惑やんなぁ」
 キューブがおしぼりで大樹の顔を拭いてやる。その横で、大樹のことを足で
つつく因。いずれにも、大樹のリアクションはない。

「えっと…この人、起こしてあげても…? 倒れられたままですと、うっかり
踏んじゃうかもしれないので…」
「ほな、そちらにお任せします。アホやけど悪いひとやないんでよろしう」
 深々と礼をすると、因はさっさと店を出て行ってしまった。アホと言われた
大樹だが、やはりリアクションはない。


そして覚醒
----------
 舞台は、再び従業員控え室。
 フロアをアルバイトに任せ、竜胆とキューブはソファで寝ている大樹の横に
立っていた。
 ちなみに、大樹をここまで運んだのはキューブである。

「…いっちゃった…あとでお返しにあがります…って言う前に」
 ふにふに、と竜胆に寄り添うキューブ。どうしようか、と言っているようだ。

 と。
「人をモノや愛玩動物みたいに言わないでくれません?」
 意外に早く、大樹が起き上がった。
 その表情は健康そのもの、店に来たときより血色もよくなっているようだ。

「とりあえず今晩は預かって…っておはよう?」
 急に起き上がった大樹に、竜胆も驚く。
「もう起きて大丈夫…?」
「なんか知らないけど、急に体調よくなりまして」
 その言葉通り、大樹はぴんぴんしている。

「…寝たら治るの?」
「そんな単純なもんじゃないはずなんですけどねぇ」
「そっかー。でもその顔色なら…もう一回吸っても平気…?」
 上目遣いで訴えるように大樹を見る竜胆。どうやら、昨日の大樹の血の味が
忘れられないらしい。

「えぇ!? マジっすかぁ」
 さすがに昨日の今日は勘弁、といった感じの大樹の表情。さすがに、竜胆も
悪いと思ったのか、撤回する。
「う、うそうそ。冗談冗談。 それより…元気なんだったら、店終わってから
案内して?」 
「案内……って?」
「さっきの子。ご主人様なんでしょ? 謝りにいかないと…」
「ちょっと、なんであいつがご主人様じゃなきゃいけないんですか!」
 竜胆の言葉に、温厚な大樹にしては珍しく興奮する。

 ひとつ断っておくが、因は決して大樹の主人などではない。むしろ、大樹の
方が、組織では先輩なのだ。
 もっとも、客観的に見て、大樹の方が目下に見えてしまうことは否めない。
おそらく、二人の性格によるものが大きいのだろう。

「違うの? そんな感じに見えたんだけど…」
「どこがっ……」

 そのときだった。
 大樹の鼻から、勢い良く赤い液体が飛び出す。誰がどう見ても鼻血だ。
「どこが…って全部? 小さくて可愛いご主人様だなあって思ってたんだけど?
って、鼻血とかもったいない!」
 鼻血出すくらいなら吸わせろということだろうか。竜胆、思わず「もったい
ない」などと口走ってしまう。
 当の大樹はそれどころではない。あわてて上を向いて鼻を押さえる。

「ああ、ほらもう、これ詰めて」
 テーブルに使用する紙ナプキンをこよりにして、大樹の鼻の穴に突っ込む。
「すびばせん……」
 大樹はそれに素直に従う。
「うー、何だ? この体になってから鼻血なんて一度も出したことは……」

 そう、吸血鬼になってから、大樹は鼻血など出したことはない。
 しかも、大樹の顔色は、血色が悪いどころか、今は真っ赤に紅潮している。

「とりあえず、座ってて。コーヒー淹れるから。んで、ご主人様んとこに案内
してもらうんだから、おとなしくしてて?」
「だーかーらーっ!」
 再び興奮する大樹。と同時に、鼻血だくだく。
「おとなしくするっ! でないと…また吸っちゃうよ?」
 微笑を浮かべる竜胆に、大樹、
「うー」
 がっくり。

 一方のキューブ。そんなやり取りを見て、竜胆が吸血鬼だと気付いたか。
 そのときキューブが映し出した映像は、立方体にストローをさし、吸い尽く
す竜胆の姿。
 そして……さきほどの混乱時に見せた、出鱈目な模様。

 そして、
『お願いです。私は吸わないで』
 という、懇願のメッセージを竜胆の前に出す。
 竜胆、呆れた様子で、
「…それはないから安心して」
 と、キューブに声をかける。
 キューブ、落ち着いたらしい。

 再び、大樹のほうに向き直った竜胆。
「…血色いいなあ…っといけないいけない、勝手にはまずいのだ…」
 どうやら大樹、因の両方に気を遣っているらしい。
 しかし、
『血圧が異常上昇しています』
 というキューブのメッセージに、我慢できなくなったようで。

「…(ごく)…ごめん、吸っていい…?」
 ……意思の弱い店長である。

 当の大樹も、血液量が異常に増えているのには気付いていた。
 このまま鼻血として流れるくらいなら、いっそ……そう考えた大樹、
「むしろお願いします、なんか血の気が多くて」
 ……血の気が多いという表現が正しいかどうかは置いておくとしよう。

 竜胆は、嬉々として、しかし一応回りの人目も確認すると、
「…いただきます」 

 数分後。
「あ゛〜、落ち着いた……」
「ごちそうさまでした」
 竜胆に血を吸われたおかげで、顔色も普通に戻り、鼻血も止まった大樹。
 単純な体である。

「おっかしーなぁ、吸血鬼なのに鼻血なんて」
 腑に落ちない顔をする大樹だが、とりあえず見せに来た目的を思い出したら
しく、竜胆に尋ねる。

「とりあえず……せっかく来たんでメニューもらえます? 一応腹は減るんで」
「あ、うん、はいこれ」

 メニューを見て、何を食べるか考える大樹だった。
 ……って、ここ、従業員控え室だってこと忘れてません?


時系列
------
 2006年6月頃


解説
----
 大樹、増血に目覚める。因と竜胆、初対面。キューブ、混乱中。

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