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Date: Thu, 22 Jun 2006 13:06:07 +0900
From: Motofumi Okoshi <motoi@mue.biglobe.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29965] [HA06N] 小説『誤解三昧』
To: KATARIBE ML <kataribe-ml@trpg.net>
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MOTOIです。
いぢられ大樹の日常、第2弾。キャラチャからの整形です。
なお、冒頭に少し台詞を追加していますので、チェック宜しくお願いします。
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小説『誤解三昧』
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登場人物
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小笠原大樹(おがさわら・だいき)
;いぢられ吸血鬼。コードネーム山犬。
九折因(つづらおり・よすが)
:思い込みの激しい吸血鬼。コードネーム紋白。
SRGにて
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ネオゴシック風の内装に、テーブルに飾られた硝子の薔薇。
非常に格調高い喫茶店の中央のテーブル席に、Tシャツ短パンという、どう
見てもその場に似つかわしくない青年が座っていた。
ここは、吹利の吸血鬼たちの社交場であるSilver Rose Garden。
その青年、小笠原大樹も、当然のごとく吸血鬼である。
吸血鬼は格調高い生物……よく言われることだが、大樹のように当てはまら
ない例もあるらしい。
「何してはるん? 山犬さん」
「あぁ、ヨス……いや、モンシロちゃんか」
モンシロ――紋白蝶の「紋白」である――と呼ばれた少女、九折因。彼女も
また吸血鬼である。
上品な京言葉、長く綺麗な黒髪と、大樹とは似ても似つかぬ格調高さである。
もっとも、和服に扇子と、場に似つかわしいかと言われると疑問が残るが。
ちなみに、山犬というのは、この場における大樹の呼称である。
「見ての通り、飲んでるんだよ」
「また混ざり物ですか。そんなものよう飲まんわ」
「放っといてくれ、体質なんだから」
大樹は、この因という少女がどうも苦手である。
まず育ちが違う。考え方も違う。
そのくせ、違うものをこちらにも強制したがるものだから、基本的に自由で
いたい大樹にはたまらない。
「そういえば、キンメ君は? 最近見ないけど、モンシロちゃんと一緒じゃな
いの?」
キンメ君……金眼とは、やはり彼らの知り合いの吸血鬼の呼称である。かつ
て、因とともに暮らしており、因もなついていた……ように見えた。
「いやいや、金眼さんどっかいってしもたし」
あっさりと返す因。
「今頃どこぞの異国で太陽に焼かれた挙げ句豚の餌や」
あっけらかんとした笑顔でかつての恩人に対し毒々しい言葉を発する因に、
恐怖を感じる大樹。
大樹は思う。人間社会で生きていく以上、もう少し人間らしい感情を学ばせ
た方がよいのではないか、と。
そんな大樹の心理を見透かしてか、くるりと振り向いて、
「あたしの顔になんかついてますか? ヤ・マ・イ・ヌ・さん」
と因。ある意味、人間らしいのだが……
「な、ナンデモアリマセン」
大樹にとっては、怖いだけである。
口論に
------
「豚の餌はんの分の穴は山犬さんが埋めなあかんのやから、しっかりしてくだ
さいよ」
「しっかりといわれても……あ、いや、善処します……」
「ほんとにわかってはるの? とりあえず今までみたいにぷらぷらせんと、も
っとこっちにも顔出すようにお願いします」
「わかってます」
繰り返すが、基本的に大樹は自由でいたいという思考の持ち主である。
因の説教は迷惑なことこの上ないが、今の大樹に逆らう気力は、ない。
突如、
「あら、血の気引いてるやん。どないしたん?」
と、因が聞いてきた。
「何でもないって。いつもこんな感じだろ、俺」
確かにいつも血色の悪い大樹だが、今日はいつにも増して悪い。
実は、大樹はここに来る前に、別の吸血鬼に血液を吸われている。
いや、今日ばかりでなく、最近は吸血鬼たちに気に入られてしまっているよ
うで、さまざまな吸血鬼たちにしょっちゅう吸血されている。
相手が悪い吸血鬼であればさすがに逆襲に出るのだろうが、大樹の周りにい
るのは、いずれも人間社会に溶け込もうとしている者達ばかり。
そんな相手に対して断れないのが、お人よしの大樹なのだ。
そんなことを知らない因、一応は心配しているようで。
大樹の首筋に手を当て、
「血圧さがっとる。大きな怪我でもしはった?」
と問う。
「別に何でもないってば。たんに吸い足りないだけだろ、最近生で吸ってない
から」
大樹は答えるが、納得しない因、大樹の体中をじーっと見回したり、首筋を
ペタペタと触ってみたり。
「なにすんの」
と、その触る手を払う大樹。せめてもの抵抗である。
「ま、ええわ。誰かに襲われたってふうでもなし。勝手に仲間増やしたり増え
たりするほどアホでもないと思いますし──」
「誰がアホだよ」
人の良い大樹も、さすがにちょっとムッときたようだ。
と、突然真顔になって、
「仲間つくりはったの?」
と問う因。
「俺が作ったんじゃないやい」
と、はっきり否定すればいいのに、うっかり言葉のアヤを残してしまう大樹。
この言葉で、因の表情が一層険しくなる。
「ちょっ、大事なことやで。そこ座りなさい!」
「もう座ってんだけど」
「揚げ足とんな!」
因、手に持った扇子を投げつける。見事にヒットし、たじろぐ大樹。
「ちゃんと説明してください。ことと次第によっちゃSRAの沽券にかかわるやん。
あたしの元いた血族やったら勝手に眷属増やしたりしたら追放もんやで」
この因という吸血鬼は、育ちのせいか、人一倍「掟」「沽券」といったもの
を重視している。
繰り返すが、大樹は自由でいたいという志向が強い。「掟」「沽券」などと
いう言葉を使った説教は、耳障りなだけだ。
そんな因に、大樹もだんだんイラついてきたようである。
「だから増やしてないっつってんだろ」
しかし、この因という吸血鬼は、相当思い込みが激しいようで……
「誰が増やしたのか聞いてるんや!」
どうも、誤解したまま突っ走ってしまっているらしい。当然、大樹には迷惑
な話だ。
ついには、口論となり……
「誰も増やしてないっての!」
「うぁー。もう! 山犬さんが何言うてるのかさっぱりわからん!」
「どっちが!」
思わず立ち上がる両者。ところが。
ふら、よろ、ばたん。
大樹のほうが、突如、気を失って倒れた。
「もうええです。何隠してるのか知らんけどあたしは面倒みきれんから──
え?」
さすがの因も、突如倒れたことに驚きと戸惑いを隠せない。
「──大丈夫? ねえ、山犬さん?!」
がくんがくんと、大樹の体を揺さぶる。大樹の反応はない。
後でわかったことだが、大樹の体内には、ほとんど血液が残っていなかった
とのことである。
その後、喫茶店の奥に運ばれた大樹が眼を覚ますのには、翌日の夕刻までの
時間を費やしたという。
時系列
------
2006年6月頃
解説
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『吸血邂逅』の続き。大樹と因、同じ吸血鬼でも考え方はまるで違う。
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続きます。
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