[KATARIBE 29964] [HA06N] 小説『Start Dust』

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Date: Thu, 22 Jun 2006 02:04:21 +0900
From: "Sakurai.Catshop" <zoa73007@po.across.or.jp>
Subject: [KATARIBE 29964] [HA06N] 小説『Start Dust』
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こんばんは、Catshop/桜井@猫丸屋です。

 ふと思いついて、チャットで一発書きしたものを清書してみました。

 お時間などございましたら、ご笑覧くださいませ。

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[HA06N] 小説『Start Dust』
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登場キャラクター
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桜木達大(さくらぎ・たつひろ): http://kataribe.com/HA/06/C/0365/
 通称は若旦那、その道での通り名は猫回し。
 言霊を通じて、森羅万象あらゆるものと意志を交わし、時に呪を括る──
が、根っこは小市民的なサラリーマン。


1. 吹利市内、繁華街
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 かつ、こつ、かつ、こつ──

 夜空に撒き散らした悠久の星、街路に鮮やかに映えるネオンの星。
 どちらに視線を向けるでもなく、少し気取った足取りで達大は歩いている。
衣装は、時代錯誤の夜会にでも向かうような真っ白なスーツ。
 チタンフレームに細長いレンズの眼鏡。
 普段、掛けない眼鏡が印象を変えている。

 かつ、こつ、かつ、こつ──

 まだ宵の口の頃、ほどよく酔って店を出た連中が二次会、三次会へと繰り
出していく時間だ。
 だというのに。
 一歩、また一歩と足を進めるほど雑踏がまばらになっていく。
 しまいには、すっかり人の気配さえ消え去って──

 ぐにゃり、と一瞬だけ世界が歪むような違和感。

 うふふ──ふふ──

 足を止め、胸ポケットから取り出した煙草に火を点ける。
 すぅっと吸い込み、ふわりと紫煙を吐き出す。
 柄じゃないんだけどな、と小さく呟きつつ。ゆっくりと右に、ついで左に
視線を這わせ、中央に戻れば──

「真っ白なスーツ、とっても素敵ね」

 真っ赤なカクテルドレスの女が、媚びるような笑みで言った。ルージュを
引いた薄い唇が、柔らかく歪んでいる。

「あなたのドレスもなかなか素敵ですよ」

 達大はゆっくりと煙草を口元から離して、薄く笑んだ。

「わたし、赤が好き。華やかで、人の目をひきつけて離さない赤が好き」
「あなたのような美人が着るとなおさら、ですね」

 ふふ──うふふ──

「ありがとう。あなたは──あなたは、赤は好き?」
「えぇ。あなたを魅力的だと思うくらい同じくらい」

 頷いて、また煙草をくわえる。くわえ煙草、煙いから好きじゃないんだけど
なぁとは声に出さず。

「でも、まだカクテルドレスで外を歩くには早いですよ。寒いでしょう?」

 気遣うようにジャケットを脱ぐ。

 うふふ──ふふ──

「優しいのね──でも、優しい男は嘘つきだわ。みんな、みぃんな」
「滅相もない。心から、真実ですよ」

 くつろいだ笑顔で、ジャケットを手に近づいていく。

「わたしね、白はキライなの」

 媚びたような笑みのまま、女はハンドバックを後ろ手に。
 疑問を覚える様子もなく、達大は笑顔のまま一歩、二歩。

「だから、おそろいの色にしましょう。ね、いいでしょう? あなたも赤は
好きだもの。ね?」

 オソロイノ アカイ アカイ アカイ

 後ろでに隠したナイフが達大の柔らかい腹にめがけて。

「申し訳ありませんが赤いジャケットはいささか派手に過ぎて」
「──ッ!?」

 ふわっと突き抜けた煙のような手ごたえに、女が目を見開く。その背後から
達大は柔らかくジャケットをかぶせ耳元で囁く。

「それに、あなたのドレス、ホントは赤くないですよ?」

 ジャケットの上から抱きしめるように──達大の腕は女を捕らえた。

「いましめよ、いましめよ、けかれなく、きよらかに、ましろき、まわたの
ころも」
「イヤッ──イヤッ──」

 ささやくように言紡ぐ達大の腕の中、女が幼女のように首を振ってもがく。
そのドレスの色は、赤というにはあまりにも濃く、暗く、黒く──

「ゆらゆらと、ゆるへ、しろきけふりの、かすみなる、はふりのとはり」

 オソロイノ アカイ アカイ アカイ
 
「だって、あの人がいけないのよっ、わたしをうらぎって、まほなんかとッ、
おそろいの白い服、真っ白な笑顔で、楽しそうに、腕を組んでッ」

 達大の腕に抱かれたまま、駄々をこねるようにもがく。

「それで?」
「わたし、あんなに言ったのにッ。白なんかキライってッ、まほなんかキライ
って」
「それで?」
「なのに白いスーツなんて着て笑うからッ──だからッ、だからッ」

 アカイ アカイ オソロイネ ワタシタチ オソロイネ

「それで?」
「うふふ──綺麗だったわ。とっても暖かかった──あのひとね、嬉しそうに
びくんびくんって──わたしの腕の中で──」
「それで?」
「隠してたナイフで、あの人を──だって、白はキライだものッ、でも赤い
ペンキが見つからなかったんだものッ」

 アカイ アカイ オソロイネ ワタシタチ オソロイネ

「それで?」
「真っ赤なサイレンがわたしを煩く照らして──ぱぁんっ、て音がして──
それで──それで──」

 うふふ──あははは──おそろいね──わたしたち、おそろいね──

「あなたは、死んだ」

 かしゃん

「あなたは死にました。駆けつけた県警が──動転した若い警官が誤って撃っ
た弾丸に胸を貫かれて」

 努めて冷たく、突き放すように。

「うそ──」
「嘘だと思うなら胸を見てごらんなさい。ふちの焦げた穴が開いているでしょ
う? ぽっかりと」
「うそ──」
「すぐに救急車が駆けつけて彼は助かりました。残念ながら、あなたは助から
なかったけれど」
「うそ──」
「彼、ずっと後悔してましたよ。それで、あなたを救って欲しいって」

 吐き気のする、偽善めいた自己満足。
 頼まれてノコノコと首を突っ込んだ自分に嫌気が差す。

「うそ──うそよ──うそ、うそ」
「もう、十分でしょう? 痛くて、苦しくて、寒くて、寂しくて──」
「うそ──」

 これ以上、情を持っていかれないように。溜息を隠すように。
 ゆっくりと大きく煙草を吸い、細く長く吐き出す。

「しろく、なおく、あかるく。ふるへ、ゆらへ、しろきけふり、ゆらゆらと
あめあかれ、あめのはしたて、ふわふわと」

 振るえ、揺らえ、白き煙、ゆらゆらと天上がれ、天の橋立て、ふわふわと。
 言霊で煙を括る。

「煙に触れてごらんなさい」
「──」

 促され、おそるおそる揺れる紫煙に手を伸ばす。
 達大の口から紡がれた紫煙は、口元にくわえたままの火先から立ち上る煙と
繋がってゆらゆらと空へ伸びていく。

「けふり、ゆらふ、しらしらとあめのはしたて、もろもろのつみとけかれは、
ほさきにやかれ、ふるへ、ゆらへ、あめにはしたて、ゆらゆらとたまふるへ」

 煙り、揺らう、白々と天の橋立て、諸々の罪と穢れは火先に焼かれ、振るえ
揺らえ、天に橋立て、ゆらゆらと魂振るえ。
 言霊に括られた煙が、悠久の星の煌く天へと昇っていく。

「わたし──」

 女のつま先が、歩道のカラーレンガから浮き立つ。

「──ねぇ」
「はい?」
「赤い色、ほんとうに好き?」
「実は、派手すぎる色は少し苦手です。あなたには白の方が似合うと思います
よ」
「──うそつき」

 泣いた子供が笑った──そんな風に微笑んで。

「やっぱり、みんな嘘つきなのね。優しい男は、みぃんな嘘つきだわ」
「今度は騙されないようにお気をつけて」

 口元だけで苦く笑い、女を見上げる。
 情を同じくすれば自分が保たない。自己欺瞞のほか何も残さない。分かって
いても、ままならない。

 ゆらゆらと、煙は夜空に舞い上がって──
 ビルのきざはしに掛かる頃、すうっとたなびいて消えた。


時系列と舞台
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 2006年、まだ梅雨の明けない6月のある夜。
 少し前にニュースで世間を沸かせた吹利市内の繁華街にて。


解説
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 Sound Horizonの『Star Dast』にインスパイアされてチャットで一発書き
したものに手を加えたもの。
 ──いや、別にファンでもないし、カラオケで一度聞いただけなんですが。
妙に引っかかるものがあったのでした。


関連リンク
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   元ログ
   http://kataribe.com/IRC/HA06-01/2006/06/20060621.html#230000
   Amazon.co.jp - Elysion 〜楽園幻想物語組曲〜
   http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0007WZZI8/trpgnet0e-22
      ※ Star Dustを収録したアルバム

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