[KATARIBE 29958] [HA06N] 小説『吸血邂逅』

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Date: Wed, 21 Jun 2006 20:17:37 +0900
From: Motofumi Okoshi <motoi@mue.biglobe.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29958] [HA06N] 小説『吸血邂逅』
To: KATARIBE ML <kataribe-ml@trpg.net>
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MOTOIです。
久々のもの書き、シリーズ名「いぢられ大樹の日常」あたりでどうでしょう。

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小説『吸血邂逅』
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登場人物
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 小笠原大樹(おがさわら・だいき)
  :いぢられ体質の吸血鬼。世間的にはフリーター。
 豊秋竜胆(とよあき・りんどう)
  :妹属性の吸血鬼。世間的にはカフェバー経営者。


ごっつんこ
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 吸血鬼・小笠原大樹は、どこにでもいるようなフリーターの若者である。
 今日も、バイトが終わり、いつもの帰り道を歩いていた。

 途中、とあるチケット購入のため、帰り道から離れたコンビニに寄ろうと、
普段は真っ直ぐ進む十字路を左折する。

「あれ? ……おかしいな……どっかで曲がり間違えたか?

 どうやら、道を間違えたらしく、目的のコンビニが見つからない。

「だいぶ飲んだからなぁ……」
 スポーツバー「ファンタジスタ」の従業員は、何かと飲みたがりのようで、
大樹も、それにつき合わされていた。

 大樹は、普通に食事もするし、酒も飲む。当然、酒を飲むと酔いが回る。
 これは、吸血鬼としては特殊な部類に入るであろう。
 そんなわけで、軽く酔っ払っている大樹は、現在地を見失ったようだ。

 仕方なく、携帯で地図を確認する。
 携帯を操作しながらの歩行は、何かと事故につながりやすいもので。

 ゴン。

「あだっ」
「いたあああああ!」

 案の定、小さな十字路で衝突事故である。

「ん〜〜〜〜!」

 どうやら、自分よりも相手の方が被害が大きいらしい。
 痛みをこらえ、振り向くと……年の頃十七、八といった感じの少女が蹲って
顔を押さえていた。

「……えっと」
「…痛い…」
「……ごめん、大丈夫?」

 大樹の問いかけに、少女は首を横に振る。大丈夫ではないらしい。
「……うーんと」
 自分が一方的に悪いということは無いはずだが、相手の幼さもあって、大樹
はおろつくばかり。

「…めっちゃ痛い…収まるまで待って」
 相手の少女が、なんとか声を絞り出す。
「う、うん」
 素直な大樹は、その声に従って、その場に立ち尽くす。


軽いもめごと
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 数分の後。

「うー…ああ、血は出てない、折れてもなさそう…」
 相手にたいした怪我はなさそうである。
 ほっとする大樹だったが、次の瞬間、いきなり、

「つ〜気配消して歩くなー! 気づけないし!」
 相手が逆ギレ。
「別に気配消したりしてないって!」
 びっくりする大樹だったが、すかさず応戦する。

「うそつけー! 全然気配してなかったし!」
「そっちこそ気配ないじゃないかっ」
「そういう体質なんですー(ぷい)」
「なら俺もそういう体質なの」

 ひとつ断っておくが、軽くとはいえ酔っている大樹に気配を感じるもクソも
ない。
 典型的なヨッパライの喧嘩である。

 とはいえ、そこは優しさを捨てきれない大樹、喧嘩をしながらも相手を心配
していたようで……

「ほら、コレでも見て」
 飲み会の景品として貰った手鏡を少女に渡す。怪我した顔を見るのに使え、
という意味らしい。

「コレでもって、ごめん、鏡、自分のあるし」
 なぜか、少女は狼狽しているように見えたが、大樹は気付かない。
「いいから使いな、すぐには出ないだろ?」 
「そ、それは確かにそうだけど…じゃ、ちょっとだけ借りる…」

 少女は、右手で手鏡を受け取ると、それを見ながら怪我した場所をさすり始
めた。
 ……が、どうもおかしい。さするポイントが微妙にずれているようなのだ。
 もしかして、鏡がぼやけているのか? 大樹はそう思った。


正体見たり
----------
 鏡の様子を見ようと、後ろから鏡を覗き込むと。

「……あれ?」 
 思わず、間抜けな声を出す大樹。
 鏡は、鮮明に風景を映し出している。……風景「だけ」を。
 しかし、肝心の少女の姿は、鏡に映っていない。

 少女も、そんな大樹の間抜けな声に気付いたようで。
「ちょ、み、み、み、見た…?」 
 ひどく狼狽していた。

 鏡に映らない、真夜中に出歩く、そして気付かれて狼狽する少女。
 このスリーヒント(?)から導き出される答えは……

 自分と同じ、吸血鬼。

「あ、いや、その、べつに」
 白を切り通そうとする大樹だが、相手はそんな状況ではないようだ。
「…だから自分の使うって…ふー…ミラレタカラニハ…」

 まずい。大樹は本能でそう感じていた。
「映ってないとこなんかぜんぜん見てねーよ」
「みてんじゃん! あー、うっかりバレちゃった…」
「……えー」
 大樹、自爆。

「とりあえず…知られたからにはタダデハスマサネエ…うふふ」
「えーっと」
 大樹の本能は、「まずい」から「やばい」に変わる。
「とりあえず、さいならっ」
 背を向け、逃走。

「まてー!」
「まてといわれてまつやつがいるかーっ」
 当然のごとく、相手は追ってくる。

「いや、待ってもらわないと困るんで…」
 ずべしっ。
 派手に転倒する少女。

「ありゃ?」
 それを見て、大樹の本能から「やばい」が消えた。
 この子は近づいても大丈夫、と。
 後に、その判断が甘かったことを思い知るわけだが……


共食い?
--------
「もういやだー! なんで仕事終わってこんな目に…」
「あーあ」
 半べそをかく少女に、大樹はただ苦笑するばかりだった。

「ケガは治っても痛いのは痛い…」 
「おーい、大丈夫かー?」
「痛いです…」 
「ほら、つかまって」

 人を捨てきれない大樹は、吸血鬼の中でもひときわ優しい部類に入る。
 言い換えれば、人一倍甘いということになるのだが。

「ありがと…」
 大樹の手を借りて、立ち上がる少女。

「…どうしよっかな…このまま『かかったな…』とか言ったらビビる?」
 その台詞に、若干ビビる大樹だったが、心底からのビビりではない。

「…あー…いやー、痛いのはホントだけど、ケガとか全然平気だからね」
 少女が大樹に微笑みかける。純な大樹はえらく戸惑っている。
「えーっと……」
 大樹は、照れもあってその場を去ろうとした。だが、少女の手は大樹の手を
しっかりと掴んで離さない。

「とりあえず、どうしよっかなあ…幸い人通りもない…」
 少女は、そのまま、ちょっと考えて、言葉を続ける。
「1 無事に済む 2 ちょっとひどい目に遭う 3 さんざんな一日になる」

 普通に戦えば勝てない相手ではないかもしれないが、大樹は争いを好まない。
 できる限り穏便に済ませたかった。

「あの、1でお願いします」
「そういうと思ったー。でも残念。1はさっき売り切れちゃった」
「えーっ」
「ごめんねえ、だから2でガマンしてほしいなあ」
「2って、まさか血ィ吸いますか?」
 吸血鬼相手にひどい目に遭うとなると、そういうことだろう。
「ご名答〜」
 少女は、心底嬉しそうにそう答えた。

「よくわかったね」
 わからいでか、と思う大樹を尻目に、少女は言葉を続ける。
「あんまり痛くないよ、たぶん。へたくそな看護士さんよりは上手だから」

「わ〜っ、待った待った待ったっ」
 大樹も、そうそう簡単に血を吸われてはたまらないと、せめてもの抵抗。
「吸血鬼が吸血鬼の血を吸ったって共食いになるぞっ」
 しかし、その抵抗も、もはや抵抗になっていない。意味不明である。

「タイムアウトは3回まで…ん? きぅけつき?」 
 頷く大樹。
「…共食いかあ。でも大丈夫、初めてじゃないから」

 ああ、もう何を言っても吸う気だ……
 そう思った大樹は抵抗を諦めた。
 力ずくで振りほどけばいいものを、それができないのが大樹の大樹たる所以
である。

「……スミマセン、俺も初めてじゃないです」
「んじゃ、いいんじゃない? そだ、場所だけ選ばせてアゲル」
「……」
 ほとんど何もしていないくせに、大樹の心は昔のボクシング漫画の主人公の
ように燃え尽きていた。

「往生際がいいねー。それじゃ、この手首のあたりから(あーん)」
 少女が噛み付いた場所は、手首の血管が一番集まっている場所。
 よく、脈拍を測るのに用いる部位である。
 ここを噛まれては、吸血鬼である大樹もたまらない。

「痛てーっ」
 思わず、大きな声を上げてしまった。
「あ、ごめんミスっちゃった、もう一回(かぷ)」
 今度は、出血量の少ない箇所を選んで噛み付いた。出血も少ない。


コンゴトモヨロシク?
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「もうちょい考えて吸ってクダサイ」
 不貞腐れる大樹。その手首からは鮮血が勢い良く飛び出している。

「ごめん、久しぶりだったから(てへ) でもすぐふさがるでしょ」
「ったく」
 いたずらっぽく笑う少女に呆れながら、吸血鬼の力で傷をふさぐ。

「うーん、でもやっぱり生はいいなあ(ぞくぞく」
 満足そうな表情を浮かべる少女に、
「一般人から吸わないように」
 と、大樹は釘を刺す。

「一般人? いっぱんじん〜?」
「なんでそこで怪訝そうな顔するのっ」
「吸血鬼は『一般』とは言わないんじゃない?」
「いやそういう意味じゃなく」
「んじゃどういう意味?」
 少女は、大樹の血を吸って元気が有り余っている様子である。
 まるで宙に浮くかのように、軽くブロック塀の上まで跳躍してみせた。

「俺以外のフツーの人から吸うなって事デス」
「? え、吸っていいの? これからも? キミから」
「……」
 大樹、またしても自爆。

「やったー! ホントにいいの?」
 脚をばたばたさせて、本気で喜ぶ少女。
「どれくらい吸っていい? 週何回くらいいい?」
 そんな少女に、大樹は
「もうスキニシテクダサイ……」
 地面に四つん這いになって、落ち込んでしまった。

「そーだ、メアド教えといてよ、おなかすいたらメールするから」
 嬉々として話す少女。ふと思い出したように、
「あ、そうだ、これあげる、商店街でカフェバーやってるから、飲みに来てよ」 
 大樹に、カフェバーの割引券を渡す。10枚ほど綴られているだろうか。

 そして、その割引券に書かれた店名を見て、大樹は愕然とした。
「カフェバーGARDEN……って、ここ、バイトしようとしたらもう締め切ってた
とこじゃないか」
「あれ、そうだったんだ。そっかー、募集したら1日で埋まっちゃって」
 少女は、あはは、といった笑いを浮かべる。

「募集……まさか、そこの店長???」
「うん。いやあ、お恥ずかしい…」
 少女……もとい、店長は、なぜか照れている様子である。
 店を経営しているとなると、どう考えても自分より年下とは思いがたい。

「まさか店長は吸血鬼なんて想像できなんだ……」
 少女だと思っていた相手が自分より年上だったこと、身近に同属がいたこと。
 いろんな要素が組み合わさって、大樹の心理にのしかかる。

 血液不足も手伝い、大樹はしばらくその場から動くことができなかった。


時系列
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 2006年6月頃


解説
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 大樹、吸われる(いぢられる)相手がまた一人増える。

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