[KATARIBE 29950] [OM04N] 小説『赤き桜 その四』

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Date: Thu, 15 Jun 2006 23:55:18 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29950] [OM04N] 小説『赤き桜 その四』
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ふきらです。
そんなわけで[KATARIBE 29949] [OM04N] 小説『赤き桜 その三』の続き。


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小説『赤き桜 その四』
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登場人物
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 烏守望次(からすもり・もちつぐ):http://kataribe.com/OM/04/C/0002/
  見鬼な検非違使。

 秦時貞(はた・ときさだ):http://kataribe.com/OM/04/C/0001/
  鬼に懐疑的な陰陽師。

本編
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 時貞は横を向いている望次に気が付いた。
「どうした?」
 彼が見ている方に顔を向けたが、何も見えない。ただ朽ちかけた土壁だけが
ある。
「いや、以前の老人が……」
 首をかしげた時貞に望次がそう言いかけたとき、老人がふわりと土壁から降
りた。地面に足はつかず、ほんの少し浮かんでいる。そのまま生い茂っている
雑草の上を滑るようにして老人は二人のいる方へ近づいてきた。
 望次はその様子を目で追っていた。
 老人は彼の前を横切って桜の樹の真下に行く。依然として根元はぬかるんで
いるが、浮いている身には何の問題もない。
 彼は右手で樹の幹に触れ、顔を上げた。
 時貞は下を向いて、桜の樹の周りをゆっくりと歩いている。時折、地面を軽
く蹴ってみたりしている。
 当然、時貞は老人が彼の近くにいることに気付いていない。老人は時貞の姿
は見えているのだろうが、気にもとめずにじっと桜を見ている。
「何というか……奇妙な光景だな」
 すごい近い距離にいるのに互いに気が付いていない二人。片方は下を向き、
もう片方は上を向いている。片方は樹の周りを回り、もう片方はその中心で動
かないでいる。
 その様子を少し離れたところから見ていた望次は苦笑を浮かべた。
 しかし、と彼は空を見上げた。
 空に浮かんでいる満月。その前を一瞬何かが横切っていった。
 月明かりに照らされた四つ足の黒い影。長いしっぽが揺れ、再び夜空に溶け
ていく。
 動物があんな高さまで跳躍できるはずがない。と考えると、あれはこの世の
生き物ではない。
 そして、ふと、自分が見ている景色は他の人が見ている景色ではないのだ、
ということを望次は思い出した。あの老人の姿を目で追い、あのように時貞と
一緒にいる光景を見て奇妙だ、と思っている自分の方が奇妙なのだ。老人の姿
に気付かずにいる時貞の方が正しいのだろう。
 望次はぼんやりと二人を眺めながら、物思いに耽っていた。
「どうかしたか?」
 急に声を掛けられて、我に返る。いつのまにか時貞が彼の顔を覗き込んでい
た。
「い、いや……」
 もごもごと口の中で呟き、顔を背ける。そして、再び桜へと視線を向けた。
 老人はまだ同じ姿勢で樹を見上げていた。
 時折落ちる桜の花びらが彼の体をすり抜けて、根元の水たまりへと落ちる。
「……老人はあそこにいるのか?」
 時貞が尋ね、望次は頷く。
 ふむ、と顎に手をやり時貞も桜の樹の方を向いた。
「で、何をしている?」
「誰がだ?」
「その老人だ」
「先ほどから幹に手を当てて桜を見上げている」
「ほう……」
「それから土壁にいたときからずっと悲しげな表情を浮かべているな」
「なにかこの桜と……或いはこの桜の花が赤くなったことと関係があるかもし
れんな」
 時貞の言葉に望次は頷いた。
「ところで、樹の周りをぐるぐる回って何をしていたのだ?」
「ああ、そのことだ」
 そう言って時貞は桜の樹の方へ歩いていく。その後を望次が従う。
「ここだ」
 時貞は水たまりの側で立ち止まると、そこと濡れてないところの境目を指さ
した。
 望次がそこをじっと見つめる。いつの間にか彼の横には老人がいて、同じよ
うに時貞が指さしたところを見ている。
 時貞は指さした部分を足で軽く掘った。
「掘られた跡がある」
「何?」
「そんなに前ではない」
「ふむ…… しかし、何故だ?」
 望次は首を捻る。
「何かを埋める、か何かを掘り出した、だろうが……まあ、埋めたんだろう
な」
「何を?」
 尋ねる彼に時貞は肩をすくめる。その様子を見て望次が言う。
「分かっている、という顔だぞ」
 時貞は望次の指摘に苦笑を浮かべた。
「この状況なら大体想像はつくと思うがな」
「何だと?」
 望次は腕を組み、地面を睨む。
「この赤い花を咲かせた桜、滅多に人が来ない朽ちた寺、となると?」
 彼の横で時貞が言った。
「……死体、か」
 組んでいた腕をほどき、溜め息をつく。
「大体そんなところだろう。まあ、掘り返してみないとな」
 そう言って時貞は地面を二度蹴った。

解説
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まあ、大体予想通りの展開かと思います。

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