[KATARIBE 29949] [OM04N] 小説『赤き桜 その三』

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Date: Wed, 14 Jun 2006 00:55:23 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29949] [OM04N] 小説『赤き桜 その三』
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ふきらです。
とりあえず、[KATARIBE 29928] [OM04N] 小説『赤き桜 その二』の続き。
……何だか終わらない予感がしてますよ。

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小説『赤き桜 その三』
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登場人物
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 烏守望次(からすもり・もちつぐ):http://kataribe.com/OM/04/C/0002/
  見鬼な検非違使。

 秦時貞(はた・ときさだ):http://kataribe.com/OM/04/C/0001/
  鬼に懐疑的な陰陽師。

本編
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 寺は荒れ果てていて、雑草が至るところで伸びていた。時貞と望次は比較的
草の少ないところを選んで中へと進んでいく。
「はは、これはすごいな」
 時貞が桜の樹から少し離れたところで立ち止まり、見上げた。望次も彼の横
に並び、同じように桜の樹を見上げる。
 その桜はかなり大きく、だいぶ年が経っているように見えた。枝を一杯に広
げ、それを覆うように花が咲き乱れている。
 その花の色は赤い。
 月の光に周囲は白くぼんやりと照らされ、赤がさらに映える。
 望次はその光景に息を呑んだ。
 ふと横を見ると、時貞が笑っている。
「おい、何を笑ってるんだ」
 望次が彼に声を掛けた。時貞は「ん?」と望次の方を向き、頬に手を当て
た。
「笑っていたか」
「ああ。気でも触れたかと思ったぞ」
 その言葉に彼は口の端を少し上げる。
「まあ、気が触れてもおかしくない景色ではあるな」
「……うむ」
 二人とも口を閉ざし、しばらく桜の樹をじっと見つめていた。
 時折、花びらが木から離れ、回転しながらストンと落ちていく。樹の根元に
は水たまりができており、花びらが微かな波紋を作る。
 望次はその花の動きに首をかしげた。普通なら緩やかに落ちていくはずであ
る。しかし、この花びらはそうではなかった。まるで雨粒のように落下してい
る。
 彼は水たまりに目をやり、眉をひそめた。
「なあ、時貞」
「何だ?」
「あれ、何色に見える?」
 望次が指さした先を見る時貞。それは水たまりと言うにはやけに色が濃い。
「赤、だな」
 そう言うと、時貞は樹に向かって歩いていくと、水たまりの側でしゃがみ込
み指でそっと触れた。ほんの少しねっとりとした感触が指に伝わってきた。
 その指を顔の前まで持っていき、月明かりに照らす。
 赤く染まった指。そして、その雫が指先から垂れていく。時貞は指を軽く
振って、雫を払った。
「血溜まりのようだ」
 何気ない調子で彼は後ろにいる望次に言った。
「何だと?」
 望次が近寄る。
 時貞はその彼の目の前に赤くなった指を突きつけた。いきなり差し出された
ので、思わず少しだけ後ずさる。
 あらためて、彼は時貞の指を見た。
 確かに血のように見える。しかし、
「血の匂いがしないな」
 言われて時貞も自分の鼻に近づけ匂いをかぐ。
「確かに」
「……しかし、これは一体何なんだ?」
 望次は下から樹を見上げた。
 桜の花びらは軒並み赤く、中には雫が垂れ落ちてしまいそうなものもある。
 どうやら樹の上の方はそんなに濡れておらず、逆に下の方は雫が垂れるほど
濡れているようである。
「何やら裏がありそうだな」
 時貞が呟く。
 望次は頷き、ふと視線を感じて寺を覆っている土壁の方を見た。
 今にも落ちそうな瓦の上にいつぞやの京極殿で会った老人が座っている。以
前は穏やかな笑みを浮かべていたが、今は険しい顔で桜の樹を見つめている。
 どうやら厄介なことになりそうだ、と望次は思った。
 桜の樹から花びらが落ち、水面が再び揺れた。

解説
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いつぞやの老人登場。

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