[KATARIBE 29944] [HA06N] 小説『その手にはめて(後編)』

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Date: Wed, 7 Jun 2006 21:45:01 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29944] [HA06N] 小説『その手にはめて(後編)』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年06月07日:21時45分00秒
Sub:[HA06N] 小説『その手にはめて(後編)』:
From:久志


 久志です。
リングを君に、みこちにプレゼントのお話。やっと渡せたヨ。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『その手にはめて(後編)』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮和久(もとみや・かずひさ)
     :吹利県生活安全課巡査。生真面目さん。あだ名は豆柴。
 如月尊(きさらぎ・みこと)
     :体は女子高生、心は年上お姉さんな人。
 如月夾(きさらぎ・きょう) 
     :尊さんの養子、正体は花鋏の付喪神 

悩める青年
----------

 尊さん、お誕生日おめでとうございます。
 吹利で再会してからもう半年以上経つんですね、最初に会った頃から考える
ともう十年近くになると思うと、本当にあっという間ですね。

「って、だめだこれじゃ」
 なんだかなあ、手紙じゃないんだから。というかいきなり昔を懐かしむよう
な文章を書いてどうする、俺。
「メッセージ、かあ」
 店員さんが余分に持たせてくれたメッセージカード、もう残すところ半分く
らいになってしまっている。良く考えてみれば誕生日用のメッセージカードな
のだから、そんなに気負って文を考える必要なんて本当はないんだろうけど。

『くすりゆび、が、いいなあ、と』

 女の人に左手薬指にはまる指輪を渡す。
 この意味の深さは自分にだってわかる。

「何て書こう……」
 こうして考えてみて。今、なんとなく尊さんといい雰囲気になってるつもり
だけど。本当に自分でいいのかとか、前の恋人さんと比べてみて頼りない奴な
んじゃないかとか、余計なことばかり頭に浮かんでくる。
「あー、だめだだめだ」
 あれこれ気回しすぎだ、自分。
 それは尊さんが判断して決めることであって、自分ができることは精一杯自
分がやれることをするだけで。
 視線の先、テーブルの片隅に置かれた淡いピンクの包み紙。そしてその隣に
淡い水色の包み紙。

 表と裏でお揃いのリング、なんだかこそばゆい。
 早く、明日にならないかな。

 ***

 一月二十七日、尊さんの誕生日。
 なんとか仕事も都合がついて休みを取れて、時間的にも丁度いい。
 服装はいつもの仕事で着ているスーツ姿。というか一張羅って持ってないん
だよなあ、これも買ったのだいぶ前だし。でも妙に気負って構えていくのもな
んだし。片手でネクタイをちょっと直しつつ――これ、もう三回目なんだけど
――FLOWER SHOP Mikoへと足を進める。

 紙の手提げの中にはいった淡いピンクの包み紙。
 手で軽く押さえたネクタイの下、シャツの内側に感じる感触、シルバーの
チェーンで首からさげたシークレットリング。
 そして手提げ袋の中には昨日買っておいたワインのボトルと相羽さんに教え
てもらった美味しいケーキ屋さんの特製ガトーショコラ。本当は女の人を訪ね
るときの礼儀は花とワイン持って……というのは母さんの言葉だけど。
 花屋さんを訪ねるのにわざわざ花を買っていくのもおかしな話のような気が
して、代わりにこれを、と。

 ちょっと仰々しいかな?
 尊さん喜んでくれるだろうか。お酒好きなのは知ってるけど、ワインが好き
かどうかは調べてなかったんだよなあ、でも誕生日に一升瓶ぶら下げてという
図もなんだか微妙だ。

 なんてあれこれ考えてるうちに、ふと気づくともうお店は目と鼻の先だった。

「おにぃちゃんいらっしゃい!」
 二度目の訪問、夕方も過ぎてお店はもう閉めていて。
 店の前の掃除をしていた夾ちゃんがホウキを片手に小さく手をふる。
「こんばんは、夾ちゃん。尊さんは……」
「さあさあ、お待ちかねです」
「って、ちょっと」
 待ってましたとばかりに背中を押してさあさあと押し込む。
 店の中は中にしまわれた花で一杯で、その合間にちょこんと座った尊さんが
顔をあげた。
「あ、いらっしゃい、和久くん。えっと、上がって奥で待ってて」
「すみません、片付け忙しかったですか」
 何か手伝うことでも、というよりも先に部屋の奥へと促されて。
 なんだか、尊さんの誕生日なのにこっちが気遣われてもてなされてるような
気がするのは気のせいか。というか、えーと、俺、期待されてる?
 なんか、逆にこっちのほうが緊張してきちゃうんだけど……

「えと、お邪魔します」
 尊さんの部屋に一歩はいると、既に部屋は奇麗に片付けられてテーブルの上
には大皿にのったスパゲティにカナッペやらのオードブルが並べられている。
なんというか、どう考えても立場が逆になってる。

「ごめんね、本宮くん。ばたばたしててっ」
 ドアを開けて入ってきた尊さん。わたわたとエプロンをはずしながらちょこ
んと向かいの席に腰を下ろした。
「いえ、こちらこそ。逆に気使わせちゃって」
「ううん、折角忙しい中来てくれたんだし」
「あ、これ。良かったら食べてください」
 わたわたと手提げ袋からガトーショコラの入った箱を手渡して。
「わあ、おいしそう。ちょっと待ってね、包丁とお皿もってくるから」
「あ、お構いなく」
 止めるまもなく、ばたばたと走り回る尊さんを見送りながら。
「ちゃんと、渡せるかな」
 なんだか不安になってきた……

 改めて、切り分けられたガトーショコラが食卓の上に追加され、ぱたぱたと
エプロンをはずしながら尊さんが向かいの席に座る。
「あの、尊さん」
「はいっ」
 ぴしっと背筋を伸ばして居住まいを正す尊さん。なんか緊張するなあ。
「改めて、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、本宮くん」
「あの、夾ちゃんと知恵さん達は……?」
「うん、昼にお祝いしたからって、夜は早めに寝るみたい」
 気を利かせてくれたの、かな。というか二人よりずっと年上の自分が気を使
われるというのも情けないなあ。ここはちゃんとしっかり渡さないと。

「あのっ、尊さん」
「は、はいっ」
 手提げの中から淡いピンクの包みを取り出す。
「これっ……プレゼント、です」
「……あ」
 尊さんの動きが一瞬止まって、目の前の包みを見る。
「ありがとう……和久くん」
 尊さんの両手上にのる包み。
「開けてもいい?」
「……はい」
 紙のこすれる音、包みの下から出てきた小さな箱。そっとその蓋を開けて、
尊さんが小さく息をのんだ。
「これ」
「えっと、漆のリングなんです」
「漆?」

 白い尊さんの指につままれた、柔らかい艶のある赤い表面に黒い紋様が描か
れたリング。

「奇麗……」
「気に入って、もらえましたか」
「うん、ありがとう、凄く嬉しい」
 頬を染めて心持ち俯いて笑う尊さん。よかった、喜んでもらえたみたいで。
「ああ、よかった。気に入ってもらえて」
 ふと、指輪を手にしたまま尊さんがちらりと見上げる視線でこちらを見る。
 なんというか、その、ちょっと期待を込めたような、その。

 ええと、この場合。

「……えっと、みことさん」
「なに?」
 上目遣いでじっとこちらを見上げる目が、その。ものすごい破壊力があるん
だけど。
「あの、貸してください……俺がつけます、から」
「うんっ」
 差し出された尊さんの左手を手にとって――鍛えてるはずでも、やっぱり女の人の柔らか
い手だなあ、ってそんなこと考えてる場合じゃなくて。指輪をつまむ手が震えるのを押さえ
つつ、薬指にそっと滑らせる。

 白い手にはめられた、赤地に黒の模様の指輪。
 漆の艶やかな質感が、ほっそりした手にとても映えて。

「嬉しい……ありがとう」
「……はい、あの。おめでとう、ございます」

 結局、それ以上のことはさっぱり言葉になってでてきてくれなかった。

時系列 
------ 
 2006年1月下旬。尊さんの誕生日。
解説 
----
 豆柴、ようやっと尊に指輪を渡すの図。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

 やっと、一月のお話が終わった!(遅っ
溜まってる話がまだまだたくさんあるんだーーー




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