[KATARIBE 29941] [HA06N] 小説『風春祭断片・その一』

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Date: Wed, 7 Jun 2006 00:10:33 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29941] [HA06N] 小説『風春祭断片・その一』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年06月07日:00時10分32秒
Sub:[HA06N]小説『風春祭断片・その一』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
以前よりチャットでは何度か話していた、吹利県警の春のお祭り、風春祭。
その一部を、真帆の視点から。
……って、まだそこまでいってませんが(汗)>お祭り当日

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小説『風春祭断片・その一』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 雨竜
     :迷子の竜。まだまだ子供。相羽家に居候中。
 ベタ達
     :以前、相羽家で飼われていたベタ達のあやかし。

本文
----

 春、桜も散った後。
 入学式も終わり、恐らく全国のお父さんお母さんがほっと一息をついた頃。
 吹利県警では、お祭りがあるという。

          **

「風春祭?」
「うん」
 何枚かのパンフレットを広げて、相羽さんが頷く。
「今月の、22と23日って……土日?」
「そう」
「お祭りというか……これ、一般の人との交流とかそういうの?」
「そうなるかね」

 子供向けの安全教室や、一般への防犯教室。女性向けの護身術や110番の
かけかたまで。

「この、オープニングセレモニーって、相羽さんも出るの?」
「出るよ」
 何時の間にやら三匹のベタと雨竜が、パンフレットの周りをくるっと取り囲
んでいる。読めているのかいないのか、それでもふんふん、と、頭を振りなが
ら見ているあたりが可笑しい。
「この時は制服きて整列するよ」
「ふうん……って、え?!」
 思わずさらっと流しかけて、慌てて頭を切り替える。
「せ、制服?!」
 相羽さんが呆れたようにこちらを見やった。
「……そんなすっとんきょうな声ださなくてもさあ」 
「えー、いくいく絶対いくっ!」 
「なんかわくわくって擬音が見えそうだよね」 
「だって、相羽さんの制服姿なんて見たことないものっ」 
 この人が制服を着ている姿ってのが、実に想像がつかない。それだけに以前
から是非とも見てみたいものの一つだったのだ。
「まあ、随分久しぶりに着るからねえ」 
 苦笑交じりに、相羽さんが言う。

 オープニングセレモニーに、それぞれの講習会、コンサートに寸劇、そして
有志による演武。それに奉納武道大会。

「……相羽さん、この武道大会って?」
「ああ、これね」

 何でも吹利にたんとこさある神社の奉納試合を、まとめて県警でやろう、と
いう企画らしいのだが(非常に要約しました)。

「じゃあ、剣道とか柔道とか、そういうの?」
 答える前に、数瞬の間があった。
「今まではね」
「って、今年は?」
「……企画の奴がかなりノリノリでさぁ」
「はあ……」
「総合格闘技ルールを採用とか言ってたねえ」
「…………は?」

 なんかそこらよくわかんないんですが。
 なんかお祭りっぽいというか、なんかゲーセンのゲームとかにありそうなあ
れかしらんとは見当がついたのですが。
 ……が。

「……相羽さん出るの?」
「…………うん」

 一般参加可能ったって、基本は県警の人達で、現役で駆け回っている人達で。
 そういう人達が……ある意味『命の危険』からは離れて、思いっきり格闘と
かやるってことは。
 …………なんかこう、どういう風になるか、それこそ察しがついてしまって。

 ぽん、と、頭の上に手が乗っけられた。
 大丈夫だから、と、言葉にする代わりのように。

 
 退屈したのか、ベタ達と雨竜は、隣の部屋に駆け込んでいった。じきにどた
ばたと、駆けずり回っているらしい音がする。流石にこの数日、何をどこに置
けば落とされるか壊されるかは学習したから、今はあちらの部屋には何も無い
筈だ。とりあえず放っておいて大丈夫だろ。

 改めて、パンフを見てみる。
「なんか、忙しそうだね」
 何やかんやと二日間、イベントてんこ盛りである。
「で、武道大会で終わり?」
「いや」
 おや。
 何だろう、と思って見上げると、相羽さんはさらりと何でもなげに、しかし
とんでもないことを言ってのけた。

「ここに載ってないけど、最後に打ち上げでホストクラブやるんだよね」
「…………は?」
 
 えーとちょっと待って下さい。

「ほすとくらぶって、あのほすとくらぶ?」
 考えてみればあのもそのもあったものではないのだが。
「なんか企画がはりきっててねえ、ホストクラブ県警、ってさあ」 
「………………本気?」 
「……らしいよ」

 以前、聞いたことがある。この人、潜入捜査としてホストクラブに勤めて、
そこのNp.1以上に人気があった……とか。
 だから。
 訊くまでもなかった、ことなんだけど。

「……相羽さんはホストやるの?」 
「うちの連中みんなホスト役らしいよ」 

 本宮さんはともかく……中村さんや石垣さんなんか、不得意そうなんだけど。
 そういう意味では、確かにこの人、一番なんだろうし、一番期待されている
というか……うん、人気あるんだろうな、って。

 ……思って。
 何だか。
 …………でもそれってほんとに根拠も何にもないだけの。

 ふわっと頭の上に、手が乗っかった。そのまま幾度も、頭を撫でる。

「くるよね?」 
「…………お仕事の邪魔じゃない?」 
「打ち上げみたいなもんだよ」 
 相羽さんは少し肩をすくめた。
「実際の風春祭が終わったあとの、まあオマケみたいなイベントだし」 
「……うん」 
「まあ、身内の飲み会って奴」 

 それは、そうなんだろうけど。
 ほんとにお遊びのイベントで、皆が笑ってやるだけのことなんだろうけど。

 ……でも。
 この人、そういうの上手いだろうなって、それは嫌味でもなんでもなくそう
思う。

 頭を撫でる手。
 この人がどれだけあたしを大切に思ってくれているか、そのことには揺らぎ
なんか無いのに。

 お遊びってわかってて。
 ほんっとよくよくわかってて。
 わかってる、ほんとにわかってるのに……っ

「………………あーなんかもう、やだなあっ」
 これ以上考えていると、どんどん厭な顔になりそうで、思わずテーブルに突っ
伏した。
 ごち、という……うん、音のほうが実際より痛そうだ。

「どしたの?」 
 宥めるような、声と手。
「……相羽さんホストやるんだよね?」 
「まあ、ね」 
 ゆっくりと額に触れる手が、尚更かなしくて。

「……お遊びなんだなって、わかってるの、これほんとに」 
 そんなことは重々承知。自分の感情に何の根拠も無いことも承知。
「…………でもなんか」 
 莫迦げていると、自分でも思う。
 何一つ根拠が無い。以前、相羽さんが弟分からの電話にやきもちやいてたけ
ど、それ以上に今のあたしは性質が悪い。相羽さんを縛り付けて、迷惑かけか
ねないって点では……それこそ遥かに。
 ……だけど。

「わかってる」 
 頭を撫でていた手がそのまま背中から肩に廻る。抱き寄せられそうになるの
が判って……それが尚更に申し訳なくて。
 ただただ申し訳なくて……テーブルの端っこを手で掴んだ。
「……やっぱり、相羽さん、許可したの間違えてる……」 
 掴んでいた手が、上から包まれる。そのまま握りこまれるように、テーブル
から手を離させられて。
「だって執着していいって言うから……っ」
 相羽さんは何も言わない。
 ただ、そのまんま抱き上げられて。
 身体全体で囲い込まれるように抱き締められる。

「だって、ほんとに」
 何だか余計に……やりきれなかった。
 これだけ大事にされて、何であたしはこんな我侭を言ってるんだろうか。何
を根拠にこんな駄々をこねているんだろうか……って。
「執着しすぎるから、あたしは自分が厭なのにっ」 
 花澄にも、六華にも、はつみにも。
 執着すればするだけ迷惑をかけると、それだけは判っていて。
 だのに、どうしてと思うくらいに。
「俺も執着してるから、さ」 
 耳元の声。
 抵抗する力が……ふっと抜けた。


「……頭ではきっちり判ってるんだ」 
「知ってるよ」 
「全部判ってて、全部ちゃんと納得もしてて」 
 それは、本当。どれだけ自分をひっくり返しても、そこは揺るがない。
「…………でも」 

 多分、しばらく見ているのは、普通に面白いかもしれないと思う。
 スカウトされるくらいに見事に、お客をあしらっている相羽さんって、ある
意味ではとても珍しいし。
 だけど、多分。
 長いこと見ていたら。

「んなとこ行ったら、絶対あたしみっともない顔になるからっ」 
 だから行かない、と、言う前に。
「お前さんきたらね」 
 耳元に、静かに流れる声。
「限定だから」 
「……へ?」
 一瞬意味を取り損ねて、顔を上げた。
 視線の先で、相羽さんは笑っていた。
「お前さん限定」

 それがどれだけわがままなことか、流石に判る。
 そのわがままを、この人はまるで自分の考えであるかのように肯定する。
  
 その許しの形すら取らない許しに、ずっとあたしは甘え続けている。

「…………尚吾さん」 
「ん?」 
「邪魔じゃない?」 
「絶対邪魔じゃないよ」  

 何度も何度も、そうやって答えて貰っているのに。
 何度も何度も、こうやって尋ねなおす。
 ……まるで子供じゃないか。

「……なんか」 
 情けなくて哀しくて。
 肩口に額を押し付ける。
「どした?」 
 何度も何度も、頭を撫でる手。
 甘えていることがやり切れない、と、その表現すら。
 やっぱり、この人に甘えているばかりで。
「足引っ張るしかしてない……」 
 ほんとうは、そんなものじゃないと思った。どれだけこの人の邪魔をしてい
るだろうと思った。
 

 六華と達大さんが別れて、もう二月ほどが過ぎている。
 数日、六華はうちに泣きにきた。そのたんびに相羽さんと喧嘩になって、最
後には酔ってるのか泣き疲れたのか判らない上体になって眠っていたものだけ
れども。

『あのね、あたしの言うこと、今すごく偏ってる』
 あの頃六華はよくそう言った。
『もうまっぴらごめんって思っちゃった。我慢するのももう厭って思っちゃっ
た……だからどうしてもあたし酷いこと言うと思う』
 一つの関係を終わらせることは辛い。それも相手に悪意の欠片も無い場合、
その作業はとてつもなく辛いことになる。
『達大さんには、お礼を言っても言い切れないの。感謝してるの……だけど』

 どっちが悪い、とはあたしには言えない。言えるものじゃない。
 だけど多分、達大さんは六華にどこかで甘え、六華はその甘えを許容出来な
くなった。きっかけこそ小さくても、その一点が崩れた時に、この二人の関係
はがらがらと崩れた……のではないか、と。
 少なくともあたしにはそんな風に思われた。
 そして思って途端に……怖くなった。

 相羽さんは優しい。
 底抜けに……あたし自身が、そんなに甘やかさなくていいのにって思うくら
いに優しい。
 だから、思う。
 この人に甘えることに、もし自分が慣れてしまったら。
 慣れた挙句、最後に置いた一本の藁の重みが、この人の心をぷっつりと折っ
てしまったとしたら。

 そうなって、しまったら……?


「あの、あたしが言っても、別にそんな限定じゃなくていいからっ!」 
 こめかみから血が引くような怖さを振り払いたくて、ことさらに明るい声で
言ってみる。出来るだけ笑って、出来るだけ何でもなげに。
「…………その間、見てるから」
 どんな身ごなし、どんな会話で、ホストクラブにスカウトされるほどのホス
トっぷりを見せたのかな、とか。
 電話で、『明朗闊達な男性』みたいな声で話してた、あんな感じで話すのか
な、とか。
 知りたくないわけじゃない。むしろ見てみたい。
 だから……と、言おうとした言葉を遮るように。

「俺の隣は指定席」
 すとん、と。
「おまえさんのね」
 また、この人は、あたしのわがままを。
「……だめ?」
 まるで自分のわがままであるかのように…… 

 ありがとうございます、と。
 ごめんなさい、と。
 申し訳ないのと嬉しいのと、もう何から言っていいのか判らなくなって。
 ただ、頭を下げた。

 くくっと、喉の奥が鳴るような、笑い声。
 そして。


「くるよね?」
 髪の毛を梳くように、撫でる手。
「……楽しみに、してます」


時系列
------
 2006年4月半ば

解説
----
 風春祭を真帆の視点から……の、その一。まだ前哨戦(戦?)。
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 ……はい、続きます(滅)。
 というわけで、ではでは。




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