[KATARIBE 29934] [HA06N] 小説『春時雨の竜:其の四』

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Date: Fri, 2 Jun 2006 00:01:52 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29934] [HA06N] 小説『春時雨の竜:其の四』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年06月02日:00時01分52秒
Sub:[HA06N]小説『春時雨の竜:其の四』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
もーだんだん短く切って送りますっ
……何度も繰り返しているのは、それだけ自分が後ろめたいからですね<せるふ突っ込みっ

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小説『春時雨の竜:其の四』
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登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 雨竜
     :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと泣く。
 ベタ達
     :以前、相羽家で飼われていたベタ達のあやかし。

本文
----

「どうしようかね」
「……雨竜の子?」
「うん」

 なんだかんだやった挙句、雨竜とベタ達は、先に布団……というか、枕元の
タオルの上に落ち着いた。くるっと丸くなった雨竜を枕にするようにして、ベ
タたちが眠っている。
 濃い目に淹れたお茶と利休饅頭、わらび餅。

「生憎、空には詳しくないからねえ」 
「……そもそも、竜がどこに居るかなんて、判らないし……」 

 というか、考えてみたら……相羽さんが竜を見て、驚きもせず追い出せとも
言わないっての、凄いことだと思う。

「……平気なんだね」
「ん?」
「雨竜とか」

 考えてみたら。
 ベタ達が飛んでいても驚かなかったし。
 あたしが猫になった時には、10分とかからずに正体を看破してたし。
 お巡りさんなんて言うと、えらく常識的で、それこそ『幽霊は枯れ尾花決定』
みたいな人かと思ってたんだけど……とりあえず相羽さん見ても本宮さん見て
も、そこら辺はかなり違うようだ。

「そういえば、空のどこらで拾ったん」
「……ベタ達が飛んでった先で、くっついてきたみたいで……あんまりよく判
らなくて」

 あの後、流石に訊いたのだ。どこで拾ったのか、と。
 …………(敢えて多くを語らず)。

「雨の竜、ね」
「……うん」

 眠る前。
『雨の竜、ねえ』
 相羽さんの感心したような半信半疑のような言葉に、その小さな竜はかなり
ショックを受けたようで、少しの間ぼんやりしていたのだが。
『……どしたの?』
 急にきっと空を睨んで。
 小さな両の手で、何かをかき集めるような仕草を繰り返す。段々と手の中に
ほわほわと白い雲が集まってきたところで。
『明日も雨らしいねえ』
 テレビをつけて、天気予報を見ていた相羽さんの声に、ぽけーっとそちらを
向いて……いるうちにその雲が散ってしまったのである。

 お間抜けというと、ちょっとかわいそうなんだろうか。


「お母さんがどこに居るかなんて、わからないしなあ」
「そら普通知らんでしょ」 
 黒蜜と黄な粉をかけたわらび餅を切り分けながら、相羽さんが妙に冷静に指
摘する。
 確かに、その通りなのではある。

 が。

 つと、相羽さんの手が止まった。
 思い当たったのは、多分ほぼ同時。

「……あ」 
「本宮さん……なら?」

 以前住んでいた部屋に、ネズミが大量に発生した時。
 原因や結果は、あまりよく聴いていない。ただ、あの時に本宮さんから『誰
かに怨まれる可能性はありますか』と訊かれたことを憶えている。異常な発生
をしたネズミを退治するのに、本宮さんが関わった、とも。
 何よりあのゆっきーさん(幽霊を見る能力あり)のお兄さんだ。多少の不可
思議に驚くようには思えない。

「駄目もとで聞いてみるか」 
「うん、お願いします」 
「俺から史の奴か豆柴に話通してみる」 
「はい」


 きゅう、と、小さな声が聞こえる。
 あまりタイミングがよかったから、起きたのかと思ったけど、覗いてみたら
寝言のようだった。
 さっきまでくるんと丸くなっていたのに、どうやら寝返りでもうったらしく、
頭を乗せていたベタ達は周囲に散らばる格好になっている。その真ん中で仰向
けになって、おなかを出すような格好で太平楽に眠っている……小さな竜。

「はやく家族のところに、戻れるといいね」
「……そだね」

 どれだけ馴染んでも、ここはあの竜にとっては異郷なのだから。

 跳ね飛ばされた格好で、でもぐっすり眠ったままの青ベタが、胸鰭をぱたぱ
たと振るわせた。

 まるで、夢の中で泳ぐように。


時系列
------
 2006年四月半ば

解説
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 お父さんとお母さんの会話……ってんじゃないですが。
 そこで太平楽にぐうぐう寝てこそ、子供だと思います。なんとなく。
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 てなもんです。
 ではでは。
 


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