[KATARIBE 29933] [HA06N] 小説『絡む糸・その二』

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Date: Thu, 1 Jun 2006 00:10:42 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29933] [HA06N] 小説『絡む糸・その二』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年06月01日:00時10分41秒
Sub:[HA06N]小説『絡む糸・その二』:
From:いー・あーる


 ども、いー・あーるです。
 単発ちまちまで流してゆきます。
 こんじょなしと言わば言えっ<でも言われたら泣くー<こんじょなし

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小説『絡む糸・その二』
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登場人物
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  関口聡(せきぐち・さとし)
    :人の感情を常に左目で見、右耳で異界の音を捉える。高校二年生。
  蒼雅紫(そうが・ゆかり)
    :蒼雅家、霊隼使いの天然ドジっ子娘。鈍い
  御厨正樹(みくりや・まさき)
    :魔導発明家、時々発明品を爆発させたりする。他人に対する興味が薄い。
  一之瀬二条(いちのせ・にじょう)
    :外国から来た転校生。本来大学生。取り乱したりもするが、基本は冷静。

本文
----

 創作部の部室からは、廊下にまで喧騒が染み出している。
 ついでに彼らの感情も、廊下までその欠片がはみ出している。

 先日は結局、創作部には誰も居なかった。
 それで仕方なく(というか聡にしたら運良く、かもしれないが)毛糸で出来
た小さな生物を、昨日は家に連れて帰ったのだが。

(ということは、京は紫先輩はここに居るってことだな)
 内心呟きながら、聡はからりと扉を開ける。

「ええと、すみません、紫先輩居ますか」
「はい?」 
 顔を上げた紫の横に、紙袋。
 それがもぞもぞと動いている。

(……まだ編んでるのか)
 咄嗟に思って、聡はこっそり訂正する。
(まだ、動くものを編んでるのか……だよな)

 なんせ紫の手元にごちゃごちゃと固まっている(としか言いようが無い)毛
糸を編んだものは、既にゆらゆらと、紫の手の動きにも僅かな風の動きにも逆
らって動き出しているのだ。

「……あ、ええとですね……これ、先輩が作った子じゃないですか?」 
 凄い才能だよなあ、と、内心呟きながら、聡は手の上に乗せた小さな毛糸の
生物(?)を、紫の前に差し出した。
「ああっ、いつの間にっ」
 二、三度目を瞬かせてから、紫はあわあわと手を振り回した。傍らの紙袋を
慌てて開いて中を確かめ、そして顔を上げる。
「すみません、わざわざ届けていただいて」 
「あ、いやあの……」 
 さあ受け取りましょう、と、手を出しかけた紫から、こころもち聡は手を引っ
込める。紫の編んだものと確認を取る積りはあったものの、素直に返す気は無
いのだ。
 
 紫の手の中の、編みかけの『何か』が、またうねうねと動いた。

「……ってか、先輩……一体なにを作ってるんですか」
「はい、夏用のニットです」
 にっこりと、それはそれは明朗な返事に、思わず聡は頭を抑えた。

 色は、確かに初夏に似合ったペイルブルーである。糸もコットンらしい、少
し光沢のある糸である。
 …………が。

「…………ええと、紫先輩?」 
 どこまで判っているのかと思うと、質問もおそるおそるなものになる。 
「あの、その、うねうね自分で動くのを、着るんですか?」 
 下手に着たら、妖怪二人羽織じゃないか、先輩なら一度で転ぶぞ……と、流
石にその部分は言葉にはしなかったのだが、紫はしょんぼりと下を向いた。
「……そのつもりだったのですが……」 
「が?」 
 あ、流石に無理だと判って諦めているんだろうな、と、聡はほっとしたが、
一瞬後にがっくりとこけた。
「……どうしてか、着ようとすると逃げてしまわれるのです」 
 そっちかよ、と、周りで聴いていた創作部員達が無言のツッコミを入れるの
が、聡の目には鮮やかな黄緑の矢として映った。

「……あの、先輩、思うんですが」 
「はい?」 
「それを、首尾よく着たとしても……多分先輩、二人羽織で、自分の自由が効
かなくなりますよ?」 
「…………そう、ですね」 
「普通、服は動きませんよね」 
「はい、わたくしもそう思います」
 言われて不思議に思ったのか、紫は首を傾げる。
 普通言われる前に、不気味で編むのを止めるだろう、と……流石に聡も言わ
ない。多分この先輩だと、不気味ということに気が付いていないのだろう、と、
見当くらいはつくのである。 

「……ってか、どうして動くんんだろう」 
 毛糸玉から紫の手元まで続く糸は、ごく普通の糸に見える。無論自分で動い
たりもしていない。
「先輩、呉羽さんに手伝ってもらったりしてるんですか?」 
「いいえ、自分で編んでいます」 
 きっぱりと紫は答える。
 とするなら、それは確かなのだろう。
(それに呉羽さんなら、こんな無分別なものに生命を与えたりはしないだろう
しなあ)
 内心とはいえ、相当失礼な思考では、ある。
「…………ある意味、先輩の手って魔法の手ですね」 
 手から魔法成分でも出てるんじゃないか、と、咄嗟に考えてしまった聡であ
る。

「……あ、で、先輩」 
「はい聡さま」 
「この子……なんですけど」 
 さっきから手の上で、きょときょとと動いている小さな生物を、もう一度示
す。慌てたようにぱたぱたと動くのを、そっと指で撫でてやりながら。
「貰っちゃ、ダメでしょうか?」
 途端に、紫の表情がぱっと明るくなった。
「はい!どうぞ貰ってくださいっ」 
 わーい、と、副音声の聞こえそうな喜びようの紫の後ろで、ぼそぼそと声が
聞こえてきた。

「もやしたいなぁ……安全のために……」 
「ええ、抹消したいです。」 
「次の日、毛糸に巻きつかれて死んでいる高校生が発見された」
 えらく縁起でもない言葉を、聡はあえて聞き流す。

「良かった。昨日、見つけたんですけど……なんかこの子可愛いですよね」
「わぁ……そういっていただけたのは聡さまがはじめてですっ」 
 そりゃまあ普通はそうだろう。
 わーいわーいと跳ねている紫を溜息混じりに見ていた一名が、ゆるゆると口
を開いて聡に向かい合った。
「……気をつけて下さい。夜中にうねうねくっついてくることがありますので」
 そういえば、と、聡は首を傾げた。
「あ、ええ、昨日、気が付いたら布団に入ってました」 
 
 夜中、一度目を覚ました。
 枕元に置いておいた筈の、その小さな奇妙な生き物は、首の辺りでもへもへ
と動いていた。
 その動きがまた、なんともとろとろとしていて……多分眠いんだろうな、と、
その時はそれで終わったものだが。

「……やっぱりですか。」 
「でも、多分、二歳児くらいに思えるし……それなら普通ですよね」 

 手の上で、ぽんぽん、と、毛糸の塊が跳ねる。
 その軽い重みが、掌の上にあること。

「やっぱり可愛いです、この子」

時系列
------
 2006年5月のはじめ

解説
----
 というわけで、作成したゆかりんのところに聡が向かいます。
 ケイトちゃん養子作戦開始の図(なんじゃそら)。

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 てなわけで。
 もすこし続きます。
 であであ。
 


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