[KATARIBE 29928] [OM04N] 小説『赤き桜 その二』

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Date: Mon, 29 May 2006 23:33:58 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29928] [OM04N] 小説『赤き桜 その二』
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ふきらです。
リハビリビリ。
だいぶ前の話ですが、[KATARIBE 29844] [OM04N] 小説『赤き桜』の続き。
……もう少し続きます。

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小説『赤き桜 その二』
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登場人物
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 烏守望次(からすもり・もちつぐ):http://kataribe.com/OM/04/C/0002/
  見鬼な検非違使。

 秦時貞(はた・ときさだ):http://kataribe.com/OM/04/C/0001/
  鬼に懐疑的な陰陽師。

本編
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 人通りのない大路を時貞と望次が並んで歩いていた。空に浮かぶ満月に照ら
されて、二人の影が地面に伸びる。既に夜も更け、出歩くものの姿はほとんど
ない。
 雲は見えないが、星は月の明かりにかき消されて、いつもより見える数は少
なかった
 時貞は微妙に体を左右に揺らし漂うように歩いている。一方、時貞は背筋を
伸ばししっかりとした足取りである。しかし、その二人の歩調はぴったりと重
なっていた。
 カサリ、と音がして望次はそちらの方を向いた。そこそこ大きめの屋敷の門
の隅に何かがうずくまっている。
 望次は立ち止まり、それをじっと見つめた。
 月明かりの下でその姿ははっきりと浮かんでいる。猫ほどの大きさのそれ
は、赤茶色の肌をしていた。明らかに人ではない。
 それは顔を上げ、自分の方を見ている望次に気が付くと、彼の方に顔を向け
た。
 金色に光る目が望次の姿をとらえる。
「む」
 反射的に腰に差している刀に手が伸びる。その動きに反応して、こちらを見
ていたものは体をビクリと震わせた。そして、身を翻して駆けていく。
「どうした?」
 彼の後ろの方で時貞の声がした。時貞は数歩進んだところで立ち止まり、振
り返っている。
 望次は先ほどのものが逃げていった方を一度見やると、「いや別に」と言っ
て時貞の方へと歩いていった。
 再び、二人は並んで歩いていく。
 横にいる時貞の顔を望次はちらりと見た。先ほど、自分が立ち止まった原因
も分かっているのだろうが、特に何か言うつもりもないようだった。
 こういうことがある度に、望次は何故自分に人ならざるものを見る能力があ
り、陰陽師である時貞には無いのだろうか、と考えてしまう。
 勿論、今更そんなことを言ってもどうしようもないことは分かっている。一
度、彼にそのことを話したこともあるが、何を今更、と呆れられてしまった。
それどころか、逆に「お前の方こそ変なものが見えて大変だろう」と言われ
た。
 そのことを思い出して、望次はかすかに苦笑いを浮かべた。それに気が付い
たのか、時貞が彼の方を見て眉をひそめる。
「どうした。にやついたりして」
「いや、別に」
 望次が慌てて真面目な表情に戻したとき、時貞は足を止めた。
「あれか」
 時貞が目を細めて少し顎を上げた。望次もそちらの方を見る。視線の先には
壁の一部が壊れた寺があり、その壁の向こうには桜の樹が一本見えていた。
「ふふん。これは確かに」
 時貞が楽しげな調子で言った。
 その桜の花は話で聞いていたように確かに紅く、月の白い光に照らされて輪
郭がぼやけている。
 一瞬、強い風が吹いた。
 桜の枝が揺れ、花びらが舞う。
 花びらは風に乗って二人の方へと漂ってくる。
 時貞は左手を伸ばし、その花びらをそっと掴んだ。
 掌に張り付くような感触が伝わってくる。
 彼は手を胸元まで持ってくると静かに広げた。望次が顔を覗かせ、その花び
らを人差し指で突いた。
「……何だこれは」
 花びらはしっとりと湿っていた。突いた指先が紅く染まっている。
 望次は顔をしかめた。
 それを見て、時貞は「ふむ」と呟くと、掌の花びらをつまみ上げた。掌には
やはり、赤色の花びらの跡。
 右手の花びらをはじき落として、時貞は再び紅い桜の方に顔を向けた。
「どうやら、何かありそうだな」
 ああ、と望次が頷き、二人は寺の中へと入っていった。

解説
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時貞と望次、噂の寺へ向かうのこと。

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