[KATARIBE 29917] [HA06N] 小説『春時雨の竜:其の三』

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Date: Mon, 22 May 2006 00:10:32 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29917] [HA06N] 小説『春時雨の竜:其の三』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200605211510.AAA88443@www.mahoroba.ne.jp>
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2006年05月22日:00時10分32秒
Sub:[HA06N]小説『春時雨の竜:其の三』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
いつも話はへたくそですが、今回もっとへたくそです(当社比)。
「え、いつもと同じじゃ?」とか言われると、多分凹みます。
(ほ、本当でも言っちゃいけないことがあるんですっ(涙目))

……莫迦やってないで、流します。

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小説『春時雨の竜:其の三』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 雨竜
     :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと泣く。
 ベタ達
     :以前、相羽家で飼われていたベタ達のあやかし。

本文
----

 起きた途端、あれ、と思った。
 いつもと全く違う天井の具合。そもそもいつも天井なんて見えない筈……と、
そこまで考えて思い出して。
 慌てて起き……ようとして、危ないところで喉元の小さな頭に気が付く。そっ
と身体をずらして、起こさないように小さな竜を布団の上に移動して。

 と。
 くしゃ、と、頭を撫で回された。
「……え」
「おはよう」
 ベッドの横に座ったまま、相羽さんはぽつんとそう言った。
「……おはようございます」
 
 うん、と、頷いて、その視線が落ちる。布団の上で仰向けに、太平楽に寝こ
けている小さな竜をじっと見て。
 何か言うだろうかと思った。咄嗟に、そんな顔をした。 
 だけど、そのまま……その子については何も言わず。
「……あの」
「なに?」
 ずっとその姿勢のまま、ここに居たんですか、とか。
 まさか寝てないとかじゃないですよね、とか。
 咄嗟に問いは幾つも出てきたのだけど、でも。

 怒ってるわけじゃない。それは無い。
 でも……

 相羽さんの手が、小さな竜に伸びる。頭の上でぽわぽわと、綿毛のように頼
りなく揺れている毛を、指先で少しだけ弾くようにして。
 そのまま、取り立てて何を言うでもなく。
 相羽さんは、立ち上がった。


 寝坊したか、と思ったけど、起きたら何時もどおりの時間、ご飯を作って、
相羽さんが食べている間にお弁当を詰める。その頃にベタ達が起きてきて、ふ
よふよとテーブルの周りを、いかにも寝ぼけてます、みたいな具合に飛び回る。
 いつもの風景。いつもの朝。
 ……なんだけど。

「相羽さん……」
 湯飲みに手を伸ばしたまま、相羽さんは少し首を傾げる。
「……怒って、ます?」
「いや」

 一応説明はした。夜中に泣き出した小さな竜。喉の辺りに丸まって、そのま
ま眠ってしまった子を離すわけにもゆかず、潰すわけにもゆかないと思ったか
ら、と。
 その説明に、いちいち相羽さんは軽く頷いて。
 だから、怒っては、いない。
 いない、のだけど。

「怒ってないよ」
 その言葉に、嘘は、ないのだけど。

 
 お弁当を持って、じゃあ、と、相羽さんは玄関を出る。
 その頃にはしっかり起きていたベタ達が一緒にお見送りに出て、玄関のとこ
ろでふよふよぱたぱたやっている。
「今日は……」
「いつもと同じくらいだと思うけどね。また電話するわ」
 言葉はいつもと同じ。口調もまあ……うん、いつもと同じ。
 なんだけど。
「じゃ、いってくるわ」
「……気をつけて」

 見送って、つくづくと考える。もし外れていたらと思うと、相羽さんには結
局尋ねることが出来なかったけど。

「…………拗ねてた、のかな」
 くるんと大きな目を向けて、青いベタがぱたぱたと鰭を動かしてみせた。

             **

 考えてみたら家族になってこちら、出張だの何だのを除くと、こちらの部屋
に寝たことって、ほぼ無い。いつも相羽さんを枕にして寝てるし(よく考えた
ら相当に無礼な話ではある)。
 に、しても。

「早くお母さん、探さないとねえ」
「きゅ?」
 鼻先を飛んで廻るベタ達を追いかけて、雨竜がとてとてと走る。それを見な
がら呟くと、小さな竜は足を止めて、くるりとこちらを向いた。
「あなたのお母さん、探さないとね、って」
「……きゅぅ」
 途端に元気をなくしてしょんぼりと頭を垂れる。
「というか……お母さんは、多分、お空の上、なんだろうけど」

 この子を連れて、空に落ちればいいのかもしれないけれど。
 でも、やみくもに落ちてどうなるものでもない気がするし。
 かといって、またこの子が今晩張り付いてきたら……

「……どうしよ」

 家族だから、と、相羽さんは言う。家族だから甘えていい、家族だから他に
は言わないわがままも言っていい……って。
 一緒に居たい。本当にそれだけのことで、単純なことなんだけど。

「……ねえ」
 考えている間に、またとたとたとかけっこが始まっている。声をかけると、
今度はベタ達も一緒に急停止した。
「まだ、一人で寝るのは怖い?」
「きゅっ」
 ……握りこぶしで力説しなくてもいいと思う。
「……困ったなあ」

 溜息をつくと、視線の先で、小さな竜のほうもやっぱり多少困った顔で腕組
みをしていたりする。
 ……うん、まあ、それはいいんだけど。

「……ん?」
 視線。
 振り返ると、ベタ達(三匹揃って)がこちらを見ている。怒ってもおらず、
喜んでもいない……そう、なにやら企んでいるような。
「どしたの?」
 声をかけると、そのままぴゅっと部屋の向こうに飛んでゆく。何やら悪さを
する積りか、までは判ったんだけど、それが何かはさっぱり判らなかった。

 ……その夜までは。

            **

 ありがちなことだけど、子供ってのは誰かがやってることを自分でもやりた
がるものである。それが自分に可能かなんてのは、大概二の次、三の次になる。
 
 と、いうわけで。

「い、いたたたっ」
「きゅー」

 ベタ達と雨竜の精神年齢はほぼ同じくらい。どちらも相当甘えっ子で、どち
らも案外引かない。
 あたしも迂闊だったと思う。3人(メスベタは流石にこの中には入ってない
と思う……)のうち一人だけを特別扱いして、一緒に寝るなんてことをやって
しまったのだ。
 あとの二人がどうするか、なんて、目に見えてた筈なのに。

 ぱたぱた、ぱたぱた。
 後頭部、多少左側で、柔らかい鰭がはたはた動く。それはいいんだけど。

「髪の毛引っ張ってるー」

 積極果敢に突っ込んだ赤いベタと、積極果敢な積りで、一歩遅れた青いベタ
と。意図を読んで、相羽さんが阻止してくれたから、被害は一匹だけで済んだ
ものの……つまり赤いベタが現在えらい勢いで、髪の毛にひっからまっている
わけで。

「ほら、だいじょぶか」

 相羽さんが髪の毛をかきわけてる。頭の上で、どうやら雨竜もその手伝いを
しているらしい。
 ぢたばた、ぢたばた。
 尾っぽが外れたのか、ぱたぱたと頭に鰭があたる。それは全然痛くないんだ
けど。

「……ひっかかってるー」 
「ほら、動くな」

 ぱた、と、抑えられてベタがじっとしてから、ようやく、髪の毛は全部外れ
た。


「……あのね」
 一件落着してから、お茶と和菓子を出す。わーいと飛んでゆきそうになった
ベタ達を掴まえて、二匹を目の前に並べた。
「そやって何でもかんでも全部真似しないの」 
 じっと、目に力を入れて、等分に眺める。最初、きょとっとこちらを見てい
た二匹は、だんだんと元気なく胸鰭を垂らした。
「次やったら、怒るよ?」
 噛んで含めるように言うと、二匹のベタは、しゅーんと下を向いた。
(わ、笑っちゃいけない、笑っちゃっ)
 正直なところ、この小さなベタ達が、しゅーんとしている図というのは、笑
える。でも、教育上、こういう場合には笑っちゃいけないわけで。
 視界の端で、相羽さんが声をたてずに笑っているのが見える。

「……きゅぅ……」
 頭の上で、何だか困ったような声が聞こえる。
 そうだ、この子にも言っておかないと。

「でね、雨竜さん。今日はあたしの髪の毛の中で寝ないように」
「きゅうっ?!」
 ああ、またぢたばたするし……
「一人でって言ってないの。ベタ達と一緒なら怖くないでしょ?」
 てぽてぽ、と、小さな前脚が額を叩く。降りてこようとしているらしかった
ので、手を出して受け止める。
「皆一緒。それなら、大丈夫でしょ?」
「…………」
 大きな目が、うろうろ、と、動く。ベタ達を見、そしてあたしを見て。
「……きゅうっ」
 がんばりますっ、のノリで、お返事をしてくれた。
「よし、えらいっ」
 指を出して、前脚のほうに差し出す。手に比べて大きな爪のある指が開いて、
しっかりとあたしの指を握り締めた。

 一件落着……と、ほっとして、そしてようやくあたしは気が付いた。

「……メスベタは?」
「さっき、あっちに行ったけどねえ」
 手の中で、まだちょっと元気の無いベタ達を転がしながら、相羽さんは台所
のほうを示す。
「え」
 慌てて立ち上がって、台所に行く。何となく予測はしてたんだけど。

 ど。

 入っていった途端、メスベタがテーブルから高く飛び上がった。そのままあ
たしの頭の上を逃げてゆく。

「……こらあっ」

 テーブルの上に並べた和菓子には、軒並みメスベタの爆撃の跡がついていた。


時系列
------
 2006年四月半ば

解説
----
 そして拗ねる人、真似る人。
 ……案外、拗ねてるのは先輩だけじゃなく、ベタ達もかな、とか思ったり。
******************************************************

 てなもんで。
 ではでは。
 


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