[KATARIBE 29906] [HA06N] 小説『春時雨の竜:其の二』

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Date: Tue, 16 May 2006 00:03:55 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29906] [HA06N] 小説『春時雨の竜:其の二』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年05月16日:00時03分55秒
Sub:[HA06N]小説『春時雨の竜:其の二』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
のろのろ自転車操業です。
続きです。

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小説『春時雨の竜:其の二』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 雨竜
     :迷子の竜。まだまだ子供。きゅうきゅうと泣く。
 ベタ達
     :以前、相羽家で飼われていたベタ達のあやかし。

本文
----

 とととと。
 テーブルの上を、小さな竜が走ってゆく。
 赤と青のベタが、先導するように竜の鼻先を飛んでいる。そのままテーブル
の端まで行くから、やるんじゃないかなあとこちらも覚悟して、その端っこで
待ち構えてたら。

「……ほらやった」

 とと、と、慌てて足を止めても間に合わない。前脚が空を掴んで、あわあわ
と落ちかけたのを手で受け止める。わたわたた、と、青磁色の竜は手の上で前
脚を踏みかえて……そしてひょい、と、脚を止めるとこちらを見上げた。

 くるり、と、大きな黒い目。

「ベタ達は飛べるからいいけど、あなたは飛べないんでしょ、まだ」
「……きゅぅ……」
 その目を伏せて、何だか悲しそうになる。
「いや、別に責めてないけど……危ないから気をつけてよ?」
「きゅぅ」
 ちょっと上目遣いでこちらを見る。
 ほんっと……子供、だなあ。
「ベタ達も、ちゃんと気をつけてあげてね?」
 ぷくー、ぱたたたたっ。
 二匹がぱたぱたと頷く。

           **

 考えてみたら『空から竜を拾ってきました、うちに置いてやって下さい』な
んて、相当に常識はずれなわけだけど。
 こういうとき、相羽さんって人は驚かないしうろたえない。どころか、この
小さな竜をかなり気に入ったようで、ご飯を食べ終わった後は手に乗せて、し
ばらく遊ばせていたようだった。
「何か、懐いてるね」
 洗い物と明日の朝の用意を終えて、お茶を入れ替える。その頃には、小さな
竜は、相羽さんの肩から頭、そして反対の肩から腕へと、とてとて大喜びで走
り廻っていた。
 一緒にひらひら飛び回る赤と青のベタ。
 って……二匹?
「……あれ?」
 周りを見回すと、なーんとなく不穏な表情を身体中で示しながら、ちょっと
離れたところからぢーーーーーっと見ているメスベタが。
「…………」
 人一倍、相羽さんにくっつきまわるメスベタにしたら面白くないのかなあ、
とは思ったけど。
「あ、こらっ」
 こちらが見ているのに気が付いたのか、突進してきてでしでしでし……
「やめなって」
 こぼしそうになったお茶を相羽さんが受け取って、もう片手でメスベタを止
める。でし、と、勢い余って相羽さんにぶつかった後、メスベタはふよふよと
(人で言うならよろりらと)向こうに行ってしまった。
「……大丈夫かな」
「ん?」
 きょとん、と、こちらを見た相羽さんの頭の上から、やっぱりちょこんと小
さな竜が顔を覗かせていた。


 ひとしきり騒いで、ひとしきりお菓子も食べて。
「……で、どうしてそこに居るのかな」
 もう寝ないと、という時間にふと気が付くと、頭の上、髪の毛を軽く引っ張
る感覚。そして耳の辺りにぶら下がった尻尾。
「きゅうっ」
 頭を傾けても動かない。よほどしっかり掴まっている……というか、かなり
こうやってるのに慣れてる……?
「そこで寝るの?」
「きゅうっ」
「でも、あたし横になるし、寝てる間も動くけど……大丈夫?」
「きゅうっ」
 それでも多少心配だったから、まず髪をほどいて、それから頭に載せてやる。
 四肢を器用にほどいた髪に絡ませて。
 危なかったら言ってね、と、声をかけてから頭を傾けて、横になってみる。
「……大丈夫?」
「きゅぅっ」
「平気そうにしてるね」
 横で見ていた相羽さんも、そう言う、から。
「……じゃ、大丈夫かな」
 尻尾が耳の辺りで、ぱたぱたと動く。

 それにしても。
「……生きた簪ってのはあたしも初めてだな」 
「器用なもんだ」 
 自分の頭の上のことだから良く判らないけど……うん、確かに器用だと思う。
「きゅぅ」
 最後に、小さな声。眠る前の子供のような。
「おやすみ」
 見当をつけて頭を撫でると、小さく喉を鳴らすような振動が伝わってきた。

 いつものように、腕枕してもらって。
 いつものように、相羽さんの手が髪に伸びる気配。
 慌てて手を押さえた。

「……起きちゃうよ」
「あ」

 数秒の沈黙。
 そして。

「まあ…………そのうち考えよか」 
「……うん」

 妙に不穏な声だったのは、気のせいだろうか。

          **

 その夜、夜中。
 泣いている気配で目が覚めた。

 泣いている子供の、しゃくりあげるような息の音。

「……どしたの?」
 出来るだけそっと起きて、出来るだけそっと頭の上に手を伸ばした。
 伸ばした手に、転がり落ちるような勢いで、小さな竜は移ってきた。
「さびしくなっちゃった?」
 カーテンの隙間から差し込む街灯の光の下で、竜はぎゅっと目をつぶった。

 竜という種族が、どのくらい長生きかは、知らない。
 だけどこの子は、やっぱり小さな子供で。
 迷子になって、それこそ見も知らぬ(ついでに種族も違う)相手のところで
泊まることになってしまった子なんだな、と。

「……お母さんを、探そうね」
 抱き上げて……出来るだけそっと、頬擦りする。
 こくこく、と、頭が小さく動くのが判る。
「だから、今日は……寝ようね」
 こく、と、頷くけど。
 だんだんと頬から首に、冷たく濡れる気配。
 やっぱり雨竜だから、涙も良く出るのかな……なんて。
 まあ、莫迦なこと考えてみたり。


 結局、小さな竜は、喉元に丸まって眠ってしまった。
 手を下ろすわけにもいかないし、これでこのまま……元のように相羽さんの
腕枕で寝てると、何だかその間でこの子を潰しそうな気もして。

 出来るだけそっと、掛け布団から出る。
 きゅう、と、小さく泣くのを、そのままそろっと運んで。
 以前借りていた部屋に、まだベッドがそのまま置いてある。その上に横になっ
て、喉元にそろっと竜の子を乗せて……一応タオルをその上に掛けてやった。

 そっと頭を撫でてみる。
 ほんの少しだけ、身動きする気配。
 でも、起きることは無い……な、これなら。

 ほっとする。と同時に、こちらも眠くなった。
 寝返りうたないように気をつけないとな、と……それだけは何度も頭の中で
唱えた。絶対にこのままじっと寝るんだ、とも。
 
 それにしても、と、半ば眠った頭で考える。
 この子のお母さんも……さぞや心配しているだろう……けど。

 しかし、言っといて何だけど……どうやってお母さんを探せばいいんだろう
かな。
 無責任だなあ、と、頭のどこかで思ったところで。

 その日の記憶は途切れている。

時系列
------
 2006年四月半ば

解説
----
『初めてのお泊り・雨竜編』(あれ?)
 何となく割を食ってる人がいるようですが、気のせいにしといて下さい<おい
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 てなもんで。
 ではでは。
 
 


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