[KATARIBE 29895] [HA06n] 小説『魔術師の回想〜銀の魔術師の場合〜』

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Date: Thu, 11 May 2006 00:28:02 +0900 (JST)
From: 葉月知洋  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29895] [HA06n] 小説『魔術師の回想〜銀の魔術師の場合〜』
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2006年05月11日:00時28分02秒
Sub:[HA06n]小説『魔術師の回想〜銀の魔術師の場合〜』:
From:葉月知洋


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小説『魔術師の回想〜銀の魔術師の場合〜』
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登場人物
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 波佐間御南深(はざま・みなみ)
     :銀の魔術師。今回の追憶者。
 
 静寂宗蓮(しじま・そうれん)
     :規格外の魔術師。私利私欲はあまり好きではない。


仕事と回想
----------

 白銀の閃光がそれを貫く。断末魔の悲鳴を上げる暇も与えずに魔のものを滅
する。
 「さて、これで今回の仕事はおしまいね。」
 退魔の仕事の後というのに息も切らせず落ち着いた声で話す女性。
 それもそのはず、一度の奇襲で全滅させたのだから。
 「ふぅ……これは、イマイチいい感じしないわね、まぁこれで助かる人も居
るからいいけど。」
 仕事後の一服をしながら私は回想する。


伽藍洞発足時の会話
------------------


吹利に引っ越してきて数ヶ月のころ。

 「そろそろ組織でも組もうかなぁ」
自分の部屋にして工房で御南深は呟く。
 「ここ吹利には退魔組織も多いし必要なさそうなんだけど……
 でもなぁ。……やっぱりね……ある程度の人員も居た方がこっちの目的達成
のための行動もしやすいしなぁ。」
 しばし思案する御南深。
 「……よし。静寂に連絡を取ろう。」

数日後

 「で、何のようだろうか?」
 黒一色で統一された和風の服を着た男、静寂宗蓮の工房に御南深は訪れてい
る。
 「ん、ちょっと力を借りに。」
 「ふむ。どういった用件かにもよるがな。話を聞こう。」
 「じゃあ、早速。」
 静寂は、子どもが見れば泣く様な怖い表情のまま御南深の話を聞き始める。
 「とりあえずは私の親戚の家のあるところ、吹利にちょっとした組織を作り
たいんだけれ どね。」
 「…………」
 表情はそのまま、声は出さず目で続けろと促す静寂。
 「退魔組織……なんだけど、それとは別に私的な目的もあるんだけどね。」
 「私的な目的とは?」
 私的なという部分のことを彼はたずねる。
 顔はそのままだが、心なしか先ほどより目が怖い。
 「なに、昔の清算……というか、ミスシルバーという魔術師の理由というか。
唯の昔からの願い事。それも自己満足といわれるような、ね。」
 「……ふむ、あの件が関係あるの……か?」
 「ええ、そうね。」
 「……そういえば、詳しくは知らぬな。語ってはくれまいか?」
 「……ええいいわ、語りましょうか。」
 出来れば言いたくないが……協力を頼むには仕方がないか。
 そして私は昔に思いを馳せた。


回想の中の回想
--------------


 あれは7年前、私がまだ魔術師として未熟な頃のことだった。
 私は師に言われ、数名の協会の魔術師達と共に色々な村を襲っているという
怪異の討伐に行った。
 7人編成の3組に分かれていて、私のほか2人がそれぞれ組を分けて入ってい
たが、残りはそれなりの
 実力者達だった。
 「ここのあたりだな。」
 一緒に来ていた魔術師の一人が言った。
 ―――のとどちらが早かったか。

 大地を揺るがす衝撃。
 村のある方角から悲鳴が上がった。

 「ッ!なんと言う魔力!聞いていたがこれほどまでとは……」
 「立ち止まっている暇があったらいくぞ!」
 「そ、そうだな……」

 もう一人の魔術師の返答とほぼ同時に。

 二度目の衝撃。

 それを合図に全員が駆け出した。


 村は悲惨なこととなっていた。
 元々人口が少ない村、それも会議の為に村人が数箇所に集まっていたため、
2度の攻撃で壊滅的にやられていた。
 そして、到着した時には村人は、全て死んでいた。
 そして、怪異は居なかった。

 「く、遅かったか……」
 「それにしてもなんという魔力と破壊力……」
 「我々では勝てなかっただろうな……」

 目の前の初めて見る惨状に呆然と立ち尽くしながら、先輩に当たる魔術師た
ちの会話を聞くでもなく聞いていた。
 「だいじょうぶか、御南深?」
 先輩が声をかけてくれ、はっと我に返った。
 「少し……気分が……」
 初めて見る惨状と。
 周囲を多い尽くす赤い鉄の匂い。こんなものを見て具合がいいはずが無
かった。
 「御南深、少し下がって休んでおくといいよ。」
 先輩は少し硬い笑顔で私にささやいてくれた。先輩も少し無理をしていた
のだろうが、その時はがんばれる気力も無かった。
 
 そして、検証や、調査が終わって変える準備を整えていたその時。
 突然の後ろからの衝撃。私は景色が飛んでいくのを見て、数瞬送れて吹っ飛
ばされたことに気づいた。
 突然の敵の襲撃に数人の魔術師達が応戦してやられているのをぼんやりと見
る中、私は意識を失った。

 ――――――――――――――――――――――――
 ―――――――――――――――
 ――――――――――そして、目が覚めた。
 「大丈夫かね、波佐間君?」
 見ると、師匠の元の自分の部屋。
 あの後どうなったか私は知らないし、師匠も結果だけしか知らなかった。
 結果は全滅。私だけは転移で直接ここへ飛ばされたそうだ。
 おそらく、先輩がやってくれたのだろう。
 一筋、熱いものが頬を伝った。

 私と同じ師の下で習っていた、兄弟子。本当に兄のような存在だった。その
人しか居なかった。
 自分が跳べば助かったのに。私を先に飛ばして自分は行方知らず。恐らく生
きては居ないのだろう。
 会ったことも無い村の人、あんまり知らなかった他の魔術師。本当の兄のよ
うな兄弟子。
 そして、足手まといになり、何も出来ずに終わった自分が悔しく、無性に腹
が立った。
 その時に誓った。私は自分の一生を他人を、他の人の笑顔を守るために、救
うために使おうと。
 それだけの意思しかなかった。けど、それゆえ強かった。
 そのときはどれだけ厳しい道のりになるかも考えもせず。
 ただ、その思いだけがあった。
 

 御南深は回想を締めくくる。
 「こういったことが……悲しいことが……ないようにね。少しでもやれるこ
とをやろうって。」
  しばしの、静寂。それを破ったのは静寂。
 「……よかろう。お主の言う私的な事に付き合ってくれよう。」
 「ありがとう。」
 静寂の答えに私は心からの感謝の気持ちをこめて答える。
 「……む、して、組織名は決まってるのか?」
 ふっとたずねる静寂。
 「いえ、まだだけど……」
 御南深は協力を頼みに来ただけなのだから、そこまでは考えていなかった。
 「ならば、伽藍洞、ではいかぬか?」
 「……伽藍洞、ね。私は仏徒ではないんだけれども?」
 「すこし位、我に決めさせても罰はあたらんだろう。」
 「私がそういう宗教の『救い』というのから一番遠いのを皮肉ってないかし
ら?」
 「少しばかりな。戒めと思うがいい。」
 「流石に僧はきつい事言うわね。そんなの意味ないって言うのに。」
 「ふ、だが、その理想はかなえたいのだろう?」
 「私の回想の中の回想を一緒に見たのね……?」
 彼には過去視の能力がある。きっと見られていたのだろう。
 「さて、な。」
 「……怒るわよ?」
 「気にすることも無かろう。」
 「酷いわよ、静寂。」
 その言葉に微笑で答える静寂。
 「其処まで変われれば上出来であろう。やることはやるがいい。助けるもの
は助けるがいい。ただし、自分だけで抱え込み過ぎないようにな。」
 「嫌だね。こればっかりは譲れない。本当にきつい所は私がやるし、責任も
私がとる。そうじゃないと駄目なのよ。」
 「……ならば、言うまい。私は手伝うがな。」
 などと彼は言って珍しく微かに笑った。


回想の終わり
------------


 「ああ、おわりましたか?」 
 声をかけられてはっとなった。いけない、少しぼーっとしてたな。
 「ええ、おわりました。今後は出来る限り無茶をされませんよう。」
 今回はこの師匠の兄弟子の弟子のその弟子のミスのせいで私に出番が回ってきたのだ。
 実際、忙しい中これは結構頂けない。まぁ、忍足君に頼んだからいいけれど。
 「わかりました。ですが、次は失敗しません、しませんとも。」
 この、馬鹿……は放って置いてさっさと帰ろうかしら。まず力量と魔力の絶対値が足りてないわよ。
 このぶんだと、下手すると葛海でも勝てるな。
 そんなんだと、命落とすわよ?
 「それではこれで。次はありませんから。」
 男は放って置いてさっさと私は立ち去った。




 そんな彼女にあの頃の少女の影は今はなく、けれど心の底はそのままで――



時系列
------

 2006年5月仕事で九州に行った時

解説
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 御南深の回想。解説も踏まえて?

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 ちなみに、御南深の性格が悪いのは道のりが険しすぎて曲がってしまったた
めです。(ぁ)


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