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Date: Sun, 23 Apr 2006 22:28:23 +0900 (JST)
From: ごんべ <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29862] [HA06N] 『水瓶座の悲劇』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年04月23日:22時28分22秒
Sub:[HA06N] 『水瓶座の悲劇』:
From:ごんべ
こんにちは、ごんべです。
ブルーフェアリーカップ関連。
NPCである少女人形の魔サイドのシーン、一発目です。
いきなりフルスロットルでとばしてみました。
れあなさん確認済み、と言うかれあなさんと合作みたいなものですが。
「さあ、覚悟は良いかしら?(くすくすくす)」
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水瓶座の悲劇
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夜は、闇の世界。
夜は、真実の貌が目覚める処。
……そして夜は、復讐の刻。
「ハァ、ハァ……」
暗闇がよどむ裏路地を駆ける、小さな足音。
息づかいの端々に苦しげな……あるいは怯えたような高い音が混じる。
時折またたく、古びた街灯の光の輪の中に現れたその姿は、数十センチほど
の大きさしかない。十九世紀ビクトリア朝の令嬢の姿を模した可憐な装束は、
しかし左肩で大きくもぎとられて抉られた傷を露わにしており、整った上品な
顔立ちは、今や恐怖の表情を浮かべてしきりに背後を気にしている。
それは、あたかも人間の如くに振る舞うことを得た、意思を持つ人形だった。
元々の出自で言えば、ビスクドールと呼ばれる人形であったのだろうと見える。
そのビスクドールは、もはやぼろぼろであった。
姿も、力も、そして幸運にも授かった心においてすらも。
何故にか彼女は、戦いの場に身を投じた。青き妖精の庭での、人形達の遊戯。
あえてそうするだけの何かしらの思いと願いが、彼女にはあったのだろう。
しかしそれゆえに彼女は……全てを失った。
もはや何度目かわからなくなったほど、もう一度彼女が背後を振り向いた、
その時。
「どこに逃げるのかしら?」
「……ヒッ」
前方からの声に虚をつかれ、慌てて視線を戻したビスクドールは、思わず立
ちすくんだ。
行く手の暗がりの中に、何かがいる。
いや、ビスクドールは、そのモノの姿を何よりも切実に知らされていた。
大きさで言えば、ほんの自分と同じくらいしかない。
しかし立ちはだかる"それ"は、無限の闇そのものにつながっているかのよう。
可愛い少女のフランス人形の姿をした、悪魔。
"それ"は、ファーをふんだんにあしらった豪奢なドレスに身を包み、闇を切
り取ってそこに立っていた。勝ち誇って向けられた双眸は夜の湖よりも昏い。
身じろぎするごとに、ドレスにこびり付いた乾いた血が違和感を放ち、凄絶な
印象を与えていた。
「貴女に、逃げ場など無いわ」
「ヒッ……いやァッ!!」
きびすを返しかけたビスクドールだったが、すぐにその歩みは止まった。
いつの間にか、背後からもいくつもの人影が近づいていた。ギギギ、と、く
ぐもった音が幾重にも重なる。その先頭に立った者の顔を認めて、ビスクドー
ルの喉から悲痛な叫びが上がった。
「いやよ、タクヤ。どうして、なんで……」
ふと、かすかに風を切るような音がしたと思うと、ビスクドールの耳元で
"やつ"が囁いた。
「さっさと消えちゃいなさい」
瞬時に距離を詰めた少女人形は、ぐるり、とビスクドールのくびすじに両腕
を絡める。
「こ、来ないでッ!!」
ぞくり、と地獄を覗いたかのような悪寒を覚えるビスクドール。
彼女の顔前に光が閃き、虚空から水の球が出現したと思うと、水球は無数の
散弾と化して少女人形を襲った。
しかし"やつ"は、さも楽しそうに笑いながら水しぶきを浴び、腕の力を増す
ばかりだった。
「アハハハハハハッ!」
「い、いや。イヤァッ! 助けて、あたしが。せっかく見つかった『あたし』
が無くなる。無くなっちゃう」
それぞれの哄笑と悲鳴が混じり合って、夜の闇に吸い込まれてゆく。やがて
悲鳴はすすり泣きに代わり、ビスクドールの顔から、『彼女』自身の表情が次
第に消え失せていく。
恐怖と絶望に侵食されながら、ビスクドールは最後の力で、眼前に立ちつく
す人影へと手を伸ばした。
「助けて、タクヤ。助けて、怖い、怖いよぉ……」
まだ若いと思しき男の足下にすがりつき、かぶりを振りながら泣きじゃくる
ビスクドール。しかし、青年の表情に変化はない。
泣き声は次第に低くなり、やがて辺りは静けさに包まれた。
「……あまり美味しくもないのね。こんなものかしら」
少女人形が、さも興ざめと言った様子でつぶやき、腕をほどいた。
「さあ、立ちなさい」
少女人形の一声に、表情を失ったビスクドールは、力ない、文字通り人形の
ような動作でギクシャクと立ち上がった。
少女人形が、す、と上方を指し示すと、それに従うかのように、ビスクドー
ルは軽い身のこなしで、とん、とん、と電信柱を登っていく。
ビスクドールが電信柱の天辺にたどり着いたとき、少女人形は、さっ、と手
を振り下ろした。
とん、と最後の一蹴りで、ビスクドールが空中へ身を投げる。
服の飾りが風になびいてひらひらと踊り、銀色の髪が遠くの灯りを受けてき
らきらと波打つ。少女人形と青年、そして無数の傀儡が見守る中、ビスクドー
ルは頭から路上へと落下していった。
と、ビスクドールが路面に達する寸前、少女人形の表情が邪悪に歪んだ。
その瞬間、ビスクドールの顔に表情が戻った。彼女の目が、青年の姿を映す。
「あ……タク……」
ガシャン
青年の目前で、ビスクドールは装束だけを残して粉々の破片と砕け散った。
一瞬、青年の瞳にかすかな光がひらめいたように見えたが、……すぐに何の
表情も見られなくなった。
少女人形は、四散した破片の中央に歩み寄り、何かを拾い上げた。
水瓶を抱えた乙女が彫り込まれた小さなプレート。ビスクドールが何者かか
ら受け取ったであろうタリスマンは、今やその光を失っていた。
「ふふふ……素晴らしい力だわ」
さも満足げに微笑み、少女人形はひらりと一回転して見せた。
少女人形の感情を表すかのように、豪奢なドレスのファーの一本一本が燐光
を帯びて妖しくきらめく。
そのまま踊るように跳躍した少女人形は、青年の肩に飛び乗り、彼の首と髪
に手をかけてしなだれかかった。
「よく見ておきなさい。これが私。これからよろしくね、私の"マスター"?」
アハハハハハッ、と艶めかしくも甲高い声が響く。
いつしか傀儡達の姿は消え去り、やがて青年と少女人形は、いずこかへと歩
き去っていった。
夜の闇の、さらに深き淵へと。
解説
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ブルーフェアリーカップの第一の犠牲者と、闇に潜む魔の姿。
時系列
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2006年4月半ば
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ごんべ
gombe @ gombe.org
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