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Date: Sun, 16 Apr 2006 02:10:36 +0900 (JST)
From: 久志 <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29856] [HA06N] 小説『淡緑の影』その3
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年04月16日:02時10分36秒
Sub:[HA06N]小説『淡緑の影』その3:
From:久志
久志です。
東っちと奥さんの出会い続きます。
今度は東っち視点での話。
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小説『淡緑の影』その3
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登場キャラクター
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東治安(あずま・はるやす)
:吹利県警警備部、公安の人。2000年当時巡査。二十半ば程。
断片記憶 〜東治安
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モノクロテーブルの上、少し日に焼けた本の頁をめくる。テーブルの片隅に
は空のクリスタルグラスがスタンドの明かりに照らされて屈折した白い輝きを
放っている。
思い返すのは一週間前の光景。
通いなれた市立図書館西棟、中庭が見渡せる窓際に置かれた小さな閲覧用机
に向かい、大分年季を積んだ表面の少し毛羽立った深緑のソファに腰掛けて、
過ごす時間。そこまでは、変わらない非番の風景。
頁を手繰る手を止めて目を閉じる。ざらりとした紙の感触を確かめるように
指先で頁を撫でる。
淡い緑色の影。
何度思い出そうと試みても、その姿は記憶から浮かび上がってこない。
***
記憶とは流れ落ちる水を手に留めるようなものだと思う。
とめどなく流れてゆく時間の中で、起こった幾多の出来事を両手で受け止めて
流れ落ちてしまわないよう受け止め続けている。記憶力の良い人間というものは
その手から記憶をこぼさないようしっかりと指をとじて受け止めることができる
者をいう、それでも全てを漏らさずに留めておくことはできない。だが、どうし
てほんの数日前に目の前で見た彼女の姿を思い出すことができないのだろうか。
閉じた目の奥、ひとつひとつの体のパーツを思い浮かべることはできる。
少し色の淡い波打った長い髪、線が細く少しとがったあごの形、微かにすぼめ
た唇が艶々と光って、心持ち首を傾けてこちらを見上げて。背は低くはないが、
取り立てて高くはない。だがそれでも背が高く感じるのは顔の小ささと、肩から
首にかけてのすっきりしたラインのせいだろうか。
おかしな話だ。
そこまでの記憶があるにもかかわらず、それら全てを組み合わせた姿が記憶の
中で像にならない。長い髪も、細いあごも、全てが重なり合った途端に淡い緑色
の幕に覆い隠されて、その姿を映し出してくれない。
手にした本を閉じて目を開く。
心の表面を覆う緑の影――おそらく自分でも気づいている、その理由に。
時系列
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2000年3月。
解説
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東っちと奥さんと初めて出会った日の後。
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以上。
てか、しっかり相手見てるじゃないか、東。
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