[KATARIBE 29852] [HA06N] 小説『淡緑の影』その2

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Date: Wed, 12 Apr 2006 01:07:34 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29852] [HA06N] 小説『淡緑の影』その2
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2006年04月12日:01時07分33秒
Sub:[HA06N]小説『淡緑の影』その2:
From:久志


 久志です。
東っちと奥さんの出会い続きます。
……いつまでつづくんだろう。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『淡緑の影』その2
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登場キャラクター 
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 坂口かほる(さかぐち・かほる)
     :吹利に引っ越してきたイラストレーターのお姉さん。

追憶風景 〜坂口かほる
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 そこはまるで古い街並みのように。

 粗い砂を思わせる深い灰色のカーペットは長い年月を積み重ねた石畳。
 通路をはさんで規則正しく立ち並ぶ飴色の書架は木製のアパルトメント。
 閲覧ソファの側に置かれた青々と茂るベンジャミンは街路樹。

 高い天井に少し落とした照明、中庭に面した広い窓から差し込む陽光がくま
なく部屋を照らしていて。
 飴色の古めかしい書架の合間、灰色の石畳を踏みしめて足音もなく歩く姿。
時折立ち止まってはずらりと並ぶ本の背表紙をたどる指先。

 まるでその場の風景の一部のように、当たり前のように。

 ――あの人はいた。

   ***

 シャーペンの芯がすべる音が響く。
 スチール製の仕事机の上にのせられたトレス台の上、編集部から渡されたイ
メージから起こした原案と、原案の添削と追加でされた箇所を考慮しながら更
に変更を加えていく。机の端に積まれた緑の表紙の仕事用クロッキー帳にはイ
ラストカットの原案や商品POPのイメージラフで埋めつくされて、机の前の
コルクボードには依頼を受けた仕事の状況とポイントをかいつまんでまとめた
メモがピンで留めてある。
 イラストレーターや小説家などといった職業のイメージとして、大抵が夜型
で昼間は寝ていて夜中に仕事をしていたりという風に思われがちだけど、案外
そうでもない。会社勤めを辞めてフリーになった今でも、長年染みついた時間
配分というのはそうそう変わるものでもなくて。朝は会社勤めの頃と大差ない
時間に目を覚まして、朝食と同居人である従妹のお弁当とを作って一息ついて
から、就業開始時間と同じくらいの時間から机に向かい、終業時間にはひと区
切りがついているという比較的健全な生活が続いている。

 シャーペンを動かす手を止めて、小さく息を吐く。

 イラストというものは絵の上手さ下手さだけが重要なのではなく、その絵の
デッサン、色彩、構図から見て、どんな個性があり、どんなスタイルを持って
いるのかが大切で、イラストレーターとしてやっていく為には、いかに自分の
持ち味を生かして、見る者に訴える個性を持たせられるかが重要になってくる。

 もう一度、溜息が出る。
 時計の針は十二時前、今日は朝から何だか調子がおかしい。

 今朝から、いえ昨日の夜から、いえ違う。
 ――あの図書館で、あの人に会ってから。

 人を好きになる基準というのは人それぞれ。
 中でも私にとっての基準というのはその人の外見が取り巻く空気、人となり
から透けて見える情景、その人に似合う景色といった、どこか本人だけでおさ
まらないものを基準にして捕らえるフシがある。
 私の場合もイラストと同じで、その人が内に持っている風景や個性といった
ものに興味を惹かれる。

 古い街並みを思わせる、あの図書館。
 溶け込むように、当たり前のようにそこにいて。
 どことなく温度を感じさせない雰囲気で、かといって冷徹な印象ではなく。
 一秒の狂いもなく正確に時を刻む、精密な機械時計のような。

 ――あの人。 

 机の上に転がるシャーペン。

 また、会えるかしら。


時系列 
------ 
 2000年3月。
解説 
----
 東っちと奥さんと初めて出会った日の後。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。





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