[KATARIBE 29844] [OM04N] 小説『赤き桜』

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Date: Wed, 05 Apr 2006 00:44:43 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29844] [OM04N] 小説『赤き桜』
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ふきらです。
冬眠中ですが思いついたのでおにばな。

多分続きます……が、次がいつになるかは(汗

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小説『赤き桜』
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登場人物
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 烏守望次(からすもり・もちつぐ):http://kataribe.com/OM/04/C/0002/
  見鬼な検非違使。

 秦時貞(はた・ときさだ):http://kataribe.com/OM/04/C/0001/
  鬼に懐疑的な陰陽師。

本編
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「ほう、真っ赤な桜だと」
「うむ」
 望次は右手に持った杯を顔の前に上げたまま頷いた。
 春の夜。東の空に浮かんでいる満月は大きく、少し赤みがかっている。
 吹いてくる風がどこからか花の香りを乗せてきた。しかし、春とはいえまだ
少し肌寒い。望次は身を一つ震わせ、杯をあおった。
 隣に座っている時貞も同じように酒を口に運ぶ。二人の間には燭台が点って
おり、その炎が作る影が庭へ落ちている。
 真っ赤な桜か、と時貞はもう一度呟いて首を捻った。
「昨年はそのような話は聞かなかったような気がするが」
「うむ。俺も聞いた覚えはない」
「で、どこで咲いているのだ?」
「五条の橋の近くの寺だ」
「あの寂れた寺か」
「そうだ」
 時貞は腕を組んで、ふんと鼻を鳴らした。
「どうした?」
「何とも、らしいと思ってな」
「らしい、とは?」
 望次の問いに時貞がニヤリと口元を歪める。その表情を見て、望次は彼の言
わんとしていることに行き当たった。
「む…… そういうことか」
 時貞は渋い表情を浮かべた望次を横目で見る。
「まあ、そういうことだ」
 彼が笑みを浮かべたまま答えた。
 強い風が吹き燭台の炎が大きく揺れる。つられて庭の影も揺れ、そして、
ふっと影が消えた。
 辺りが一瞬、闇に包まれる。
 しかし、空に浮かんでいるのは満月。月の光に照らされ、明かりが無くても
特に支障はない。
「……無くても良いな」
 正面を見たまま望次が呟く。隣で時貞が、ああ、と頷いた。
 二人はしばらく黙ったまま庭を見ていた。小さな花があちらこちらで咲いて
いる。
「しかし、桜がないのが残念だ」
 望次は言う。
「いつも見られる場所にあれば、いくら桜といえども見飽きるだろうよ」
「ふむ?」
「ならば、ない方が毎年春を楽しめて良いではないか」
 時貞の言葉に彼は軽く微笑んだ。
「……なるほど。そういう見方もあるか」
 やけに納得したのか望次は大きく頷く。それを横目で見た時貞は杯に残って
いた酒を飲み干すと立ち上がった。望次が不思議そうな表情で彼を見上げる。
「さて、花見にでも行くか」
 唐突なその言葉に、は? と望次は聞き返した。
「花見?」
「うむ」
「今からか?」
「うむ」
 しばらく望次は考えた。
 どうせ自分が行かなくても、時貞は一人ででも出かけるであろう。しかし、
いくら腕の立つ陰陽師とはいえ、夜盗にでも出会ったら歯が立つまい。
 ならば。
「……行くか」
 望次は時貞に付き合うことにした。
 夜盗ならば自分がどうにかできるし、鬼ならば時貞がどうにかできる。
「明かりはどうする?」
 望次が尋ねる。時貞は目を細めて空を見た。
「雲もないし、今日は月がずっと出ているだろうよ」
「では、いらんな」
「うむ」
 そして、二人は屋敷の門を出る。
 誰もいない通りに二人の影が長く伸びた。

解説
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いざ夜桜見物へ。

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