[KATARIBE 29830] [HA06N] 小説『了・バレンタインの夜』

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Date: Thu, 16 Mar 2006 00:17:49 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29830] [HA06N] 小説『了・バレンタインの夜』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年03月16日:00時17分48秒
Sub:[HA06N]小説『了・バレンタインの夜』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
こー、半日の出来事書くのにどんだけかかってんだ己。
ってんで、最後です、流します。

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小説『了・バレンタインの夜』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 赤ベタ、青ベタ、メスベタ
     :以前、相羽家で飼われていたベタ達のあやかし。

本文
----


 バレンタインデーに相羽さんに何か渡すって、初めてだったな、と。
 粉をふるいながらふと思った。

 そういえば去年、この日の後、すぐくらいに本宮さんを通して初めて会って。
だから、甘いものが好きかどうか以前に、そもそも存在さえ知らなかったって
のが去年の今日の時点で。
 会って、まだ一年。ようやく一年。

 気が付くとガトーショコラの種にダイブしかけるベタ達を捕まえながら、そ
んなことを思っていた。

              **
 
 この父にしてこの子達あり……じゃないだろうけど、やっぱりベタ達は甘い
ものが好きである。
 だからケーキ焼くならベタの分もって思ってたんだけど。
 でも……こういうのは莫迦らしいかもしれないけど、相羽さんにケーキ作る
なら、まるまる一つどうぞ、とあげたかった。
 かといって、どうせ山ほどチョコを貰ってくるだろう人に、大きなケーキ作っ
ても邪魔になりそうで。

 で。
 結局、小さめの丸いケーキの型とパウンドケーキの型をそれぞれ一つ買って、
それぞれ焼いてる莫迦が自分だったりする。
 どう考えても、ベタ達だけじゃパウンドケーキ一つ分食べられっこないのに。
 

「はい、これ、相羽さんの分」
「ああ、ありがと」
 
 お皿に乗せて、手元にあったラッピングの紙で包んで。
 自分でも思い切りらしくないことをしているなあとは……流石に思ったけど。

 用意している間に、先程のチョコはどこにも無くなってる。
 紅茶と一緒に渡した途端、相羽さん、本当に嬉しそうに受け取ってくれて。
 で……ベタ達が突進してるし。

「こらっ」
「あーちょっと待て」

 一緒に渡した小型ナイフで、相羽さんがケーキを切り……かける前に。

「ベタ達用には、こっちで作ってるから」
 ひょい、と、ベタ達が頭をめぐらしてこちらを見る。
「それは、相羽さん用だから」

 言った途端、ぴゅん、と、赤と青のベタがこちらに飛んでくる。
 メスベタは……相羽さんのところに残っている。

「そっちに、ベタ用のがあるの?」
「……うん、作ってある」 
 言ってから気が付く。確かに、相羽さんからベタ達にケーキをあげれば済む
ことだったんだ。それを二つ作るってかなり無駄というか、変なことかもしれ
ないって、そうか相羽さんもそう思うよなあ普通。

「……いや、あげるんなら、一つまるまるあげるのが筋かなって……」
「嬉しいよ」
 わたわたしていたのを、その一言ですとんと落として。
「ほら、あっちの食え」
 ぴこん、と、メスベタの背びれのあたりを、軽くはじいて。

 自分でも思った。莫迦じゃないかって。
 直径18cmの型を一つ買って、3/4を相羽さん、1/4をベタ達ってこと
にすればいいじゃないかって。
 でも、あげるなら、一つ全部、あげたかったんだ。
 
「今持っていくから、ちょっとだけ待ってて」
 だから、その為に別に作った、パウンドケーキ型のほうから、カステラみた
いに一切れずつ切って。

「はい、お待たせ」
 
 今日の、一番の功労者のメスベタに、チョコケーキを差し出す。
 何だか一瞬、ふんっとのけぞったメスベタは、でもすぐにチョコケーキを突
付きだした。

「で、これは赤のベタの。そしてこれは青のベタの」

 あとのお皿を二つ、並べて置く。と同時に、赤と青の色彩が、残像ごとケー
キに突っ込んでゆく。

「お前さんのは?」
「あ、ちゃんとあるから」
 切ったケーキの皿を、ベタ達のお皿の横に置いて。

 しかしこう、何と言うか。
 特攻したおかげで、赤ベタと青ベタのケーキは無残に崩れている。真っ当に
つくつく食べているのはメスベタだけのようだ。ちゃんと端っこからつくつく
崩しているあたり、しっかりしているというか、堅実というか。

 って、おい。

「あらら」

 かぷ、と、ケーキを大きくほおばると、メスベタはそのまま方向転換して、
相羽さんのほうに真っ向から突っ込んだ。

「こら、食われたいのか」 
「口に一杯ケーキついてるよ?」 

 ぺち、と。
 手のひらでガードされたメスベタは、そのままふわりと天井のほうへ浮き上
がった。
 何だか妙に……悔しそうに見えた。

「あ、相羽さん、紅茶のお代わり、いる?」
「うん」

 カップを受け取って、台所でお湯を沸かしなおして。紅茶を淹れ直して、さ
てあっちに行こうか、と思った矢先に。

「こら」 
「……何、どうしたの?」 
 お盆とお代わりのお茶と一緒に、そちらを見ると。

 お皿……あたし用に一切れ切ったケーキののっかったお皿だ……を持った相
羽さんと。
 その周囲を、高速回転しているメスベタと。

「……こいつ、皿ごともってこうとしてる」 
「お皿ごと?!」
「頭にのっけてね」
「うわー」

 テーブルの上を見る。
 相羽さんのケーキは、まあ、これは残ってて当たり前で。
 その近くの、赤ベタ青ベタのお皿は、ケーキはぐずぐずに崩れてるけど、ま
あ順当だなって感じで。
 で、メスベタの……というと。
 相当無くなってたのは事実。でも流石に、切り分けたケーキを一気に食べて
いたわけではなかったようだ。 

「まだ、残ってるのね、ケーキ」
「そっちから食べろっての」

 つん、と、相羽さんが指で突付くのを、メスベタはつーんと横を向いたまま
受けた。

「……あ。でもそれだけこのケーキを気に入ってくれたのかな?」 
 それならば、こちらとしては嬉しい。
「それなら、もう少し切ってあげようか」 
 でも、流石にこの小さな身体に……と思うと、どうしても小さく切ってしま
う。標準的(?)な厚さのカステラを、これまた半分に切ったくらいの。
 お皿を持ってゆくと、メスベタは、頭から突っ込む勢いでやってきた。

「おなか壊さないようにね」 
「オスよりよっぽど強いよねえ」 

 つくつくと相羽さんが、メスベタをつつく。 
 えいえい、と、メスベタが、小さい頭で相羽さんの指を押し返す。

「やれやれ、やっぱり闘魚だね」 
「……戦ってる積りなのかなあ」 
 でも、相羽さんの為に、さっきのチョコに特攻かけたのはこの子なんだけど。

 赤ベタと青ベタは、二匹揃ってつくつくケーキをつついている。
 メスベタのほうは、何やら暫くケーキの周りをくるくる回った挙句、ちょん
ちょん、と、ケーキを突付きだした。
 さっきのチョコのことが、嘘のように。それは本当にいつもの風景で。
 何となく……ほっとした。


 相羽さんが居て。
 ベタ達が居て。
 そういえば出会ってからまだ一年経っていないのに、もうすっかりあたしは
この人の家族で。
 こうやって黙って座っているのが、何よりほっとするようになっていて。

 そう考えると……不思議で仕方がない。
 一年前。出会った途端におネエちゃん情報を如何に取得するか、どうやって
ひっかけるかを得々と語ってくれたっけ。、
 同居を始めたのが7月。それからずっとこの人は、おネエちゃん情報を使っ
てない。それだけのブランクがあっても、まだ髪の毛入りのチョコの来る人が。

 それだけよりどりみどりだった人が、あたしの隣に座って嬉しそうにケーキ
を食べてる。
 
「……どしたん」
「うん、何だか」

 カップの中の、紅琥珀の色。

「世界って、不思議だねえ」

 思わずそう言ってしまって、これは脈絡が無さすぎだ、と、自分でも思った
んだけど。

 そうかね、と、相羽さんは少しだけ笑った。


時系列
------
 2006年2月14日夜。

解説
----
 バレンタインの夜、これで終わり。
 何かすっかり5人家族です……長女メスベタ、次男三男赤ベタ青ベタって感じで。
***********************************************************************

 てなわけで。
 去年、この二人の最初のキャラチャって、確か2月の17日くらいなのですよ。
 そう考えると…………真帆にとっちゃ、相当怒涛の一年だったんだなあと。
 書きながら思いました。

 ではでは。
 


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