[KATARIBE 29828] [HA20N] 小説『ねんねちゃん』

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Date: Wed, 15 Mar 2006 23:46:32 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29828] [HA20N] 小説『ねんねちゃん』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年03月15日:23時46分31秒
Sub:[HA20N]小説『ねんねちゃん』:
From:久志


 久志です。
 なんとなく動かしてみて結構気に入ったりりあ嬢と由梨子さんです。
ちなみにこの話で登場している吉井美加嬢は去年の子ノ一号セッションで登場
した女の子だったりします。

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小説『ねんねちゃん』
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登場キャラクター 
---------------- 
 深嶋りりあ(みしま・りりあ) 
     :西生駒高校一年、演劇部員。佐保彦を演じる。
 御名原由梨子(みなはら・ゆりこ) 
     :西生駒高校一年、演劇部員。ナレーション担当。
 吉井美加(よしい・みか)
     :西生駒高校一年、演劇部員。佐保姫を演じる。

休み時間の光景
--------------

「きすしーん?」
 思わず手にしたお箸を取り落としそうになる。
「りりあさん、声が大きいですわ」
「あ、ご、ごめんなさい」
 慌てて声をひそめる……けど、教室には私達しかいないし。

 三月に入って、学校のイベントは卒業式を残すばかり。
 一年生である私達は授業もなく、こうして学校に来ているのは部活か補講の
生徒しかいない。私達が所属する演劇部は、新年度早々に行う「佐保彦の乱」
の稽古で毎日おおわらわだったりする。今日も午後一からの練習の為、同じク
ラスで演劇部員の由梨子さんと美加さんの三人、机をつき合わせてお弁当を食
べている。そしてやはり食事時の会話は今度の劇のことなのだけれど……

「でも、キスシーンって……」
「深嶋ちゃん、キスシーンっていってもホントにするわけないでしょ」
 ぱたぱた手を振って笑う、佐保姫役の美加さん。
 パッチリとした大きな瞳にふわりと柔らかそうなセミロングの髪、華奢な細
い体はいかにも護ってあげたいという気持ちをかきたてる、クラスで誰もが認
める美人さん。その隣には銀縁メガネに長いみつ編みを前にたらして口元を押
さえてくすくすと笑っている由梨子さん、劇ではナレーションを担当する部で
も随一の美声の持ち主。
 演劇部新入生勧誘企画劇、佐保彦の乱。
 私こと深嶋りりあは佐保姫の同母兄で禁断の愛の相手、佐保彦を演じている。
 なんというか、本来の天皇と佐保の国との権力争いという路線から大幅に外
れて、兄妹の禁断の愛の物語という風に思いっきりアレンジされている。
 というか、完全に一部の趣味に走りまくった人達のオリジナル作品になって
いると言ったほうが正しい。
「ほんっと、部長さん達すごくノッてて、ラストシーンは燃え上がる館の中で
佐保姫と佐保彦がじっと見つめあって手を取り合いながら熱いキスでしめるの
よって、ツバとばして主張してわよ」
「……部長さんてば」
「まあ、情熱的でいらっしゃますわね」
 なんだかなあ、もう。高校生の劇でそこまでやるかなあ。
「りりあさん、どうぞ。お飲みになったほうがよろしくてよ」
「あ、ありがとう、由梨子さん」
 由梨子さんから差し出されたペットボトルのお茶。慌ててひと口飲んでむせ
そうになる。
「あはは、そんなに真っ赤にならなくても」
 そりゃあわかってますけどね、ホントにするわけないってことくらい。
 でも、その、困るなあ。部長さん、なんというか熱血というか、たまに悪ノ
リしすぎるとこあるし。

 キスシーン、かあ……
 えーと、はい、変なこと考えない、もう。
 頭に浮かんだ顔をわしゃわしゃとかき消してお弁当の玉子焼きをつまむ。
「ねーえ、深嶋ちゃん」
「……なんですか、美加さん」
「誰のこと考えたの?」
「別に」
「ふーん」
 私の顔をじっと実に楽しげな顔で見ながら、にこにこと笑ってる美加さん。
ああもう、考えてること丸わかりだ。
「そういえば、美加さんこそ浜口先輩とのお付き合いはいかがですの?」
「え?……ああ、俊夫さんか」
 由梨子さんの助け舟に思わずホッとする。
 浜口先輩というのは美加さんが夏からつき合っている一年上の先輩で、特に
目立って活躍するというタイプではないけれど、温和な顔立ちに黒ぶちの眼鏡
が良く似合う穏やかで優しい雰囲気の人。奇麗で華やかな美加さんと見比べる
とちょっぴり地味な印象を受けるけど、どこか包むような温かさがあるという
か、一緒にいて安心する人なのかな、なんて思ってしまう。
 それにしても「俊夫さん」ですって。
 なんか親しげな――いや、つき合ってるんだから当然なんだけど――落ち着
いた声色で呼ぶ名前は、本当に優しげで……美加さんが凄く大人に見える。
「いいなあ、美加さんは」
「まあね、でも来年度から受験生だし。ちょっと心配かも」
「先輩、進学されるのでしたわね。受験勉強、大変そうです」
「そうねえ」
 ふふふ、と笑う美加さん。口では心配と言ってても、なんだか余裕があると
いうか……妙に自信のある雰囲気。
「美加さん、ちょっとよろしくて?」
「なあに、御名原ちゃん」
 何かを察した風に由梨子さんがちょっぴり声をひそめてささやく。美加さん
も由梨子さんが何を察してるか気づいてるといった風情で。
「美加さん、浜口先輩と……何かありまして?」
「ん〜〜なんのことかなあ」
「まあ、美加さんたらしらばっくれてしまわれて、もう」
 えーと。
 えーと?
 なんか私置いてかれてますよ?
「……あのー」
「どうしまして、りりあさん?」
「何の話なんですか?」
 なんだか、言葉から察するにも要点がごっそり抜けてて何がなにやら。
「んー、深嶋ちゃんにはまだ早いっかなー」
「あら、いえ、りりあさんはまだこれからですから」
「そうそう、それよりキスシーンの話だったっけ」
「なんか、ごまかしてませんか?」
 二人だけわかった顔してるのって、なんだかずるい。
「別段誤魔化してるわけではございませんわ、物事には段階というものがござ
いますから」
「そうそう」
 そう言いつつ二人とも笑ってる。
 えーい。
 なんかこの中で一番ガタイのいいはずの私が子ども扱いされてるし。
「……やっぱりごまかしてますね」
「うーん、しょうがないなあ」
「なんと言いましょうか、ねえ」
 聞き分けのない子供を見るような目――実際似たようなものかも――で顔を
見合わせる由梨子さんと美加さん。
「ああ、ほら深嶋ちゃん。そんな顔しないの」
 よしよしとあやすように頭を撫でる手。
 ああ、もう、なんか自分が情けなくなってきた。
「それじゃあ、いっこだけ豆知識教えてあげる」
「なになに?」

 しーっと、口の前に指を一本立てて声をひそめる。

「男の人ってね、キスする前に眼鏡を外すのよ、知ってた?」

 え?
 美加さんの口からでたとんでもない台詞に思わずむせそうになった。

「えええええええっ!」
「りりあさん、そんな大声をあげなくても」
「でっ、でもっ、やっぱり……浜口先輩と?」
「そりゃあ、そうよ」
 いかにもスケベたらしそうなクラスの男子達とは違う、あの穏やかで優しげ
な浜口先輩が。
 思わず、目の前の美加さんの顔をしげしげと見てしまう。
 なんといか、やっぱり口元を。
 えーと。こんなこと考えたら失礼なんだろうけど、やっぱりどっちも知って
るから、想像してしまう。
 ……うわあ。
「りりあさん、もうひと口どうぞ」
「……はい」
 受け取ったお茶を口に含んで。
 ダメだ、顔から火でそう。
「うん、これからよ。深嶋ちゃん」
「ですわねえ」
 なんだか、お茶にむせこみそうになってる私を見下ろして頷きあってる二人。
 ……やっぱり蚊帳の外だ、私。

『男の人ってね、キスする前に眼鏡を外すのよ』

 先生も、キスする時に眼鏡を外すのかな。
 あーもう、何考えてるかな。

 ホント、ダメだ、私。

時系列と舞台 
------------ 
 2006年3月頃 
解説 
---- 
 タッパはあってもねんねさんですね、りりあ嬢。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

 高校一年にしてはずいぶんねんねさんなお嬢さんです>りりあ嬢



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