[KATARIBE 29826] [HA06N] 小説『傷ついた鳥』

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Date: Wed, 15 Mar 2006 00:30:55 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29826] [HA06N] 小説『傷ついた鳥』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
23:12 <Role> rg[hukiwrite]HA06event: 片隅からよろよろした雷鳥の霊がこち
らを見ている ですわ☆

久志さんとのキャラチャから作成。
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小説『傷ついた鳥』
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登場人物
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 一白(いっぱく):http://kataribe.com/HA/06/C/0583/
  津久見神羅の式神。

 蒼雅巧(そうが・たくみ):http://kataribe.com/HA/06/C/0529/
  鷹匠。霊獣の秋芳を使役する。

本編
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 神社の境内を囲む林の方からカサカサと音が聞こえて、一白はそちらの方を
向いた。
 現れたのはデフォルメしたうずらのような鳥。全身が茶色のふわふわとした
毛で覆われている。
 一白はその鳥をじっと見つめていた。鳥はよろよろとした足取りで境内の方
へと出てくる。
 石畳の上までたどり着くと、その鳥は力尽きたのかその場にうずくまった。
歩こうとしても足に力が入らないのか、体を左右に揺すっている。
「大丈夫?」
 一白はその鳥の近くに行くとしゃがんで、上から覗き込んだ。鳥はピルル、
とか細い声で鳴くと、何とか立ち上がり数歩前に進む。歩き方がぎこちないと
思っていたが、どうやら片足を怪我しているようであった。
「わっ、足を怪我してるんだ」
 少し進んだところで、再び鳥はしゃがみ込む。首を前の方に伸ばしてクルル
ルと何かを呼ぶように鳴いた。
「どうしよう……この子、動物病院で見てもらえるのかなあ?」
 この鳥が普通の鳥でない、ということは一白は感づいていた。動物病院に連
れて行ったところで、足の怪我を治してもらえるかどうかは分からない。
 微かに震えている鳥を前にして一白がおろおろしていると、鳥の影が目の前
をよぎった。
「ピィィッ」
 鋭い鳴き声が聞こえた。
「ふえ?」
 一白が見上げると鷹が上空でクルリと旋回していた。その鷹はふわりと羽を
広げゆっくりと一白と鳥の前に舞い降りてくる。
「クルルル……」
 うずくまった鳥はその鷹を見つめて鳴いた。
 鷹はクチバシでその鳥をそっと撫でる。どうやら知り合いのようである。
「……友達なんだ」
 一白の言葉が理解できるのか、その鷹は彼の方を向くと小さく鳴いて頭を下
げた。
「でも、この子怪我してるし…… 病院に連れて行ってあげたいんだけどどこ
か知ってる?」
 一白は鷹に尋ねる。
 鷹はピイッと鳴くと、振り向いて小さく羽を羽ばたかせた。一白もつられて
鷹が見ている方向を見た。向こうの方から学ラン姿の蒼雅巧が走ってくる。
「春雷! ここにいたか!」
 彼はうずくまっている鳥を見て言った。
「しゅんらい?」
 一白が首をかしげる。どうやらこの鳥の名前のようである。
 巧は一白の前まで来て立ち止まった。
「すいません。我が家の霊鳥を見つけていただいて」
「ふえ? この鳥、おにーさんのなの?」
 目を真ん丸にさせた一白が言う。
「ええ、蒼雅の霊鳥、春雷です」
 自分の名前が呼ばれたのが分かったのか、うずくまっている鳥は走ってきた
彼の方に向かって歩き出した。
「わわっ、足怪我してるんだからっ」
 一白は慌てて春雷と呼ばれた鳥を抱き上げる。
「ああ、これを」
 巧は塗り薬を取り出すと、春雷の怪我した足に塗った。薬が染みるのか、春
雷は目を細めて体を縮ませて一白に身をすり寄せた。
「痛いの?」
 一白はその春雷の頭をそっと撫でてやる。
「使い手が怪我を負ってしまって、この子も同じ怪我を負ってしまったので
す」
「じゃあ、その人の怪我が治ったらこの子も治るの?」
「はい、私とこの秋芳も同じく。どちらかが傷を負うと使い手もまた同じ傷を
受けますから」
 巧は一白に抱えられている春雷の頭を撫でた。
「春雷の使い手も今手当てを受けております、早く見つかってよかった」
 そう言って安堵の溜め息をつく。
「治るんだ」
 一白もそれを聞いてほぉ、と溜め息をついた。
「ご心配いただきありがとうございます」
 巧が丁寧に頭を下げる。鷹も彼の肩に止まると、同じようにお辞儀をした。
「わわっ」
 一白も慌ててお辞儀をする。
「……あ、この子」
 抱えていた春雷を巧に差し出す。
「ああ、すみません。ありがとうございました」
 巧はクルルと鳴く春雷の頭を撫でてやる。
「では、失礼します」
 もう一度、一白に頭を下げて去っていく。
「早く元気になると良いな」
 彼の後ろ姿を見送りながら、一白はそう呟いた。

時系列と舞台
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2006年3月。帆川神社にて。

解説
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その鳥が雷鳥という種類とは結局一白は知らないままでした。

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