[KATARIBE 29825] [HA06N] 小説『おめでたさん』

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Date: Sun, 12 Mar 2006 17:25:57 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29825] [HA06N] 小説『おめでたさん』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年03月12日:17時25分57秒
Sub:[HA06N]小説『おめでたさん』:
From:久志


 久志です。
ゆっきー&美絵子おめでとうなお話。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『おめでたさん』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :葬儀屋さんで霊感のある軟派にーちゃん。 
 本宮美絵子(もとみや・みえこ) 
     :昨年、騒動の末に幸久とめでたくゴールインした新妻さん。

ご報告
------

 どうしよう。
 どうしようって、まあ、うん。身に覚えはあるんだし、今のあたしの立場か
ら言って何の問題もないんですけどね。
 でも、なんだかちょっとだけ不安。

「まーた笹本くんと飲んできたの?」
「いや、ほら、振舞い酒貰ってきてさあ」
 黒ネクタイを緩めながらダイニングの椅子にぺしゃんと座り込むユキをちら
りと睨んでから、冷蔵庫から麦茶をだしてコップに注ぐ。
「はい」
「ああ、サンキュ」
 黒髪に喪服、だらしなく緩めた黒ネクタイに白いシャツ。
 本当、学生の時のバイト時代から変わりばえしないわよね、あんたって。

 昔っから莫迦でええかっこいしいで鈍くて素直じゃなくて。
 仕事だと要領いいくせに恋愛ごとだとからっきしダメで、ひねて不良ぶって
ても何だかんだ言ってお人よしで。
 で、あたしはそんなとこに惹かれたわけで。

「どした美絵子、ぼーっとこっち見て」
「ん、そう?」
 テーブルの向かいに座って両肘ついて顎のせて、麦茶を飲んでるユキをぼん
やり眺めてる、ここ一年で当たり前になった風景。
「まだ貰ってきた酒あるから、お前も飲むか?」
 にっと嬉しそうに笑う顔を見てちょっと呆れる。
「まだ飲む気なの?まったく」
 何だかんだ言って自分も飲みたいだけでしょ、もう。
「今日はお酒はいいわ」
「あれ?」
 ホントのところ気持ち的には飲みたいんだけどね。でも今はだめ、お酒の匂
いかいだだけで気分が悪くなる。
「珍しいな、お前が飲まないなんて」
 誰のせいだと思ってんのかしらね、まったく。
 あたしは当分お酒は控えないといけないし、あいつも煙草は当分ベランダで
吸ってもらって本数も制限してもらわないと。
 でも、わかる前にちょっぴり飲んじゃったのよねえ、少し心配。
 一応検査に行ったときに元気ですよって言われたけれど。
「美絵子?」
「ん?」
「どした、さっきからなんか様子違うぞ」
「お酒くさいわよ、もう。ちょっと今日気分悪いんだから」
 テーブルから体をのり出したユキのおでこをつついて睨む。
 だーれのせいだと思ってるのよ。どうしてくれるのかしらね、もう。
「なんだよ、具合でも悪いのか?」
「ちょっとね」
 ふと、どこかピンときた顔でバツ悪そうにユキが声をひそめる。
「あ、ひょっとして……アレとか?」
「ちがうっての」
 ここ二ヶ月きてないわよ、莫迦。

 別に不満なんてないし、嬉しいのよ、ホント。
 何の障害もないし、ちゃんとお互い結婚してて生活もそれなりに安定してて。
 ちょっとだけ自信がないだけで。

 ねえ、人の親になんてなれるのかしらね、お互いに。

「美絵子?」
 声のトーンが変わる、いつもの軽そうな声から変わって心配げな雰囲気。
「どうした?」
 ふと立ち上がってすぐ傍らに立ってる。
「大丈夫か、胃にきたとか?」
「違うって」
 背中をさする手。
 なんだかなあ、それで嬉しくなっちゃうんだから。
「医者行った?つか、お前無理すんなよな」
「お酒くさいって言ったでしょ、ちょっと気分悪いんだから」
 ああ、もう。お酒の匂いとか食べ物の匂いとかダメ。
 吐くわけじゃないけど、喉の奥からこみあげてくる気分の悪さ。
「行ったわよ、それに病気じゃないし」
「え?」
 あーもう、この鈍感男。
「あたしは病気じゃないし、お酒は当分飲めないし、あんたも家で煙草は我慢
しなさいよねっ」
「……あ」
 やっと言葉の意味が通じて、ユキの動きが止まる。
「それって……」
「二ヶ月、だって」
 なんか気恥ずかしいってのもあるうけど、それよりも。不安だったのよね、
あんたがなんて言うか……なんて考えてるうちに体が浮いた。

「いやった!」
「きゃあっ」
 って、ちょっと。
「なんだよ美絵子、つかきっちり言えよっ!おどかしやがって。余計な心配し
たじゃねーか」
「ちょっと、まっ……」
 両手であたしを抱えあげて――いわゆる姫抱っこってやつよね――で、ぐる
ぐるぐるぐるって、気持ち悪いわよっ。
「ちょっ、降ろしてってば!気持ち悪いんだからっ」
「あ、悪い」
 慌ててすとんとあたしを抱えたままリビングの床に座り込んで。
「大丈夫か?」
「莫迦」
 ああもう、莫迦みたいよね。余計な心配して。
 あたし人の親になれるかなとか、あんたがなんて思うかななんてあれこれ考
えてたのに、ほんっと単純でおめでたい奴……
「美絵子?」
 しっかりとまわした腕、首筋に顔を埋めて。あんたって一見ひょろっとして
るけど、こうしてみると結構がっしりしてるのよね。 
「ごめん、美絵子。なあ、気分悪いのか?」
 背中を撫でる手、心配そうな声。
「ううん、平気」
「なんか欲しいもんあるか?」
「大丈夫だってば」
 単純だよね、あたし。
 なんか結婚の騒動の時も似たようなこと考えたような気もする。
「女の子がいいよなあ、絶対。お前に似てる子で。ほら、一姫二太郎っていう
じゃん」
「なーに言ってんだか」
「だってよ、俺んとこ兄弟男ばっかしだったしさあ、やっぱ女の子がいいよな、
あーでも男でもいいか、うん」
 これから大丈夫かなとか、ちゃんと育ってくれるかなとか、こいつの稼ぎで
やってけるかなとか理性であれこれ考えて。
「それにしても、史兄んとこの子と同級生かよ、まずいよなあ。同性だったら
絶対コンプレックスになるぜ。ああでも異性でもだめだな、イトコだからって
イイ仲になるなんてぜってー許さねえ」
「……気ぃ早すぎよ、莫迦」
 あれこれ考えて、でも。
 しっかりと背中に回されたユキの腕。
 理性とかなんやかんや一足飛びして、こうやってるだけでホッとする。
「なあ、お腹の子動くかな」
「まだ二ヶ月だっていってるでしょうが」
 二ヶ月後半くらい、そろそろ人の形になる頃、かな。

 ねえ、聞こえる?

 君のお父さん。
 単純でええかっこしいで鈍くて素直じゃなくて……でも優しい人よ。

時系列 
------ 
 2006年3月中旬。
解説 
----
 おめでたいことですね、はい。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。



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