[KATARIBE 29823] [HA06N] 小説『続・バレンタインの夜』

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Date: Sun, 12 Mar 2006 01:14:29 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29823] [HA06N] 小説『続・バレンタインの夜』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200603111614.BAA06742@www.mahoroba.ne.jp>
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2006年03月12日:01時14分29秒
Sub:[HA06N]小説『続・バレンタインの夜』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
どうして仕事が詰まってる時って、話がさらさら流れるように出てくるんでしょう(えう)
どうしてログがすらすらと話にまとまってゆくんでしょう……
というわけで、中、の代わりに、『続』です。
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小説『続・バレンタインの夜』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 赤ベタ、青ベタ、メスベタ
     :以前、相羽家で飼われていたベタ達のあやかし。

本文
----


 考えてみれば、差出人のさっぱりわからない小包が、紙袋に一杯届いている
わけで。
 そう考えたら……確かに、妙なものが来てても仕方ないのかもしれない。
 だけど。


「さっきからおかしいね、こいつ」 
 気が付くと、相羽さんが、自分の手の中のチョコと、メスベタを見比べてい
る。微かに細めた目が、笑っているようで笑っていない。
「……食べちゃ駄目ってことかな」 
 でも、確かに。こうなるとチョコレートのどす黒い色まで不気味に見える。
 メスベタは、あたし達の会話がわかるのだろう、ぴたっと宙で停止している。
どこか不自由な傾きのまま、どこか怖いほどの迫力のまま。
「メスベタ、そういうのは鋭い気がするから……」
 持っていたチョコを、テーブルに置く。手のひらに、まだべたべたするもの
が残っているようで……正直気味が悪い。
 
「……ちょっと、みせてみ」 
 相羽さんが立ち上がった。
 台所から包丁を持ってきて、チョコボンボンを二つに切る。
 途端に胸の悪くなるような臭いがぷん、と、鼻を突いた。

「……これは」 
「や……」

 有機化学の実験、と、連想した。
 つまり……何と言うか、化学系っぽいけど、生臭い。
 思わず後ろに引いてしまったあたしとは逆に、相羽さんは胸ポケットから手
袋を出してきて手にはめる。そのまま包丁を流しに置いて、割り箸と爪楊枝を
持って。

「………………毒?」

 何となく、ふよふよと浮かんでいるメスベタに手を伸ばす。メスベタも、い
つもならふん、と、一蹴するところなのだろうが、近づきもしない代わりに遠
のきもしない。

「……毒、じゃあないね」 

 黙って手を動かしていた相羽さんが、ぽつり、と答える。と同時に割り箸を
……いや、割り箸でつまんだ何かをつまみあげた。

 細い、黒く艶やかな。
 多分女の、髪。

 髪の毛。細いくせに強くて、下手に口の中に入って絡まると、結構厄介で。

「……これは、また」 
 呆れたような、相羽さんの声。

 想像する。
 チョコの中の髪が、口の中でそわそわと縺れ、舌を絡めとる。

 相羽さんを好きだった人だろうか。
 絡めとりたいほど、好きだった人だろうか。
 ……そして、こうやってチョコを送って。

 呪い?
 …………怨み?

「ありがと、よくやったよ」
 気が付くと、ふよふよとメスベタが漂ってゆく。相羽さんが手を伸ばして、
指先でちょん、と、背びれを撫でた。
「…………本当に……ありがとうね」

 言いながら。
 震えが、止まらない。

「それ……」
「ん?」
「……まじない、かな」
 
 何を、願っていたのだろう。
 相羽さんが戻ってくることを?

「……わりとあるね」 
 相羽さんの言葉は、それでも軽い。
「うん」

 誰を、呪ったのだろう。
 あたしを?
 …………相羽さんを?

「大丈夫?」
 ふっと、肩が暖かくなった。
 肩の上の、手。
 ……一瞬、声が出なかった。

 髪の毛をチョコに溶かし込んで、押し込めて。
 それを相手に届ける、その

 …………背筋の寒くなるような……でも悪意、でもない。
 執着?

 寒い。
 震えが止まらない。

 眼鏡を外して、手首の内側を目に当てて、ぐっと抑えた。
 震えを止めたくて。
 何とかこの、ぐるぐると廻る視界を止めたくて。

 肩の上に乗っていた手がふっと離れた。
 一瞬、ひどく……寒いと思った。
 背骨を走るように、大きく震えがきて……

 その震えを抑えるように、抱きしめられた。

「……相羽さん」
 背中にまわされた腕。頭を撫でる手。
 思わず知らず、だからあたしは口走ってる。
「……あたしが食べるかもって思って、やったなら、それは理解する。判る。
平気」

 いや。
 もし、このチョコレートに、あたしに食べさせる、みたいな作為があったの
なら、むしろこんなに怖くは思わなかったと思う。
 
「でも……相羽さんに、なら」 
 言いながら、声が震える。いや、歯の根が合わないほど、どこかかたかたと
あたしは震えている。
「それは……嫌」 

 あたしに向かって、死んでしまえだろうが消えてしまえ、だろうが、それは
判る。当然だと思う。
 でも、まじないにしろ、相羽さんが食べるかもしれないチョコの中に、こう
やって髪の毛を仕込む。
 その、ことが。

「絶対に嫌っ!」 
 語尾が、自分でも情けないほどに跳ね上がった。

「……ああ」 
 それでも、相羽さんの声は、静かだった。
 こんな時、この人はいつも……とても静かな声で。
「俺もこの稼業続けてて」 
 宥めるように、抑えるように。
「……恨みかったことは、そらもう山ほどあるからね」 

 だけど。だからこそ。
 貴方の声が静かなことが、あたしにはとてもとても辛い…………っ

「…………それでも嫌だ…………っ」 
 震えが、止まらない。
 
「……わかってる」 
 やっぱりどこか静かな、小さな声。
 それでも震えを抑えるように、宥めるように、守るように。
 しっかりと抱しめていてくれる、手。


 相羽さんは、大丈夫とは言わない。
 恨みを買ったことがある、とは言っても、もう買わないから大丈夫とは。
 この人が大丈夫と言うのは、本当に疑いもなく大丈夫な時だけ。そのことが、
時折怖くもあり、辛くもあるけど。

 でも多分。
 大丈夫、と言う代わりに、この人は。
 大丈夫になるように、今、こうやって抱き締めていてくれるのだ、と。

 大丈夫じゃなくても、大丈夫になるように、大丈夫って言う。あたしはそう
やって、はったり半分、でも本気で言うけど。
 多分、相羽さんも、大丈夫じゃなくても大丈夫になるように、と、思ってい
るのかな……って。
 
 何度も何度も、頭を撫でる手。
 そうやって赤ちゃんを抱っこしてたら、あの子も泣かなかったかも、と、ふ
と思ってしまって。
 つい、笑ったと同時に……涙が出た。

「……大丈夫、もう」
「ほんとに?」
「うん」
 
 眼鏡をかけなおして。
 心配そうに聞いてくる顔を、見上げる。
 ……うん、大丈夫だ。

「ケーキ、食べよ」
「ああ、食べよか」
 相羽さんの手が、頬を撫でる。大丈夫、と言ったあたしの言葉を、確認する
かのように。
「ベタ達がね、焼いてる時から楽しみにしてたから」

 ケーキ、の声にベタ達が突進してくる。ちゃんと判ってるのか、まっすぐに
台所に飛んでいって。

「こら、そっちで相羽さんと待ってなさい」
 三匹がくるりと身を翻した。


時系列
------
 2006年2月14日夜。

解説
----
 バレンタインの夜の続き。メスベタ前回に引き続き大活躍です。
 しかし、何故相羽さんが割り箸の位置を知っていたかは謎です<失礼な
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 てなもんで。
 ではでは。
 


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