[KATARIBE 29817] [HA06N] 小説『バレンタインの夜』

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Date: Thu, 9 Mar 2006 01:08:19 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29817] [HA06N] 小説『バレンタインの夜』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年03月09日:01時08分19秒
Sub:[HA06N]小説『バレンタインの夜』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
へれへれです。
一ヶ月遅れのバレンタインデー話。
こちらも前半参りますー(えう)

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小説『バレンタインの夜』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 赤ベタ、青ベタ、メスベタ
     :以前、相羽家で飼われていたベタ達のあやかし。

本文
----

 クレヨンで描いたウルフ将軍のカード。
 そしてその横にピンク色のクレヨンで書かれた、どこかたどたどしい『うる
ふしょうぐんだいすき』の文字。

「これは、幼稚園から?」
「うん、まとめて送ってくれたらしくてね」

 紙袋一杯のチョコレートと、それにくっついた手紙やカード。
 相羽さんは菜の花の胡麻和えを食べている。

「ああ、それでこのチョコなんだ」
 大袋入りの、英字チョコレートと動物ビスケット。如何にも幼稚園でおやつ
に出そうな。
「ってことは、本宮さんとか豆柴君のとこにも?」
「カードもチョコも、ちゃんといきわたるだけあってね」

 2月14日。
 予測はしてたけど、やっぱり紙袋一杯のチョコってのは並じゃない。

「……これは?」
「それは総務から」
 妙に厳重に包まれたチョコレートの箱。大きい箱にかけられたリボンに、小
さな箱がくくりつけられている。
「なんだろ、これ」
「ん?」
 水菜と厚揚げの煮物を皿に取り分けながら、相羽さんが首を傾げる。
「この小さいの」
「ああ、それお前さんにって」
「……へ?」
「形埜千尋さんって、総務の御局様がね」
 思い出してみる。
 籍入れてすぐ、総務課に顔を出した時に応対してくれた……
「あの、小柄で、髪の毛後ろでまとめてた人?」
「そう、その人」
「……有難うございます」
 ああ、あの人かってのはわかるんだけど……どうしてあたしに、かな。

「お茶頂戴」
「あ、はい」
 少し濃い目に入れたお茶を渡して。袋から出したチョコも、そちらに渡して。

「……なんだろこれ」
 袋の中に、何だかボリュームのある紙袋。既に開いてるってことは、相羽さ
んも中を確かめたんだろうけど……って。

「………………へ?」
 A4くらいの大きさの茶封筒。その表面にしっかりとした……もしかしたら
これ油性のマジックかってな太いペンで。
『ピレネー司令より』
「相羽さん、これ、見てみていい?」
「…………いいよ」

 妙に意味深な沈黙が気になるのは気になるが、でも好奇心のほうが先立つわ
けで、結局中身を引っ張り出してみる。
 薄青の地に、濃い青の縁取りをした、すっきりした印象のあるカードと。
 
「…………」
 いやその。
 自分は書いてなかったし描いたこともないけど、一応漫研に所属していた身
としては、目の前のブツが何だかは見当がつくわけで。
 本。というか同人誌。何かこう、男性なんだけどきらきらしい絵の。
 白っぽい衣装の……何か端々が妙に華麗な、耳の付いた大柄な……
「……相羽さん」
「ん?」
「これ……本宮さん?」
「……多分ね」
 ってことは、その横に並んだ、黒いマントと片目に眼帯(それもやっぱし何
か華麗な模様が付いている)の、ぴんと立った耳の妙に目のきらきらした男性
は。

「…………なんだかねえ」
「………………」
 ああ。
 思わず、突っ伏したついでに、頭をごん、と打つくらいのいんぱくとが……

「……もしかして逆パターンが、本宮さんのとこに」
「来てたよ」
 いやそこ、あっさり言わないで欲しい……

 てゆかよく見ると、そういうのがまたやたらとある。カードの表面に、白い
服にエプロンをつけた人(多分本宮さん。でも何だか妙に目がきらきらしてる)
が片手におたま、片手に鍋持っている図が描かれてたり。

「何だかなあ……」
 ウルフ将軍にチョコを送るのは判るのだ。それは成る程な、で済むし、つい
でに同人誌を送ってしまうのも、何となくわかる(いやちょっとなあとは思う
けど)。でも。
「差出人が、ピレネー司令ってのが……」
「豆柴くんなんかダンボール満載できてたよ」 
 ああ、ありそげだ。
「でも、それで、ピレネー司令より、とかでチョコが来てたら、豆柴君パニッ
ク起こしそう……」
「かも、ねえ」

 ……何となくその声の調子でわかる。
 あったんだな、そういうの。

「あっちはでも、子供達のが多そう」
「スゴイよ、カードとか山ほど」 
 まあ、主人公だしね。

 つかまあ、腐女子の勘も凄いっちゃ凄い。流石に高校時代から、つきあって
るかもと疑われ続けたこの二人の間をちゃんと狙っているあたり。
 華麗だったり妙にガタイが大きかったり、色々なウルフ将軍とピレネー司令
(いや、服の色が白いのはピレネー司令、黒いマントがウルフ将軍くらいにし
かわかんないんだけど)をかきわけていると。

「…………相羽さん」
「まだなんかあった?」
「……ドーベルマンよりってこれ何?」
 メタリックカラーのカードに、妙に活字然とした文字で。
 表には『ウルフさまへ』。ひっくり返すと『ドーベルマンより』。
 ええっと……誰だこれ?
「…………さあ」

 しかし凄いなと思う。
 それぞれのカードとチョコレート。そらまあ、カードの内容はおいといても、
カードと包み紙とを合わせてたり、その台詞をらしいもの(と、多分思ってる
もの)にしてみたり。費やされる努力の量ってのは相当なものだと思うのだ。

「相羽さん、これどうする?」
「どうするって……食べようよ、どれか」
「……どれを?」

 同人誌や手紙でかさばっているとはいえ、チョコレートの数も相当なのだ。
「一旦、チョコとお手紙と分けたほうがいいよ」
「わけといて」
「……いや、じゃなくて、そういうのはやっぱり相羽さんがやったほうがいい
よ。貰ったものなんだし」
「えー」
「えー、じゃないでしょうが」

 とりあえず、一旦袋から出して、テーブルに並べる。袋に入れてたときも多
いと思ったけど、こうやって広げるとなおさら。
 ベタ達が、周りをぐるぐると飛び回っている。

「お茶、お代わりくれない?」
「あ、はい」
 これからチョコを食べるなら、確かにお代わりがいるよなあ……っと。

「……?」

 がじがじがじ。
 お茶のお代わりを淹れて戻る。その先で。

「え、どうしたの?」
 がじがじがじ。
 淡い紅色の包み紙。それを同系統の綺麗な紅色のリボンで結んだ包み。
 それを、メスベタが妙に真剣に攻撃している。

「なんだ、食いたいのか?」 
 相羽さんが近づくと、メスベタはひょいっと身を翻した。
「……あけろってこと?」 
「ん?」 
 包みを取り上げてみる。
 綺麗に包まれた……包み。
「開けてみるね?」
 相羽さんに、その包みを一度かざして確認する。
「ん、ああいいけど」
「いい、かな?」
 そして、メスベタに確認しよう……として、思わず一旦言葉に詰まる。
 
 頭をぐっと下に向けて。
 ぎゅっと停止している……その、姿勢のどこかに、ひどく凝るほど力が入っ
ているのがわかる。
 何だろう。何だか。

「そのボディランゲージは、うん、ということなのか……な」
 頷いている……に近い姿勢、なんだけど。
 とても、そうは見えなくて。
 ……でも何だか……とても、変、で。

「……まあ、いいか」 
 リボンをほどく。そして包み紙をそっとあけて、箱を開ける。
「どう?」
 いつのまにか相羽さんが近くから、手元を眺めている。
「……普通のチョコだよね……」

 チョコボンボン。確かに、中にお酒とかが入ってたら、それはそれで相羽さ
んには危険だろうけど……でも、そこまで強烈なお酒の匂いがするわけじゃな
し。

「だねえ」
 相羽さんが手を伸ばして、チョコを一つ手に取る。
「……何だろうね」
 だからあたしも、一つ箱から取り出して、眺めてみる。
 うん、普通の……なんていうか、バレンタインデー用に少しだけ気合の入っ
たチョコだ。
「……相羽さん、これ、食べてみていい?」
「ん、ああ」 
 チョコの底にくっついている、薄い紙をはがし……

「え?」
 でしでしでし。
 メスベタがチョコを持った手首めがけてぶつかってくる。
 いや、ぶつかるのは時折やるから、別に珍しいわけじゃないけど。
 何だか、その勢いが、手に持ったチョコをふっ飛ばしそうなほどの……

 バレンタインデーのチョコレート。
 確かにそれは、好意を元にしている筈なんだけど。
 でも、この人の場合。

 (あなたはどういう理由で、この人にチョコレートを贈りました?)

 たとえば、あの時の千夏さんなら…………?


 手の中を、見やる。
 薄い紙に半分包まれた、上等のお菓子。
 それが何となく……手の中でひずんで、どす黒いものに見えた。


時系列
------
 2006年2月14日夜。

解説
----
 バレンタインデーの、夜の出来事。
 実は愛ですね!>めすべた
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てなもんです。
訂正等ありましたら、よろしゅです>ひさしゃ。

 であであ。



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