[KATARIBE 29815] [HA06N] 小説『閉店間際』

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Date: Wed, 08 Mar 2006 23:46:51 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29815] [HA06N] 小説『閉店間際』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
22:57 <Role> rg[hukiwrite]HA06event: 男の子がカップアイスのスプーンを
くれた ですわ☆

でした。
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小説『閉店間際』
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登場人物
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 一白(いっぱく):http://kataribe.com/HA/06/C/0583/
  津久見神羅の式神。

 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
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 一白は神羅に付き添ってスーパーに来ていた。
 時間は午後7時半を過ぎたあたり。買い物客はそんなに多くないが、開いて
いるレジが少ないために2、3人ほどのレジ待ちの行列ができていた。
 神羅はその行列の中に混じり、一白はレジの向こう側で会計が終わるのを
待っている。「つまんないー」
 ぼそりと呟いた。
 神羅の前で待っている人はカゴを2つ持ち、しかもそのどちらも一杯になっ
ている。会計が終わるにはもう少しかかりそうだった。
 待っているのに飽きた一白はその場を離れ、店の中を歩き回ることにした。
 閉店時間まで30分を切った店内ではあちらこちらで閉店の準備をしている。
店の中に入っている薬屋は既にカーテンで仕切られ「本日は閉店しました」と
書かれたボードが立てられていた。
 奥の方にある衣服品コーナーの照明もほとんど落とされている。当然、店員
も客もいない。
 一白はこのままここに取り残されそうな気がして、レジの所まで戻ろうと一
歩踏み出したとき、誰かが一白の服を引っ張った。
「な、なに?」
 一白が振り返ると、そこには5歳くらいの男の子が立っていた。いつからそ
こにいたのか、一白は全く分からなかった。先ほどまで周りには誰もいなかっ
たはずである。
 男の子は何も言わず、もう一度掴んでいる一白の服を引っ張った。
「何なの? って、その前にその手を離してくれる?」
 そう言うと男の子は一つ頷いて掴んでいる手を離した。
 一白は男の子が何か言うのを待っていたが、彼は黙ったまま何も話そうとは
しない。
 辺りを見回してみたが、親らしい人の姿は見えない。
「ねえ、お母さんはどこ?」
 一白は少ししゃがんで男の子と顔の高さをあわせて尋ねた。しかし、男の子
は相変わらず黙ったままである。
「ど、どうしよう……」
 一白は困った顔をして立ち上がった。この子を連れて神羅のところまで行こ
うか、と考えたが、ひょっとするとお母さんがここで待つように言っているの
かもしれないし、と考えると連れていくのはよくないことである。
 むー、と唸っている一白の顔を男の子はじっと見ていたが、やがて一白の服
を掴み引っ張った。
「何?」
 男の子を見る一白。男の子はズボンのポケットから何かを取り出すと、それ
を握ったまま一白の方に手を突き出した。
「何かくれるの?」
 そう言って、一白は右手を開いて差しだした男の手の下に持っていった。
 男の子が握っていた手を開くと、一白の手の上に袋に入ったカップアイスの
スプーンが一つ落ちた。
「スプーン……? これをくれるの?」
 一白の言葉に男の子はやはり何も言わないまま一つ頷いた。一白は戸惑いの
表情を浮かべながらもありがとう、とその子にお礼を言った。
 男の子はもう一度頷くと、一白の服を掴んでいた手を離し、一目散にレジの
方へと駆けていった。
 一白はポカンと口を開いて、その子の行った方向と手にあるスプーンを交互
に見ていた。
「あぁ、こんな所におったか」
 声がして見上げると、そこには買い物袋を持った神羅が立っていた。
「何しとったんや?」
「あ、神羅」
 一白は手にしたスプーンを神羅に見せた。
「何これ?」
「さっき男の子がくれたの」
「男の子?」
「うん……ってすれ違わなかった? 神羅が来た方に走っていったんだけど」
 一白の言葉に神羅は首を振った。一白はあれ? と首を捻る。
「小さい子の姿なんて店に入ってから一人も見んかったけどなあ」
「え…… じゃあ、あの子は何だったの?」
 さあね、と神羅は肩をすくめた。
 店内アナウンスでもうすぐ閉店することが告げられる。一白は神羅に背中を
押されてしぶしぶながらも店を出て行った。
 時刻が午後8時を過ぎ、店内の照明のほとんどが落とされる。
 誰もいなくなった店の中に小さな足音が響いた。

時系列と舞台
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2006年3月。

解説
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男の子が何をしたかったのかは結局分からず。

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