[KATARIBE 29812] [HA06N] 小説『夕暮れに黒い毛玉』

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Date: Tue, 07 Mar 2006 23:59:33 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29812] [HA06N] 小説『夕暮れに黒い毛玉』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
22:57 <Role> rg[hukiwrite]HA06event: 傷ついたもけに遭遇する ですわ☆

でした。もはや六十分一本勝負の感が(汗
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小説『夕暮れに黒い毛玉』
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登場人物
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 一白(いっぱく):http://kataribe.com/HA/06/C/0583/
  津久見神羅の式神。

本編
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 西の空が朱色に染まっている。先ほどまで姿を見せていた太陽は西の山に沈
んでしまった。
 直に夕方から夜へと向かう。
 神社の境内にある電灯に明かりが点った。しかし、辺りはまだ電灯の白い光
がはっきりと分かるほど暗くはなっていない。
 時刻は午後6時を過ぎた頃。さすがに、こんな時間に参ってくる人はいるわ
けもなく、境内は静まりかえっていた。
 鳥居の向こう、石段の方から人影がにゅっと現れた。しばらくして、石段を
一段飛ばしで上がってきた一白が姿を見せる。あと一歩で頂上、というところ
で大きくジャンプして境内に両足で着地する。
 一白は鳥居の下で体を反転させた。ふわり、と風が吹いてきて彼の髪の毛を
揺らす。風は少しひんやりとしているが冷たいというほどではない。
 何となく嬉しくなって、ふふふと小さく微笑むと、一白は体を境内の方に向
けた。
 誰もいなくなった境内を歩く。神社を囲んでいる林の奥は既に真っ暗になっ
ている。
「あれ?」
 彼は電灯の下に小さな丸い影ができているのに気が付いた。しかし、その周
りには影を作りそうなものは何もない。
 一白は電灯の下へと駆け寄ると、その影の側でしゃがみ込んだ。
 影だと思っていたものは黒い毛玉のようなものだった。それが小刻みに震え
ている。
 一白は恐る恐る右手の人差し指でその毛玉のようなものを突いてみた。さわ
さわとした毛が指に触れた途端、毛玉のようなものはびくりと体を揺らした。
「わっ」
 一白も慌てて出した手を引っ込める。
 しばらく顔を近づけてじっと見ていたが、今度はゆっくりと両手で掬うよう
にその毛玉を持ち上げた。
 毛玉は彼の掌で動かずにじっとしている。
「……なんだろ?」
 その毛玉から声が聞こえたような気がして、一白は毛玉を耳元に近づけた。
「……もけ……」
 か細い声で、しかし、はっきりとその毛玉はそう言った。
「え、生きてるの?」
 今度は目の前に近づけてじっと見る。すると、毛玉から目が二つ現れた。
「わっ」
 急に出てきたので驚いてしまい、思わず手を離そうとしたのをすんでの所で
止める。何とか毛玉を落とさずに済み、ほうと安堵の溜め息をついた。
 そして、もう一度まじまじと毛玉を見つめる。相変わらずそれは微かに震え
ていて、見えている目は半分ほど閉じかけている。
「どこか体の調子が悪いのかな?」
 とは言え、動物でもないしましてや人であるわけもないこの毛玉を誰に見て
もらえばいいのか。
 一白はとりあえず家にいる猛芳に相談することにした。
 毛玉を驚かさないように、落とさないようにそっと家へと向かって歩いてい
く。
 空の色は朱色から濃い紫色へと変わり、辺りはすっかり暗くなっていた。
 境内と家との丁度真ん中辺りで一度、一白は立ち止まった。家の明かりから
も境内の電灯からも同じくらい離れたこの場所は敷地内で一番暗くなっている。
 一白は何かに躓かないように、ゆっくりと再び歩き出そうとした。
 その時、手の中の毛玉がぶるぶる、とさっきよりも大きく震えたかと思う
と、彼の手の中から飛び出していった。
「あっ」
 黒い毛玉は夜の闇と同化してほとんど姿が見えなくなっている。その中でか
ろうじて瞳だけは判別することができた。
 毛玉は一白の方を見て、二度瞬きをするとするりと姿を消した。一白はその
場に立ち止まって消えた辺りをじっと見ていたが、そこには最早何もいないこ
とが気配で感じ取れた。
「……何だったんだろ?」
 首をかしげ、仕方なく家の方に向かって歩いていく。途中で立ち止まり、振
り返ってみた。
 相変わらず闇が広がるばかりで、そこには何もなかった。

時系列と舞台
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2006年3月。帆川神社にて。

解説
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あまり傷ついた感が出ていなかったり。

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