[KATARIBE 29803] [HA06N] 小説『古い髪型の少女』

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Date: Wed, 01 Mar 2006 01:26:27 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29803] [HA06N] 小説『古い髪型の少女』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
00:11 <Role> rg[hukirdead]HA06event: 道行く古い髪型の少女があくびをし
ている ですわ☆

でした。
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小説『古い髪型の少女』
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登場人物
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 一白(いっぱく):http://kataribe.com/HA/06/C/0583/
  津久見神羅の式神。

 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
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 三月がすぐそばまで来ている暖かい日の午後、神羅は縁側に並べて干してい
る座布団の一つに座って小説を読んでいた。神社の境内には誰もおらず、静か
な時間が流れている。
「あー……」
 神羅は顔を上げて首をぐるんと回した。ゴキゴキと固い音がする。回したつ
いでに側に置いてある時計を見た。時刻は午後三時。どうやら一時間近くずっ
と同じ姿勢でいたらしい。
「そりゃ首も鳴るわなぁ」
 そう言って神羅は軽く首を左右に振った。今度は軽い音がする。
 ふぅ、と溜め息をついて再び小説に目を落としたとき、カランコロンと軽や
かな音が聞こえてきて、再び顔を上げた。
 鳥居の向こうの石段から現れたのは5歳か6歳くらいの少女。今時見かけな
い髪型をしている。着ている物も着物と、まるで明治時代からタイムスリップ
してきたような感じだった。
「一白」
 神羅が小さく呟く。後ろの障子が開き一白が顔を出した。
「なに?」
「珍しいのが来てるで」
 神羅が顎で差している方を見て、一白は、ん?と首をかしげた。
「何が珍しいの?」
「……いや、まあ髪型とか」
 一白は神羅に言われて、もう一度少女の方を見た。
「そういや最近見かけない髪型だね」
 少女は境内をゆっくりと歩いている。そして、真ん中辺りで立ち止まり、ふ
わぁと大きなあくびをした。
「……あれ?」
 一白が不思議な声を出す。あくびと同時に背伸びをした少女の姿が一瞬、揺
らいだのである。
「ねえ神羅。あの子、人間じゃないの?」
 その質問に神羅は呆れた表情を浮かべて彼の方を見た。
「何を今更」
「……えー」
 確かによく見ると、少し透けている。
「でも、でもさっ。この神社って結界を張ってるんでしょ?」
「うん……あれ?」
「ねっ」
 我が意を得たり、とばかりに一白が胸を反らした。
 この神社の境内には神羅が結界を張っていて、外から変な霊などが入ってこ
ないようになっている。それなのに、目の前の少女は平然と境内を歩いてい
た。
「あれ?」
 もう一度同じことを言って神羅は首をかしげる。
「どういうことだ?」
 神羅は小説を脇に置いて立ち上がった。
「どこ行くの?」
「あの子が何者か聞いてくる」
 じゃあ、と一白は縁側においてある大きめのサンダルを履いて、ピョンと前
に飛び出した。
「僕が聞いてくるよ」
 一白が少女の方へ駆けていく。その後ろを神羅はついていった。
 少女は本宮の前で立ち止まり屋根を見上げている。
「こんにちわっ」
 後ろから声をかけられて、彼女の肩がびくっと震えたのが分かった。そし
て、おずおずと彼女は振り返る。
「こ、こんにちわ……」
 そのイントネーションは京都のものに近い。
「僕は一白って言うの。君は?」
「……ツルエ」
 呟きに近い声で彼女は言った。
「へえ、ツルエちゃんって言うんだ。どこから来たの?」
 あっち、と彼女は来た方向を指さした。確かに間違いではない。
 一白が色々と彼女に尋ね、彼女がボソボソとそれに答えているのを眺めなが
ら、神羅は彼女の名前がどこかで引っかかっていた。
「なあなあ」
 急に神羅に声をかけられて、彼女が首をすくめる。それを見て一白が、脅か
しちゃだめだよ、と神羅を小突いた。
「ああ、ごめんごめん……で、ツルエちゃん。君の名字は?」
「……溝口」
 やっぱりな、と神羅は声には出さず納得する。
「え? 溝口って…… 確か、この前救急車で運ばれたのも溝口さんとこのお
ばあちゃんだよね?」
 一白が神羅に尋ねる。
「うん。そこのおばあちゃんの名前、知ってるか?」
「えっと…… あれ?」
 一白は少女の顔と神羅の顔を交互に見ながら首をかしげた。
「ツルエ……だよね。じゃあ、この子は?」
「生き霊やろうねえ」
 神羅の答えに思わず一白は少女の顔をじっと見た。見つめられた少女は首を
すくめて頬を赤らめる。
「生き霊ゆうても、あそこのおばあちゃんやからなぁ。結界をすり抜けられて
も何の疑問もないわ」
 腑に落ちた、と神羅は大きく頷いた。
「あの……」
 二人のやりとりを見ていた少女が一白の袖を引いた。
「ん、何?」
「私、帰る……」
「え、もう……」
 帰るの?、と言おうとしたところで神羅が後ろから一白の口を手でふさぐ。
「そうやね。そうした方がええわ」
「……はい」
「じゃあ、気いつけて帰りや」
 神羅の言葉にこくん、と頷いて少女は来たときと同じようにカランコロンと
音を鳴らせて来た道を戻っていった。
 彼女の姿は途中で消える。
 神羅は一白の口をふさいでいた手を離した。
「ぷはぁ ……何で止めたんだよう」
 頬を膨らませて一白が神羅を見上げる。
「魂が体から長い間離れとったら危ないやろうが」
「……あ」
「まあ、そういうこっちゃ」
 そう言って神羅は一白の頭をポンポンと叩いた。
「……てことは、あれは溝口のばあさんの若い頃の姿ってことかぁ」
「かわいかったね」
「今とは全く違うけどな」
 その言葉に、一白は「そんなこと言っちゃダメだよ」と神羅の腹を肘でつい
た。

時系列と舞台
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2006年2月。

解説
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のんびりとした状況ですが、このときおばあちゃんは危篤状態だったり(汗

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