[KATARIBE 29801] [HA06N] 小説『奥歯に物の挟まったような』

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Date: Tue, 28 Feb 2006 00:51:08 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29801] [HA06N] 小説『奥歯に物の挟まったような』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
23:21 <Role> rg[hukiwrite]HA06event: 歯磨きを忘れたので困っている郵便
配達のおじさんが走っている ですわ☆

でした。
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小説『奥歯に物の挟まったような』
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登場人物
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 火川猛芳(ひかわ・たけよし):http://kataribe.com/HA/06/C/0580/
  帆川神社の宮司。

本編
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「……はて?」
 猛芳は先ほどすれ違った郵便配達の男を振り返って首をかしげた。すれ違い
ざまに見えたその男性がやけにしかめっ面だったのが目に入ったのだ。
「歯の隙間に骨でも引っかかっている……というわけはないか」
 自分の言葉に苦笑を浮かべて、再び進行方向へと歩いていく。単車のエンジ
ン音は進んでは止まりを繰り返して、やがて小さくなっていった。
 平日の昼間、商店街を歩いている人はまばらで、夕方近くの騒がしさに比べ
たら非常に静かである。歩く速度も自然とゆっくりとなる。猛芳は商店街のス
ピーカーから流れてくる音楽にほんの少しだけ合わせるように体を左右に揺ら
しながら歩いていった。
 立ち寄った店の主と無駄話をしたり、高価な日本茶を買おうかどうか悩んだ
りしながら買い物を済ませる。
 神社に戻ると午後四時を過ぎていた。
「思ったより時間をかけてしまったか」
 先ほど買ったばかりのお茶の味見をすべく、縁側で用意をしていると下の方
で単車が止まった音がした。
 しばらくして、神社の石段から郵便配達の男が上がってきたのが見えた。
「おや」
 石段を登り切った男性は駆け足で猛芳のいる方へと近づいてくる。その顔が
はっきりと見える位置にまで来ると、猛芳は彼には見られないように家の中の
方を向いて、少しだけ笑った。
 その男性は、先ほど商店街ですれ違った郵便配達の男だったのである。その
顔はすれ違ったときと同じでまだしかめっ面をしている。
「はい……シッ……郵便です……シッ」
 郵便配達の男は口を時々もごもごとさせて、猛芳に郵便物を差しだした。
 なるほど、これば奥歯に物が挟まったような言い方か、と猛芳は手紙の束を
受け取りながら思った。
 では、と振り返る。
「ああ、ちょっと」
 その背中に猛芳は声をかけた。不思議そうな顔をして男性は再び猛芳の方に
向いた。
「何でしょう……シッ」
「いや、その「シッ」とかいうのは何なのかのぅと思ってな」
 猛芳の問いに男性は苦笑いを浮かべた。
「骨が」
「歯に挟まっておるのか?」
「ええ……シッ」
「昼過ぎもそうしておらなんだか?」
「昼に食べたメザシが……シッ……って、何で知ってるんです?」
「商店街ですれ違ったときにちょっと気になってな」
 はあ、と男性が言う。そして、眉をひそめた。
「ひょっとして、すごい顔してました? ……シッ」
「まあ、気にかかるくらいには」
 猛芳は苦笑しながら答えた。
「配送に出るときに歯磨きしてくれば……シッ……良かったんですけど……
シッ」
「……それにしてもやけにしぶといようじゃの」
「そうなんです……シッ……全然取れなくて」
「ほう。どこら辺に引っかかっておるんじゃ?」
「右の……奥の方ですね」
 そう言って男性は右の下の頬辺りを指さした。
 ふむ、と猛芳は目を細めてそこを見た。何となくそこらあたりを殴ってやる
と骨は取れるだろうな、という予感はしている。しかし、いきなり殴ったりす
ると警察沙汰とまではいかなくても、ややこしい問題になる恐れがないことも
ない。
 猛芳が殴って骨を取ってやろうか、どうしようか迷っていると、郵便配達の
男性は不思議そうな顔をしながらも、それでは、と言って石段の方へと駆けて
いった。
「あ……まぁ、ええか」
 殴れなくて残念だわい、と彼の後ろ姿を見ながら呟く。
「こう……下の方からカツーンとやってやったら終わっておったんじゃがの
う」
 そう言って右の拳で小さくアッパーカットの素振りをしながら、猛芳はお湯
を取りに家の奥へと入っていった。

時系列と舞台
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2006年2月。

解説
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爺さん、不完全燃焼。

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