[KATARIBE 29783] [HA06N]小説『バイト帰りの幽霊』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Mon, 20 Feb 2006 23:47:39 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29783] [HA06N]小説『バイト帰りの幽霊』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200602201447.AA00178@hikaru-h8akl379.blue.ocn.ne.jp>
X-Mail-Count: 29783

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29700/29783.html

ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
22:58 <Role> rg[Hisasi]HA06event: 半透明のバイト帰りの学生に出くわした
ですわ☆

挑戦はたまには受ける。そして、落ちがない、と言ったら。

23:36 <Role> rg[sf]HA06accident: 落とし物をした ですわ☆

とされたので、それを追加。
**********************************************************************
小説『バイト帰りの幽霊』
========================

登場人物
--------
 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
----
 お疲れ様ですー、と後ろの方で声がしたので神羅は何となく振り返ってみ
た。ああ、バイトが終わったんだろうな、と思っていた。
「……あ?」
 しかし、その目に映ったのは予想とは少し違っていて、神羅は思わず変な声
を上げた。
 確かに店から姿を現したのはバイトが終わった学生だった。私服なので本当
に学生なのかどうかは分からないが、少なくとも普通の社会人という感じでは
ないのは分かる。
 というか、学生だろうが社会人だろうが、そもそも「普通」というものでは
なかった。
 半透明なのである。後ろが透けて見えるのである。
「幽霊?」
 神羅が思わず漏らした呟きはその学生にも聞こえたのか、彼は神羅の方を見
て、動きを止めた。
 そして、しばらくじっと見つめてからぎこちなく手を振る。神羅も釣られて
何となく手を振ってみた。
 すれ違う人たちがそんな神羅を変な目で見ているのに気が付いて、慌てて
振っている手を下ろした。
「見えてる?」
 学生が神羅に話しかける。普通に返事をすると、ますます変な人だと思われ
かねないので、神羅は声を出さず少しだけ頷いた。
「あっちゃー」
 学生はまずそうな表情を浮かべて頭を掻きながら、神羅の方へと近づいた。
 何か話しかけようとした彼を目で制止して、神羅は学生についてくるように
促した。学生は不思議そうな顔をしながらも、神羅の後をついていく。
 少し進んだところに小さな神社があり、神羅はそこに入っていった。敷地は
狭く、木々に囲まれているそこは昼間でも薄暗く人の気配はない。
 周りに誰もいないのを確認して、神羅は振り返って学生を見た。
「……で、何の用?」
 神羅の問いに学生は目をきょとんとさせる。
「そっちが連れてきたんじゃないか」
「それはあんたがあの場でワシに何か話そうとしたからやろう」
「……で、何でこんなところまで連れてくるのさ」
「アンタの姿は普通の人には見えへんのやろうが」
「……ああ」
 学生はポンと手を打ち、納得したかのように大きく頷いた。
「んで、もう一度聞くけど何の用?」
「えっと……」
 学生は顔を中空に向けた。何となく目が泳いでいるようで。
「えぇと……」
 もう一度同じ事を呟く。しかし、今度は声が小さい。
「忘れた?」
「あはは」
「なんやそりゃ……」
 脳天気に笑う彼の姿を見て、がっくりと肩を落とす神羅。完全に彼に遊ばれ
ているような感じである。
「……じゃ、じゃあねっ」
「あ、こらっ」
 逃げようとした彼を神羅は慌てて止めようとするが、彼はふわりと宙に浮い
てそのまま北の方へと飛んでいく。
 あっという間にその姿は見えなくなり、神羅は飛んでいった方を見たまま
で、溜め息をついた。
「……忘れよ。ワシは何も見なかった、何もなかった、と……」
 ブツブツ呟きながらその神社を後にする。その足取りは何となく重い。
 それから数分後、誰もいなくなった神社に再び先ほどの学生が戻ってきた。
近くに神羅の姿がないのを確認して胸をなで下ろす。
「よく分からないけど危ないところだった…… で、本当にボクは何を彼に言
うつもりだったんだっけ?」
 とりあえず近くにいた狛犬に尋ねてみたが、狛犬は前を見据えたままで彼の
言葉に反応するはずもなかった。
「あれ?」
 先ほどまで神羅がいた位置に目をやると、そこには紙切れが落ちていた。
「なんだ、落とし物をしてるじゃないか。届けてあげないと」
 そういって彼はしゃがんで紙を拾い上げる。
「何だろ、この紙。……あ、裏になんか書いてあるや……はわわわっ」
 拾い上げた紙をひっくり返し、そこに書いてあった文字を見た途端、彼は慌
ててその紙を放り投げた。
 ひらひらと、再び地面に落ちたその紙に書かれてあったのは怨霊退散の文
字。しかも、ただ書かれてあるだけでなくちゃんと効力のあるものである。
「もうぅ、何なんだよぅぅ」
 エコーがかかったような声を漏らしながら、学生の姿は次第に薄くなってい
き、やがて完全に消えてしまう。
 再び誰もいなくなった神社に風が吹き、怨霊退散の符は舞い上がるとその役
目を終えたとばかりに、自然に発火し、一分も経たないうちに完全に炭と化し
た。

時系列と舞台
------------
2006年2月。

解説
----
学生は何のバイトなのか分からないまま、勝手に祓われてしまったのでした。
まことに不運な奴。

$$
**********************************************************************
 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29700/29783.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage