[KATARIBE 29780] [HA06N] 小説『地蔵供養(中)』

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Date: Sat, 18 Feb 2006 23:49:34 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29780] [HA06N] 小説『地蔵供養(中)』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年02月18日:23時49分33秒
Sub:[HA06N]小説『地蔵供養(中)』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
相羽家にやってきた赤ん坊な話。
まだ途中なんですがええ(えうえう)<まだ先輩をいぢめる気ですか(気なんです)

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小説『地蔵供養(中)』
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登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。かつて「おネエちゃんマスター」として名をはせた。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。2005年の10月に入籍。
     :かつての「おネエちゃんマスター」の所業については詳しい。

本文
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 どうして今頃ここに来たんだろう、と。
 そのことは確かに不思議で仕方なかったのだけど。

          **

 この前、赤ちゃんを抱っこしたといったら、多分弟のとこの姪っ子だと思う
から……ってことは1年半くらい前か。でもあの時にはちゃんと傍らに義妹が
居て、互いに「おむつ取ってミルク作って」ってのが判ってたから良かったん
だけど。

 つまりがとこ。
 相羽さんに頼めるのって、寝てる赤ちゃんを見てることくらいかなあと(我
ながらひどい結論である)。
 故に。

「ごめん、ちょっとお昼作ってるゆとりがない」 
 何とか眠った赤ん坊を、ベッドにそっと寝せる。乗せた途端、でも何だか機
嫌悪そうにうにゃうにゃと動いたので……これはもしかしたらまた起きるかも
しれない。そうすると相羽さん一人ではどうもならないし。
「ああ、いい、無理しなくて」 
 妙に真剣な顔で、相羽さんが言う。
「えっとね……そしたら、相羽さん、お弁当か何か買ってきて。それと」
 ミルク、と言いかけてやめておく。それはおむつとかと一緒にあたしが買い
に行かないと、多分売ってるとこからして相羽さん知らないと思う。
「この子に……リンゴ一個」 
「ああ、わかった」 
 財布を手に取って、相羽さんは玄関を出る。
 いつの間にかベタ達が、赤ちゃんの頭の周りに陣取って、興味津々の様子で
眺めている。
 赤ちゃんはまだぐっすり眠っている。

 こうやって見ると、綺麗な赤ちゃんだなと改めて思う。色白で、ほわほわの
髪の毛も結構生え揃っていて。
 小さな手に、指を差し込んでみる。反射のように指を握られた。
「まだねんねしてるね」
 握られた指をそっとゆすってみる。握った手は一緒にぽてぽてと動いた。

 白い顔。目を閉じているとよくわかる、長い睫毛。
 相羽さんにも似てると思ったけど、それ以上に。

(相羽さんのお母さんに似てる)

 一度だけ見たその人の顔に、どこか似ていて。
 確かにこの子は、相羽さんの子供なんだろうな、と、思って。
 でも、この子は。

 ……ふっと痛むように辛くなった。

「…………なんともこまったおとーさんだね、おじょうちゃん」
 頬をそっと撫でてみる。
 赤ちゃんの肌は、頼り無いほどやわらかくて。
 顔を近づけると、微かに乳臭くて。

 生きてはいない筈のその子は、視線の先で今は確かに生きている。

 どうしてあげたらいいのだろう。
 今になって現れたこの子に、何をしてあげられるのだろう。

「ただいま」
「……あ、おかえりなさい」
 寝息を確かめて、立ち上がる。
「りんご、これでいい?」
「うん、ありがとう……あ、ちょっと赤ちゃん見てて。お弁当食べながらでい
いから」
「…………あ、うん」
「寝てるから大丈夫。起きたら呼んで」
 うん、と、何だかえらく頼りない返事を、相羽さんはした。

 リンゴをすりおろして、火にかける。
 軽く煮えたところで片栗粉を混ぜて、少しとろみを付けて。
 
「……まだ、赤ちゃんおきてない?」 
「ああ、まだ寝てる」 
「じゃ、おきてからでいいかな」 
「……そだね」 
 一応、さます為にお皿に取っておいてから相羽さんのところに行く。
 食べかけのお弁当に、ベタ達がとっついてる。
「こら、相羽さんのお弁当を食べない……こっちおいで」
 買ってきてもらったお弁当を開いて、ベタ達を呼ぶ。三匹とも結構おなかが
空いていたのだろう、ひょん、とやってきてご飯をつついている。
 相羽さんは妙におっかなびっくり手を伸ばして、指で眠っている赤ちゃんの
頬を撫でている。

「……似てるね」
 こうやって並ぶと、特にそれが良くわかる。
 遺伝子に拠る相似形。それが何だか少しおかしい。
「……そう?」 
 相羽さんのほうは、笑っているのか困っているのか、微妙な顔になってこち
らを見た。 
「目のあたりとか、鼻の感じとか」  
「……そうかね」

 不思議な話かもしれない。
 自分の夫と、その人の子供。もし子供が生きていたら、こういうのって修羅
場になるパターンかもしれない。
 そんな風にある意味無責任に、あたしは考えている。考えられる。

「お父さんに似た美人になったのにね」 
「…………」 
「……微妙?」
 我ながら意地の悪い問いである。

 相羽さんは食べかけのお弁当のほうに手を伸ばす。
 思い出してあたしもお弁当を手に取る。
 赤ちゃんはまだぐっすり眠っている。ここに来るまでに疲れたのか、それと
もここに来て疲れたのか。
 水子が身体を得て、こうやってここに来て、おお泣きして。
 ……これからどうなるんだろうか。

「なんか今、ちょっと……くだらないこと考えてしまった」 
「なに?」 
「この子が、あたしから離れないままずっと一緒に居たら……大きくなることっ
てあるのかな」 

 相羽さんは黙ってこちらを見ている。
 確かに答えようの無い問いである。

「……戯言」 

 それはふっとよぎった風景。
 このふんわりとした小さな赤ちゃんが少しずつ大きくなって、そのうち相羽
さんに良く似た女の子に育って、笑っている。
 ……恐らくは単なる夢でしかない風景。
 
 ふっと伸びた手が、あたしの頭をくしゃっと撫でた。

「…………ごめんなさい」 
「あやまらなくていいよ」 

 実際のところ。
 この子が、お母さんと一緒にこの家にやってきたら、多分あたしはこんな暢
気な対応を出来ていないと思う。ある意味覚悟はしていても、やっぱり平静で
は居られないだろう、と、それは思う。
 でも実際、この子だけを見ていると……単純に可愛くて。
 でも可愛いと思えるその理由は、この子が単独で現れた……早い話が水子で
あったからだと思うと。
 酷く、やりきれない思いになる。

 赤ちゃんはぐっすり寝ている。
 どうして今ここに来たのか判らない。けれどどうやってか見たことも聞いた
ことも無いお父さんを探し当てて、ここまでやってきて。
 やっぱり疲れたのかな。
 丸く小さく握った手をそっと指で撫でる。赤ちゃんは小さく手を震わせた。


 お弁当を食べ終わっても、相変わらず赤ちゃんは起きない。
「相羽さんに……」
 言いかけてやっぱり却下。この人にオムツだのミルクだの買うことが可能と
思えない(有能なお巡りさんに対して、ある意味失礼な発言かもしれない)。
「今からちょっと買い物してくるけど、30分、相羽さん、赤ちゃん見ててくれ
る?」
 ……そこでどうしてそこまで不安そうな顔になるのだ。
「大丈夫。寝てるから。多分30分くらい寝続けると思うし」
「……うん」
「起きたら抱っこしてやってて」
「……抱っこ?」
 何故そこで、自分の手をこわごわ見ますかね。
「まだ首がちょっと据わりきってないから、頭を支えてやって……って判った、
悪かったっ」
 でもどうしよう。どちらにしろ今のうちに買い物行かないといけないのに。
「……相羽さん手を出して」
 ぐっすり眠っている赤ちゃんを、バスタオルごとそっと抱き上げる。そのま
ま相羽さんの腕に移して。
「起きたらそれで揺すってやったら何とかなる」
「……わかった」
「じゃ、急いで行って来ます」
 財布を取って、玄関を出て。
 ベタ達のお見送りに一度手を振って。

 後から考えると、我ながらほんとに迂闊な行動ではあったのだけど。


 適当に見繕って買い物を済ませるまで約二十分。駆け戻って玄関の扉を開け
る、と同時に。
「ほぎゃああああっ」
 大音量の声と。
「……あー泣くな、頼む泣かないでくれ」
 必死に頼む、みたいな声と。
「相羽さん、何泣かしてんのっ」 
 すっとんで行って、赤ちゃんを受け取る。顔を真っ赤にした赤ちゃんは、意
地を張ってるのかって勢いで、なかなか泣き止まない。
「どれくらい泣いてたの?」
「……今」
「へ?」

 そして言われた言葉に、あたしは改めて、自分がどれだけ間抜けか思い知っ
たものである。

「お前さんが玄関出てすぐ、この子消えたんだよね」

 
 考えてみれば……否、考えなくてもこの子は幽霊で。
 実体となっているのは、あたしが近くに居るからで。
 そんなことを、本当にあっさりと忘れていた自分が……情けない。

 赤ちゃんにしたら、機嫌が悪くて泣いてみても、実体が無いから通じない。
そこにお父さんが居るのに相手してもらえない。抱っこされている格好なのに
通じない。

「……そりゃ、泣くね」
 せっかくお父さんに会いに来たのに、そしてようやく会えたのに。これじゃ
あたしがそれを邪魔したようなものになってしまう。
 どうして今、ここに現れたのかは判らない。どういうきっかけだったのかも
何が起こったのかも。
 でも。

 とんとん、と背中を軽く叩きながら揺する。ようやく泣き止んで、でも涙で
ぐしゃぐしゃになったままの顔。
「相羽さん」
「……何?」
「せっかくこの子、相羽さんに会いに来たんだから、ちゃんと抱っこできるよ
うになろう」

 ……いやそこで青褪めなくていいですから。

時系列
------
 2006年2月上旬

解説
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 相羽家にやってきた、生まれたことの無い赤ん坊は、それでも赤ん坊でして。
 とりあえずお父さんへの目標設定(え?)。
************************************************
 てなもんで。
 しかし、自分も、結構知り合いに子供さんとかいて。
 やー大きくなったねえとか言いつつ抱っことかさせてもらうんですが。
 ……泣くんだこれが(笑)。おかーさん見るともう最後で。

 なので先輩頑張れ(おーえん)<おい
 
 ではでは。
 


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