[KATARIBE 29774] [HA06N] 小説『地蔵供養(上)』

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Date: Thu, 16 Feb 2006 00:59:13 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29774] [HA06N] 小説『地蔵供養(上)』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年02月16日:00時59分13秒
Sub:[HA06N]小説『地蔵供養(上)』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
『縋る者達』の続きになる、というかなんつかの話。
さて、困る人は誰だ(笑)。

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小説『地蔵供養(上)』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。かつて「おネエちゃんマスター」として名をはせた。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。2005年の10月に入籍。
     :かつての「おネエちゃんマスター」の所業については詳しい。

本文
----


 どこからやってきたのかは不明。
 どの縁かも不明。
 けれども。

           **

 あれは確か、相羽さんが帰ってくる寸前まで、自分の部屋で探し物をしてい
た日だったと思う。
 二日ほど続いた午前様、そしてようやくの休みの日。お昼を食べて暫くして、
ちょっと煙草買ってくるわ、と出て行った相羽さんが、戻ってきたのは20分か
そこら後。そんなに遠くに行ったわけではないだろうに。
「ただいま」
 その声と同時に、ベタ達が玄関に殺到する。
「あ、おかえりなさい」
 探していたメモが、パソコンと書類入れの間に落ちていたのを発見、キーボー
ドの上にそれを置いて部屋から出……かけたときに。

「ふぎゃあぁっ」

 …………は?

 思わず部屋から飛び出す、と同時に視野に飛び込んできたもの。
 玄関から少し入ったところ、何だかへたり込んだような格好の相羽さんと。
「うぎゃっうぎゃっうぎゃっ」
 へたり込んだ形で何とか受け止めたのだろう、その膝の上の、顔を真っ赤に
して泣いている裸の赤ちゃんと。


 突然出てきた、と、相羽さんは言う。
「よく、落とさなかったね」
「……うん」
 とにかく余程驚いたのだろう、暫く赤ちゃんは泣き止まず、当然ながら相羽
さんに任せるわけにもゆかず、ついでにおむつもなければ服もない状態だった
ので、タオルで代用してバスタオルでくるみこんで……と、しばらくばたばた
した。結局、その小さなお嬢ちゃん(女の子でした)が泣き止んでうとうとし
始めるまで、しばらく抱っこしていたのだけど。
「玄関では、居なかったんだよね?」
「居なかったね」
 妙に力強く、相羽さんは頷く。
 と、いうことは。

 顔を真っ赤にして泣いていた時は、誰に似てるも何もあったものじゃなかっ
たけれど、こうやって眠っていると、睫毛の長い目元や小さな形の良い鼻など
のどこやらが、見慣れた人のそれにどこか似ていて。

 すうすう眠る赤ちゃんを抱っこしたまま、相羽さんのほうを見る。
 相羽さんは……妙にばつが悪そうに目を逸らした。

「やっぱり、そういうこと、かなあ……」
「………………かも」
「……そゆこともありそうだしね」
「…………」
 以前のこの人の行動を鑑みるに、こういう子が今まで出てきてないってこと
のほうが、ある意味不思議だと思う。
「でも、どうして今なんだろう」

 片帆が聞いたらどう言うか知れたものじゃないけど、多分5月のあの日から、
相羽さんはおネエちゃん情報網を殆ど使ってない。
 ということは、それ以前、ってことになるけど。

 いや、以前だろうが以後だろうが、こういう子が居て、それが宙から……正
確に言えばあたしから周囲5mのところで現れたとするなら……そしてわざわ
ざ相羽さんについてきたとすれば。
 生まれてすぐに亡くなった子、か。
 ……それとも。

 ただ、その割に、どうもあんまり考えが滅入らないのは、多分、現に赤ちゃ
んが腕の中に居て、すっかり寝入っていて、暖かかくて重たいからかもしれな
い。
 皮膚感覚で、今のところ確かに生きている赤ん坊。
 だから、どうしても。

「ねえ、相羽さん」
「……何?」
「こうやって出てくるってことは、何か未練があったってことだよね」
「…………かもね」
 腕の中で赤ちゃんがもそもそと動く。どうしてもそちらに気を取られながら。
「どうやったら、未練が無くなるのかなあ」
「…………」
「どうしよう、ねえ」

 何だか夢でも見たのか、腕の中で赤ちゃんは少しぐずったが、ゆすっている
間にまたすうすうと眠ってしまった。
 ほっとして、顔を上げて。

「……相羽さん?」

 何だかえらく困り果てた顔を、相羽さんはしていた。
 そしてこちらも、ああ確かに、と思ってしまう。
 確かに。もしあたしが相羽さんの立場だったらと思うと……
 
 腕の中の赤ちゃんと、隣に、何だかちょこなんと座ってる相羽さんを見比べ
る。やっぱりどことなく似た、その顔を見つつ……
「相羽さんえらいかもしれない」
 思わず。そんな風に口走ってしまう。
「…………え?」 
「ここにちゃんと居て、見てるから」 
「……見てるくらいしかできないんだけど」
「いや、あたしが相羽さんだったら、居たたまれずに逃げちゃうかもしれない
なって」 
「……いや」

 赤ちゃんは手の中でほこほこと暖かくて、やわらかくて。
 そっと撫でた肌は、本当にふわふわしていて。
 
「お昼、どうしよう」
「…………あ」

 何やら言いかけた相羽さんが、視線を赤ちゃんのほうに落とした。

「あら、起きた?」

 そっと覗き込むと、あー、と、赤ちゃんが声をあげる。
 やっぱり困り果てたままの顔で、相羽さんがそれを見ている。

「……でも、確かに、見てるだけじゃ所在無さすぎだよね」 
 結構機嫌も良さそうだし。
「はい」 
 相羽さんに差し出す。
「大丈夫、今は機嫌がいいから」
「……」
 何だかおずおずと手を伸ばして、相羽さんは赤ちゃんを受け取る。その手つ
きも、抱っこした後の支え方も……一見して判る。
 この人、赤ちゃんを抱っこしたこと自体無いんじゃないか?

 赤ちゃんは首を回して、きょとっと相羽さんを見上げた。相羽さんのほうは、
何だか肩の先を全部硬直させて、赤ちゃんを抱くというより乗っけている。
「……相羽さん、そんな力入れなくても……」
「…………あ、いや」
 言ってる間に、赤ちゃんはもそもそ動きはじめる。
「だから、動いたら動いたで、一緒に手を動かしてあげないと……」
「あ、ああ……」
 困惑した顔で赤ちゃんを見ていた相羽さんが、やっぱり困惑したままこちら
を見る。
「……なんかさ、壊れない?」 
「自分の子供抱っこして、壊れないがありますかっ」 
「動くんだけど」
「……動かないでどーするのっ」
 ……ああ。
 赤ちゃんの顔が、なんかこう、笑うんだか泣くんだか、妙な具合にうにゃう
にゃになってきてる。
「……あー」
 相羽さんのほうも、何か妙に困惑した顔で、赤ちゃんとあたしを交互に見る。
「いや、だからね、相羽さん、手をもうちょっとこう……こっち見ないでいい
から!」
 えい、と、抱っこしている腕の形を矯正。ついでに頭を支えている手を出来
るだけそっと緩めさせて、もう少し楽に抱っこできるように…………って。

 あ、いかん。

 ひく、ひく、と、赤ちゃんの喉が何度か音を立てる。色白の肌が、だんだん
と赤くなって、大きな目がぎゅっと閉じられて。

「…………ほぎゃーーっ」 

 ……大音量。

「あーあー泣くな、泣くな……」 
 ふぎゃっふぎゃっと、赤ちゃんは体全部がふいごになった勢いで泣く。泣い
たついでに手足をばたばたさせるは居心地が悪いのかうんとこさ背を伸ばすは。
「ってか、相羽さん危ないっ」 
 うんっと伸ばした体が、相羽さんの手から落ちそうになるのを慌てて押しと
どめる。
「……なんか泣いてるんだけど」
「そら、赤ちゃんは泣くのが仕事ですから」 
 何だかこう、息が切れそうな勢いで泣いてるってのに、相羽さん困った顔に
なるばっかりで……
「…………あーいいです、貸してっ!」

 相羽さんから赤ちゃんをひったくる勢いで奪還。
「はい、もう大丈夫だよー」
 とんとん、と、背中を軽く叩きながら、軽く揺らしてやる。
「もう泣かないね、いいこね」

 ひく、ひく、と、何度か喉を鳴らした後で、赤ちゃんは泣き止んで……そし
てそのままことんと眠った。

時系列
------
 2006年2月上旬

解説
----
 ゆっきーが手刀でばっさりと縁を切った、その赤ちゃんは……。
 相羽さんが絶賛困惑中です、ええ。
************************************************************

 てなもんで。
 ええ、まだまだ先輩困ることになりますから(おい
 であであ。
 


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