[KATARIBE 29772] [HA06N] 小説『縋る者達』

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Date: Tue, 14 Feb 2006 23:45:20 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29772] [HA06N] 小説『縋る者達』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年02月14日:23時45分20秒
Sub:[HA06N]小説『縋る者達』:
From:久志


 久志です。
水子話(うへぇ)の発端になったりする話です。ええ。

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小説『縋る者達』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ) 
     :葬儀屋さん。生まれつき霊感が強く視えすぎる人。
     :ちょっとひねくれてるけど根はいい人。
 笹本衛(ささもと・まもる)
     :幸久の後輩。軽い口調のお兄ちゃん。

届かぬ手
--------

 久しぶりに、キツイもんを見た。

 生まれつき色々見えすぎる目と、葬儀屋という職のお陰でちょっとやそっと
の光景じゃ動じない自信のある俺からしても、いや俺だからこそわかる。吐き
気のするような光景。

「ユキさん、どうしたんすか?」
「いや、なんでもねえ」

 息苦しくなるほどの締め付けるような胸のむかつき。

 ゆらゆらと揺れる影。
 甘えるように、はしゃぐように、無数に飛び交う小さな体。
 俺の手の平にのるほどの小さな姿から――恐らくモグリの医者で処置したん
だろうな――かなり大きな姿まで。

 肌色に群がる体の中心にいるのは、傍目から見てわかるほどの分厚い化粧と
ブランド物の服に身を包んだ女。割合奇麗に整った顔は、見栄えをよくすると
いうよりも顔色の悪さを塗りたくって隠しているというといったほうが近いか
もしれない。一見、相当に若作りしてるようだが、化粧では隠し切れない年月
の淀みがそこかしこに見え隠れする。どこか雲を踏むようなふらついた足取り
は酔っ払っての千鳥足という雰囲気ではなく、下手すると薬でもやってるのか
もしれねえ。

 女の周り。
 ぬめったような赤い目の赤ん坊が、甘えるように、追いすがるように、すす
り泣くように――呪うように――漂っている。
 見ていて悲しくなるほどの小さな手が、空を掴むように、縋りつくように、
引きずり込むように女に伸ばされる、何度も、何度も。

「なんかヤバそな人ですね」
「……ああ」
 俺の隣、普段からノリの軽い能天気な後輩が珍しく眉をひそめてつぶやく。
 他の通行人も不穏なものを察してか、ふらふらと道を歩く女の周りには誰も
近づかず、ぽっかり穴を空けたように子供達にまとわりつかれるままの女が取
り残されている。

 これは、ヤバイなんてもんじゃねえ。

 地獄だ。

「わりぃ、笹本……ちょっと休んでいいか」
「ユキさん!真っ青すよ!」
 慌てて肩を支える後輩の腕を掴んで、ゆっくり膝をつく。
 こみ上げる吐き気はなんとか治まったものの、胸の奥を踏みにじられるよう
な後味の悪い息苦しさは治まらない。

「大丈夫すか?ユキさん」
「ああ、平気だ」
「どっか座ります?それかどっかの店の休憩室とかで横になるとか」
「いや、いい」

 ゆっくりと、遠ざかっていく女の姿。
 追いすがるように、無数の淡い光を身にまとった赤ん坊たちが後を追う。
淀んでぬめった赤い目で母親を見つめながら……

 思わず、握り締めた拳を叩き付けそうになるのを堪えた。

 追うな。
 その女は――何も返さない。

 喉の奥に感じる血の味。
 ああいう手合いは一番たちが悪く、恐ろしい。

 いやなもん見ちまった。

「ユキさん、ちょっと待っててください。お茶かってきますから」
「……悪い」

 ふと、目の前をよぎる影。
 少し遅れて、ゆっくりと女の後を追う小さな体。

 目に映る、女に向けた縁と、微かに伸びた細い縁。

 これは――父親?

 確認するより先に真っ直ぐに手が伸びていた。
 女とガキの間、断ち切れぬ淀んだ縁を、愛執を、報われない想いを。

 振り下ろした手刀。

 空気を切る、微かな手ごたえ。
 ふっと一瞬子供の姿が宙を泳いだ。

 しばらく動きを止めて不安げにあたりを見回した後、僅かに伸びた微かな縁
をゆっくり手繰るように頼りなげに動き出す。

 本当にこれでよかったのか?
 どっちにしても、あのガキには何の救いにもならないんじゃねえのか?

「ユキさん、お茶買ってきましたよ、大丈夫ですか?」
「……ああ、サンキュ」


時系列 
------ 
 2006年2月。
解説 
----
 幸久、通りすがりで会った女を見て。
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 と、いうわけで。
水子騒動、事の発端はゆっきーでした。



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