[KATARIBE 29768] [HA06N]小説『姉妹恋談義』

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Date: Mon, 13 Feb 2006 19:40:51 +0900
From: 葵一 <gandalf@petmail.net>
Subject: [KATARIBE 29768] [HA06N]小説『姉妹恋談義』
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 こんにちは葵でっす、『リングを君に』〜『お揃いはいかが』 の
 B面サイドが出てきました(w

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[HA06N]小説『姉妹恋談義』
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登場人物
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 如月 尊(きさらぎ・みこと):中身は三十路、外見女子高生な恋に悩むお
                嬢さん。

 十六夜 静音(いざよい・しずね):尊の叔母、良き(?)相談役。


姉妹恋談義
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 しゅんしゅんと石油ストーブの上で湯気を上げる薬缶の音を背中越しに聞き
ながら、炬燵の天板にぺたりとほっぺたをつけてボンヤリと左手を眺める。
 ちょっと暑いくらいの室内に比べ、ひんやりした天板が心地良い。

――くすりゆび、がいいなあ。

 照れてそっぽ向きながら言われた一言。
 「薬指」の一言に浮かれ舞い上がって、つい左手薬指のサイズ測っちゃった
けど、良かったのかな。
 よく考えたら本宮君、右、左どっちとも言ってなかったんだよね、あの時。
 クリスマスに貰ったエターナルサークルも素敵だったけど。
 左手薬指。
 女の子だったら一度くらいはその時を夢に見る、好きな人に左手薬指に指輪
をはめて貰う瞬間。
 他のアクセサリには無い特別な意味。
 今、指のサイズを聞くって事は……もし、本宮君が覚えててくれたのなら。
 誕生日、だよね、多分。
 実年齢で考えたら、はしゃいでお祝いするって年でも無いけど、この世にあ
たしと言う存在が生まれ出た事を誰かが祝福してくれるなら。
 まして、それが和久君なら。
 そんな日に指輪を……薬指に……。
 その意味を考えたら……期待、しちゃうじゃない。
 でも。
 その先を考えたら。

 ぴと。

 「ひぃゃっ!?」
 「こぉら、なに惚けてるの」

 ぼんやりしてたあたしの首筋にこの部屋の主、静姉がビールの缶を押し当て
た。

 「なにっ!?」
 「あら、飲み物いる? って何度も声かけたのに返事ないんだもの」
 「え、うそ、ほんと? ……ごめん、ぼけてた」
 「ま、いいけど……呑むでしょ?」
 「あ、うん」

 湯上りの静姉が浴衣でウィンクしながら片手で350mlの缶ビールを二本掲げて
見せる。
 こーゆー時、ほんっと……幾つだろって思うわ、こーゆー仕種がサラッと出
るんだもの。
 あたしにビールを一本手渡すと、もう片方の手でタオルを持った静姉は足だ
けで器用に炬燵布団をめくってあたしの隣にストンと座った。
 ……どーでも良いけど、見てるのがあたしだけだからいいものの、ちょっと
はしたないんじゃない?。
 静姉はそんな事お構いなしに風呂上りでまだ湿っている髪をパタパタとタオ
ルで乾かしながら、器用に片手でプルタブを開ける。

 「で、どしたの? 左手眺めて、怪我でもしたの?」
 「ううん、そうじゃないけど……」
 「ははぁん……」

 タオルを脇に置くと、暖かい室内に汗をかいた缶に口をつける。
 ほんのり桜色に染まった喉元が美味しそうな音を立ててビールを呑む。
 と、つられて見ていたあたしと、目が合った。
 ピタリとあたしを見据えた静姉の目がにんまりと笑う。

 「な、な……に?」

 一気に半分くらい飲んだ缶を置くと、ちろりと覗いた舌が紅い唇を舐める。
 ……やばい。
 静姉がこの顔するときは、大体ろくでもない時だ。

 「もしかして、本宮さん?」
 「え゛っ?」

 静姉にはまだ言ってないはずなのにっ。
 返すべき言葉が見つからず、金魚みたいにパクパク口を開けるあたしに静姉
はもう一本のビールを開けて差し出す。
 あたしは、その缶を引っつかむと、落ち着こうと一気に飲み干す。

 「何で知ってるのっ」
 「何でも何も……うちで呑んでく県警の人達噂してるもの、『生活安全課の
本宮と花屋の女の子が』って」

 ……そういえば、味噌路って県警の人たちがよく来るんだっけか……って噂
になってるっ!?

 「ここら辺で女の子がいる花屋って一軒しかないじゃない? あたしがみこ
ちゃんの叔母だって知ってる人は極少数だから、とりあえず聞くだけで知らん
振りしてるけどね」
 「ううう……」

 そういえば、最近県警道場に稽古行くとき周りの視線がなんとなく違うなぁっ
て思ったら……。
 恥ずかしいよぉ、次からどんな顔して稽古行けばいいのよ。

 「生活安全課の本宮さんって、もしかして刑事課の本宮さんの?」
 「うん……一番下の弟さん、和久君」
 「てことは……みこちゃんより年下?」
 「うん…………五つ……下」

 もーこーなったら、隠してもしょうがないし。
 正直に白状するか。

 「へぇ……五歳年下かぁ、若いツバメなんていいじゃない」
 「……」

 訪れた死のような沈黙。
 ただ、ストーブの上の薬缶だけがしゅんしゅん音を立てている。

 「静姉……」
 「え、えーと……じょ、冗談よ?」

 さすがに、あたしの絶対零度の視線と、呑み終わった空き缶が一撃で握りつ
ぶされるのを見たらちょっと真面目に聞く気になったみたい。

 「そ、それで、いつ知り合ったの?」
 「ん……最初に知り合ったのは小さくなっちゃう前の、彼が高校生の時かな」
 「そっか……じゃぁ……吹利に戻ってきてから、か」
 「うん……」
 「で、どうなの? みこちゃんは」
 「どう……って?」
 「もう……彼のこと、どう思ってるかって事」

 一瞬、固まったけど。

 「……好き……」
 「そっか」

 じっとあたしの眼を見つめていた静姉がふんわり笑ってあたしの腕を引っ
張った。
 引っ張られてバランスを崩したあたしはストンと静姉の懐に収まった。

 「ちょっ……静姉?」
 「いいんじゃない? なんか色々悩んでたみたいだけど」

 静姉は静かにそう言うと、昔あたしが「母さまがいない」って泣いていた時
みたいに優しく抱きしめてくれた。
 なんだか、酷く懐かしくて、暖かい。

 「い、いいって何が……」
 「好きな人がいるなら、頑張りなさい。 家の事や周りのことなんか気にせ
ず志乃姉さんの分まで幸せを掴みなさい」
 「だってそれじゃ」

 静姉……やっぱり気付いてたのか、もし、あたしが何処かへ嫁いだら。
 如月流が絶えてしまう事に。

 「いいのよ、家の事なんか。 貴女の思うようにしなさい」
 「おじいちゃん……許してくれるかな」
 「御爺様が許してくれなかったら……」

 くすっと軽い笑いがこぼれる。
 抱きしめられていたあたしには静姉の表情を伺うことは出来なかったけど。

 「あたしが斬り込みに行こうかしら?」
 「ちょ……」
 「冗談よ、あの御爺様がみこちゃんに辛い思いさせるわけ無いじゃない」
 「……そ、そうかなぁ」

 一瞬、雪山にほうり出されて鍛錬させられたり。
 目隠しして真剣で稽古とか。
 色々思い出したけど。

 「そうよ、あたしも応援するから、頑張りなさい」
 「ありがと……静姉……あのね」
 「ん?」
 「もう少し……こうしてて……いい?」
 「あらあら……どうしちゃったの?」
 「ん……なんとなく……」

 くすくす笑いながら頭をなでてくれる静姉の手を感じながら、膝の上で目を
閉じる。
 もう少し。
 頑張ってみようかな。



時系列
------
 2006年年明け早々くらい。
 味噌路二階の静音の部屋にて。

解説
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 えーと(汗)
 なんだろねぇ(w
 指のサイズ聞かれて、色々考えたみたいです。
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葵 一<gandalf@petmail.net>


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