[KATARIBE 29753] [HA06N]

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Date: Fri, 10 Feb 2006 00:11:01 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29753] [HA06N]
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200602091511.AAA81590@www.mahoroba.ne.jp>
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29700/29753.html

2006年02月10日:00時11分01秒
Sub:[HA06N]:
From:久志


 久志です。
忘れないうちに流しておこう、尊さんに指輪をプレゼントする話。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『リングを君に』
====================

登場キャラクター 
---------------- 
 本宮和久(もとみや・かずひさ)
     :吹利県生活安全課巡査。生真面目さん。あだ名は豆柴。
 前野浩(まえの・ひろし)
     :人間コンバータ、無道邸の執事。万能文化黒服。
 桜木達大(さくらぎ・たつひろ)
     :猫回しな若旦那。口のまわる交渉人だが自分の恋愛だとダメ。
 如月尊(きさらぎ・みこと)
     :体は女子高生、心は年上お姉さんな人。

悩み中
------

 女性への贈り物、簡単なようでいてなかなか難しいものである。

「はぁ……」
 ふと立ち寄った無道邸の居間で、手にしたカタログを眺めながら和久は小さ
く溜息をついた。パラパラとページを手繰って眺めていたのは女性向けジュエ
リーカタログ。各ページにきらびやかなアクセサリーの写真が所狭しと掲載さ
れている。

「ペンダントは……プレゼントしたんだよなあ」
 一ヶ月前のクリスマスに送ったティファニーエターナルサークル。
 シルバーのチェーンのトップを飾る柔らかい曲線のフォルムのペンダント。
クリスマスからひと月空けずにまたプレゼントともなると何を贈ったらいいの
か正直悩ましい。

「プレゼントですか?」
「あ、桜木さん」
 ふいに声を賭けられて慌てて顔をあげると、和久と同じく無道邸に訪れる常
連の一人、人外問題調停人である桜木達大がティーカップを片手ににこにこと
笑顔を浮かべながら和久を眺めている。
「なにやら真剣にご覧になっていましたので、つい」
「……ええ、まあ、プレゼント……なんですけど」
 思わず頭をかいて俯く和久の前にグリーンのティーカップが置かれる。
「尊さんの誕生日でしたね、そういえば」
 黒服にサングラスをかけた執事――実質の主人――前野浩がテーブルに置い
たトレイからバウムクーヘンののった小皿を和久と桜木の前に置く。
「どうぞ」
「あ、すいません、前野さん」
「これはどうも、それにしても随分真剣にお探しなんですねえ」
「なんというか、こういうものを選ぶセンスにイマイチ自信がなくて」
「いやなに、そうやって相手のことを考えて一生懸命に悩んで選ぶことが何よ
り相手にとって嬉しいプレゼントなんですよ?」
 手にした紅茶のカップをゆったりと揺らしながら桜木がにこにこと笑う。
「そう、なんですけど。なんだかどれもしっくりこなくて」
「ふむ……そうだ」
 何かを思いついたようにこつんとカップをソーサーに置く。
「どうしたんですか?」
「漆のリングなんてどうでしょう?」
「え?」
 漆という響きに思わず怪訝そうな顔をする和久と、はたと何かに気づいたよ
うな顔をする前野。
「ああ、あれか」
「ええ、前野さんはご存知でしょう」
「和久くん、ちょっと待ってて。写真があったからもってくるよ」
「はい……」
 奥に引っ込む前野を見送って、首をひねる。
 漆と聞いて、どうにも漆器くらいしか想像に浮かんでこない。

 程なく戻ってきた前野が数枚の写真をテーブルに広げた。
「これだよ」
「わ」

 写真に写っていたのは木箱に納められたリング。
 光沢のある赤い表面に黒い模様が描かれ、金属アクセサリーとはまた違った
柔らかさのある艶を感じる。

「奇麗ですね……それに、質感がすごくいいです」
「シルバーやゴールドとはまた違った魅力があるでしょう? きっとお気に召
すんじゃないでしょうか」
 にこにこと、桜木がどこか心を読ませない笑顔で写真を軽く指先で叩く。
「確かにこれなら尊さんも……って」
 はたと、気づく。
 リング、指輪……ちょっと意味深だ。
「でも、指輪……ですよね」
「ええ、そうですよ?」
「……指輪を贈るのって」
「何か問題が?」
「おや、だめなのかい?」
 別方向から前野のつっこみが入る。
「おや、では和久くんは本命が他に?」
「い、いえそうじゃなくって!」
 慌てて否定する和久の様子をみて、前野と桜木がちらりと顔をあわせて笑う。
「……いや、ダメじゃないんですけど……意味深かな、なんて」
「ああ、これは失礼。もうそのつもりで探してたんですね」
「違いますってばっ!」
 慌てふためく和久ににこにこと追い込みをかける桜木と思わず背中を向けて
必死に笑いをこらえている前野だった。


サイズはいかほど?
------------------

 吹利商店街、FLOWER SHOP Mikoの前にて。
 看板を見上げてなんとななく立ち尽くしている。

「……なんて言おう」
 結局、無道邸で前野と桜木の口車?にのせられて漆リングを買うことを決め
た和久だったが、ここで重大な問題に直面することになる。

 肝心の尊の指のサイズを知らない。

「うーん……でも指は、左手の……薬指はまずいよなあ、うん……中指とか」
 しばし頭を悩ませて、意を決したように店に足を踏み入れる。

「いらっしゃいませ、あ!和久さん」
「こんにちは夾ちゃん」
 花を活けたバケツを丁寧に寄せながら、アルバイトの夾が笑顔で手招きして
くる。
「尊さん、いるかな?」
「はい、リビングで休憩してます。さ、あがってあがって!」
「ああ、うん、お邪魔します」
 はやくはやくと急かされるように奥へと進み、リビングのドアを開ける。

 と。

 和久の視界に飛び込んできたのは――真っ白な太もも。

「へ?」

 リビングのソファの上に膝をのせて伸び上がるようにソファーの後ろを覗き
込んでいる尊の姿、しかも服装は膝上十センチほどのミニスカートで心持ち裾
がひっぱられて――実にヤバイ。

「あ、夾ちゃん?……丁度よかったちょっとピアスが後ろに」
 くるりと振り向いた尊と目が合って。

 二人そろって硬直する。

「きゃぁぁっ!」
「す、すみませんっ!」
 ずり落ちるようにソファから降りて裾を直す尊と慌てて顔を背ける和久。
「ご、ごめん本宮くん。ちょっとピアスを落としちゃってっ!」
「い、いえこちらこそすみませんっ!俺こそちゃんと声かけるべきでしたっ!」
「……あの」
「……はい」
「み、見えて無かったよねっ」
「は、はいっ、見えてないですっ」
 あわくって首を横に振る。
「そ、そういえば。今日はどうしたの、本宮くん」
「……ええと」
 もう当初の目的であるはずの指のサイズをいかにして聞き出すかの作戦は頭
からすっ飛んでいる。

 直接サイズを聞くか、触ってサイズを確認するか。
 どちらにしても非常にハードルは高い。
「……み、尊さん、あの」 
「んーなぁに?」
 ことんと首を傾げる尊の姿に思わず赤面する。
「……あの、ちょっと……聞きたいことが」 
「すりーさいずと体重以外ならいいわよ?」 
「いえ、その」
(ええい、しっかりしろ、俺)
 必死に自分に渇をいれつつ、一つ息を吸い込む。

「実は、指の……サイズを、知りたいんですけど」 
「ゆ……び……あ……」
 一瞬、止まって。数秒後に赤面する。
「あ、その、ええと、ちょっと聞いておきたくて」 
 言い出してから、どこの指のサイズか言ってない事に気づく和久。
「そ、その……どの…指?」
「……う”」
 咄嗟に答えられず硬直する。
(薬指だと意味深だし。でも、どうせなら、でもああ……)
 葛藤する和久を、心持ち赤面した顔で上目遣いで見上げている。
「あの、ええと……できれば」
 意を決したようにひとつ呼吸する。
「くすりゆび、がいいなあ、と」 
 緊張して少し裏返った和久の声にぱっと尊が顔を輝かせる。
「……はい」
 どうでもいいが、どっちの手とも言ってない。
 だが、尊が測ったのは当然のごとく左だった。

「これが、サイズです」
「……はい、ありがとう、ございます」

 次は買出しだ。

時系列 
------ 
 2006年1月下旬。尊さんの誕生日前。
解説 
----
 尊さんの誕生日に漆リングをプレゼントする為にサイズを確認にきた豆柴。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。




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