[KATARIBE 29749] [OM04N]小説『冬に咲く花』

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Date: Thu, 09 Feb 2006 01:43:29 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29749] [OM04N]小説『冬に咲く花』
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/OM04/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
23:14 <Role> rg[hukiwrite]HA06event: 片隅から冷たい野に咲く花がこちら
を見ている ですわ☆

……三十分どころではなく、この出来か(涙
妖艶とはかくも難しいものかと分かった次第。
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小説『冬に咲く花』
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登場人物
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 烏守望次(からすもり・もちつぐ):http://kataribe.com/OM/04/C/0002/
  見鬼な検非違使。

本編
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 先日の夜に降り出した雪は、今朝にはもうやんでいたものの、辺りを真っ白
な世界に変えるには十分であった。
 足跡がほとんど付いていない道を望次は歩いている。一歩踏み出す毎にサク
リ、と心地よい音がした。
「しかし、寒いな」
 呟いた言葉とともに白い息が漏れる。息を吸うと鼻の先がツンと痛んだ。
 通りを歩く人の姿は少なく、ひっそりと静まりかえっている。
 望次はかじかむ手を擦りあわせ、息を吹きかけた。ほんの少しだけぬくもり
を感じたが、それはほんの束の間で、再び手は冷たくなる。
 吹いてくる風は冷たく、自然と背中は丸くなってしまう。
 検非違使庁へと続く堀川の通りに出たところで、望次は鼻をくすぐる匂いに
足を止めた。
 香ってくるのは花の匂い。
 しかし、今は冬。周囲は雪に覆われていて花の姿などどこにもない。
 こんな時期に花が咲くものか、と望次は訝しみながら辺りを見回す。そし
て、ある一角を向いたときに違和感を感じて動きを止めた。
 望次の視線の先にあるのは鬼殿と呼ばれる、今は誰も住んでいない荒れ果て
た屋敷。その方を見たときにこめかみが微かに痛んだ。
「む……」
 彼は鬼殿へと足を進めた。近づくにつれて、花の匂いが濃くなっていく。
 門は壊れて半分ほど開きっぱなしになっていた。望次はそこから中へと入り
込んだ。
 長い間、人の手が入っていない屋敷は荒れ放題になっている。
 奥へと進んでいくと広い庭に出た。色々な植物が生えていたのだろうが、今
は雪に覆われていてどんな庭なのか全く分からない。
 しばらく、その場に立って庭を見つめていたが、不意に視線を感じて望次は
そちらに目をやった。真っ白な庭の片隅に一輪だけ花が咲いている。その花の
色は真っ白でよく見ないと雪の色に紛れて分からないほどであった。
 先ほどから香ってくる匂いの出所はこの花らしい。
 しかし、一輪だけでこれほどまでに匂うはずもない。きっと普通の花ではあ
るまい、と望次はその花をじっと見つめた。
 花の香りは、その元に近づいているせいか、濃さを一段と増している。
 やがて、望次は花の方へと足を踏み出した。その目はとろんとしていて、焦
点が合っていない。進んでいる足もふらふらとしていて自分の意志で進んでい
るようではなかった。
 ゆっくりと、しかし、確実に一歩ずつ彼は花へと向かっていく。
 手を伸ばせば花に触れられる位置にまで来ると、力が抜けたように彼は地面
に膝をついた。そして、相変わらずぼんやりとした表情のまま上方を見上げ
る。
 彼が見つめる先にいるのはきらびやかに着飾った女性。その唇に引いてある
紅がやけに鮮やかである。
 その女性は妖艶な笑みを浮かべたまま、膝をついている望次の頬にそっと触
れた。そして、その手を下へと滑らせていき首を撫でると、そのまま腕を彼の
首に回す。
「ふふ……」
 彼女は顔を望次の耳元へ寄せて、体を密着させた。望次はその間、抵抗もせ
ず彼女のされるがままになっている。
「っ!」
 その瞬間、ジュという音がして、彼女は望次を両手で突き放した。
「ぐぐぅ」
 女性のものとは思えない声が漏れる。その顔は先ほどとはうって変わって恐
ろしいものに変貌していた。
「くはっ」
 突き飛ばされた望次は庭に転がり、息を吐いた。
「うう……」
 我に返った望次は痛む頭を抑えて、前を向いた。そこに立っているのはまさ
に鬼と呼ぶにふさわしい形相の女性。
「おのれ人間の分際で……」
 開いた口から青白い炎が漏れる。
 望次は立ち上がって、腹の辺りをさすった。そこにあるのは不動明王の符。
どうやら、今までこの彼女に惑わされていたらしい。
「さすが時貞の符だ」
 苦笑いを浮かべる。そして、すぐに真剣な表情になる。どう考えても元凶は
彼女の足下にある花。
「悪いが、斬らせてもらう」
 彼は腰に差している太刀を抜いて、その花を斬った。
 彼女は苦悶の表情を浮かべると、望次の方を睨んだままその姿を消した。
 切られた花の切り口からまるで血のような赤色の液体が地面へと垂れてい
き、雪を染めていく。
「何もしなければ、斬らずにすんだのだがな」
 望次はそう呟いて、太刀を鞘に収めると、服に付いている雪を払う。
 花の匂いはいつの間にか消えてしまっていた。
 
解説
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花のあやかし、雪に散る。

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