[KATARIBE 29748] [HA06N] 小説『忍び寄る影』

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Date: Thu, 9 Feb 2006 01:44:27 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29748] [HA06N] 小説『忍び寄る影』
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2006年02月09日:01時44分27秒
Sub:[HA06N]小説『忍び寄る影』:
From:久志


 久志です。
 眠れる魔王動く、探偵さんの運命やいかに。

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小説『忍び寄る影』
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登場キャラクター
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 男   :探偵さん。依頼人より調査をしている様子。
 本宮尚久(もとみや・なおひさ)
     :本宮法律事務所所長、本宮家黒の系譜を継ぐ一人。眠れる魔王。
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ)
     :小池葬儀社勤務、尚久の三男。うってかわって小市民。
 小池国生(こいけ・くにお)
     :小池葬儀社社長、尚久の長年の親友。生まれつきの白髪。

策謀
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 一月も半ばを過ぎて、すっかり正月の喧騒も薄れた頃。
 あちこちで待ち合わせらしき人がひしめく駅前広場で、新聞紙で心持ち顔を
隠しつつ目的の人物の様子をうかがう。

 膝丈の黒のコートに淡いグレーのカシミアマフラーに心持ち顔をうずめて、
どことなく人待ち顔で腕時計を眺める姿。前髪を少し右サイドに分けた父親に
よく似た黒髪、どこか斜に構えたひねくれた雰囲気を漂わせながらも、なりき
れていない、背伸びした若造という風情の男。

 本宮幸久、28歳。
 本宮尚久の三男、次男友久は既に故人なので実質の次男にあたる。
 隙がなくつかみ所がない父や長男史久とは違い、どことなく我の強い個性が
仄見える。一見ひねくれた風を装いつつも直情で内心に歪んだものを感じない、
何を考えてどう行動するだろうということが読みやすいわかりやすい手合いだ。
人付き合いという観点で見るならば親しみやすいタイプともいえるだろう。
 読みやすさ、わかりやすさでいうと四男末っ子の本宮和久も通じるものがあ
るがやはり警察官という身分がネックになる。こちらの立場上、極力警察と係
り合いになるのは避けたいところだ。そうなると三人の息子のうち消去法で本
宮幸久を張るのが最適だろう。なにより本宮尚久の大学時代からの親友である
小池国生と近しいというのは非常に重要だ。

 小池国生。小池葬儀社の社長にして本宮尚久とは長年の友人でもあり、また
本宮本家分家とも縁が深く、関連会社の株主として吹利の有力者にも顔が利き、
自身のコネも相当なものがある。本宮尚久攻略にあたって、この二人のライン
は非常に重要になる。いくら当人に揺さぶりをかけようと、がっちりと背後を
守る騎士がいる限り効果は期待できない。むしろ、あらぬ反撃をされる恐れも
ある。まずはこの線をしっかりと洗っておく必要がある。

 そして、なにより調査中にひっかかったことが一つ。
 尚久の妻であり、全ての騒動のきっかけとなった本宮麻須美との関わり。
 小池国生と本宮――旧姓汐野麻須美。高校時代からの先輩後輩として親しい
つき合いを続けており同じ大学へと進み、だが大学で出会った本宮尚久と汐野
麻須美は恋に落ち、周囲の反対を押し切って駆け落ちした。

 どうにもひっかかる、この三人の関係。
 片想いの君をさらわれた小池は今でも尚久の親友を続け、しかしずっと独身
を貫いているという。この関係をうまく利用して、二人を反目させる――ある
いは息子達の疑心を煽る。こういう話は一旦波にのせてしまえば、後は手を離
していてもあちこちに波紋を広げていくものだ。

 本宮尚久当人の価値を落とさず、周囲につながる信頼を揺さぶることでじわ
じわと追い込んで孤立させていく。心を捉える為にはまず罠にかける為の環境
を整えていくのが第一だ。口先だけでなく状況をゆっくりと変えながら動きを
封じて絡めとる。

 例えば……本宮幸久の父親が尚久でなく小池だったとしたら?
 別段それが事実であるかどうかは関係ない、疑いを植えつけることさえでき
れば事実などどうでもよいことだ。
 その疑いを投げかけられたとしたら、証拠があることを匂わせたとしたら、
本宮幸久はどう動くか。想像に難くない、彼は悩むだろう。どちらにも近しい
立場であるが故に一人で思いつめ、行動を起こすだろう。絡めとるのは容易い。

 非道なやり方であることは重々承知。
 だが、ためらいはない。


魔王の背中
----------

 駅前広場でしきりに時計を気にしながら立ち尽くす本宮幸久の動きを注意深
く観察しつつ、周囲を見回す。休日の夕暮れ時ということも相まって買い物帰
りらしき人波がだんだんと増えてきている。

 ふと視線の先、本宮幸久が片手を挙げた。
 その先にいたのは――黒コートにダークグレーのソフト帽、同じ同系色のグ
レーマフラーを巻いた穏やかな笑顔を浮かべた初老の男。

 本宮尚久。

 内心舌打ちしつつ、人波に紛れるように視線が届くギリギリの位置に移動し、
様子をうかがう。比較的警戒の薄い本宮幸久だけならいざ知らず、当の本人が
いる状況で下手な動きはできない。
 まさか、本人が出てくるとは予想外だった。
 尚久の背後の位置に周り、人波の合間から目を凝らす。二人は立ち止まった
ままなにやら会話をしている。動き出す様子が無いのはまだ待ち合わせの予定
でもあるのだろうか。もし、長男本宮史久だった場合は一旦撤退するのもいた
しかたない。双方切れ者と名高い両名相手では流石にこちらの分が悪すぎる。

 噛み締めた奥歯が小さく軋む音が頭に響く。
 どうにもうまくいかない。

 時間にして五分ほど過ぎた頃。
 相変わらずどこに移動するでもなく、二人とも向き合ったままどこに行くで
もなく談笑している。
 膝丈の黒コートに包まれた背中、首を丸ごと覆うほど厚めに巻いたグレーの
マフラー、そして目深にかぶったボルサリーノ。変化はない。

 いや。

 でも。

 何故だ。

 この、どこか肌で感じる違和感は。

 その一瞬、凝視した黒コートの手が動いた、身を堅くして動きを注視する。
 頭に被った帽子に手をかけ――

 脱いだ帽子から溢れた白い髪。


「なっ……」

 思わず絶句する。
 なぜ、違う。どうして。

 頭を振って、手にした帽子を目の前の本宮幸久にかぶせて振り向いた顔。

 この男は――

「小池国生!?」

 なぜ?
 いつの間に?
 本宮尚久は……



「こちらですよ」


 背筋が、凍った。


時系列 
------ 
 2006年01月中旬。
解説 
----
 黒の系譜動く。探偵の背後に経つのは。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

 お父さん怖いヨ。
 次回、探偵さんはこの危機をのりきることができるか。


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