[KATARIBE 29742] [HA06N]小説『手につまずく』

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Date: Wed, 08 Feb 2006 00:46:30 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29742] [HA06N]小説『手につまずく』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
23:35 <Role> rg[hukiwrite]HA06event: 若い男の前で倒れてしまった ですわ☆
でした。

キャラチャからの小説化。互いの名前を知らない者同士の話は書きにくい、
ということに気付きました。

チェックよろしくです>ひさしさん
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小説『手につまずく』
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登場人物
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 火川猛芳(ひかわ・たけよし):http://kataribe.com/HA/06/C/0580/
  帆川神社の宮司。

 蒼雅巧(そうが・たくみ):http://kataribe.com/HA/06/C/0529/
  礼儀正しい高校生。

本編
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 猛芳が気が付いたときには、体のバランスは崩れかけていた。どうにかして
踏ん張ろうと思ったが、その努力もむなしく、彼は身を捻るようにして地面に
倒れた。
「あいたた……」
 大人になると転ぶことが滅多にない分、転んだときのダメージは大きい。し
かし、幸いにも怪我はなさそうである。
 猛芳の前を歩いていた巧が後方でした物音に気づき振り返る。
「どうなさいました? 大丈夫ですか」
 駆け寄って猛芳に声をかける。
 見られていたかと、猛芳はその声の主からは見えないように苦笑いを浮かべ
た。そして、ゆっくりと立ち上がると服に付いた砂を払った。
「いや、ちょっと何かに躓いたらしくての」
「失礼。裾にも」
 そう言って巧は猛芳の裾に付いている砂を払う。武道でもしているのか、と
猛芳は彼の言動を見て思った。
「すまんの」
「いえ、例には及びません」
 やれやれ、と一息ついて。
「しかし、何に躓いたのやら」
 振り返って、躓いた物を見て猛芳は動きを止めた。その様子に気付いて、巧
も猛芳が見ている方を向いた。
 丁度、躓いた地点に穴が開いており、そこから人の手らしき物がにゅっと出
ている。そして、二人に手を振っていた。
「なっ」
 巧は声を上げて驚き、猛芳は眉をひそめてそれを睨む。
「……面妖な」
 巧がその手に向かって構える。手はしてやったり、とでも言いたいのか握り
拳を作って親指だけを立てた。
「どうしたものかのう」
「……あやかしの類か」
 手から目を離さずに巧が言う。
「じゃろうな」
 猛芳が答える。
 巧は構えていた木刀をそっとその手に近づけた。恐る恐る触ってみる、とい
う感じではなく、変な動きを見せれば打つ、という感じである。
 彼のただならぬ気配に気付いたのか、人の手は掌を大きく広げてみせると、
穴の中に潜り、そこから白旗だけを出して振り始めた。
「……降参、と?」
「悪い奴ではなさそうじゃの」
 猛芳は苦笑を浮かべる。
「そのよう……ですね」
 巧は警戒は解かないままで、木刀を引いた。
「じゃが、いたずらはいかん」
「怪我がなかったのが幸いですが」
「年寄りじゃったら怪我をしていたぞ」
 巧は心の中で「あなたは年寄りじゃないのか」とツッコミを入れた。勿論、
表にはおくびにも出さない。
「うむ。石で蓋でもするかの」
 その言葉に、穴から手が再び姿を見せると、広げた掌を地面に付けては起こ
し、という動作を繰り返した。
「……謝罪、でしょうか?」
「らしいな…… まあ、許してやるか」
「ええ……」
 そう言って巧はふうと息を吐き、警戒を解いた。
「もう、悪戯はしませんよね?」
 巧の言葉に手は握り拳で親指を立てる仕草を見せた。それを見て、猛芳は顔
をしかめた。
「……なんか微妙に不安が残るのう」
「……一応反省してるようなので」
「そうじゃな」
 猛芳は巧の方を向いた。
「それにしても、君。変なことに巻き込んだようですまんかったの」
「いえ、お気になさらず。お怪我がなくて幸いです」
 巧が猛芳に向かって礼儀正しく頭を下げる。
「じゃあ、ワシはこれで」
 そう言って、猛芳が軽く手を挙げる。
「はい、それでは」
 巧は再び一礼すると、クルリと身を反転させてその場を去っていく。猛芳は
少しの間その後ろ姿を見送り、歩いていく。
 その二人の後方で、穴から伸びた手が彼らに向かって手を振っていた。


時系列と舞台
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2006年2月

解説
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普通のようで普通じゃない日常。

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