[KATARIBE 29736] [HA06N] 小説『夜九時の電話』

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Date: Sun, 5 Feb 2006 00:23:54 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29736] [HA06N] 小説『夜九時の電話』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年02月05日:00時23分53秒
Sub:[HA06N]小説『夜九時の電話』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
先程流した話の続きです。
こまこま、書いてゆきます。

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小説『夜九時の電話』
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登場人物
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 赤ベタ、青ベタ
     :以前、相羽家で飼われていたベタ達のあやかし。
     :現在メスベタが居ないので、なおさら元気が無い。

本文
----

 カレンダーの今日の日付を、赤のベタがちょんとつつく。
「……うん、そうだね」
 一週間後の日付を、今度は青のベタがちょんちょんとつつく。
「…………そのとおり」

 ……いやだから、ふよふよ降りてきて、テーブルの上で不貞寝するのはよし
なさいっての。

「仕方ないでしょ、相羽さんお仕事なんだから」
 ぢたばたぢたばた。
 ねっころがったまま、ひれでテーブルをばたばた叩く。
「拗ねたって仕方ないでしょ」
 ぢたばたぢたばた。
「…………あんたら、ねえ」

 テーブルに組んだ腕を乗っけて、そこにあごを載せる。
 ベタ達の気持ちはわからないでもないけど。ってか判るけど。

 多分最終の便で、相羽さん達は昨日北海道に向かった。
 まさかその夜から仕事で……ってことは無いだろうから、昨日はまだ安心だっ
たんだけど。
 ……でも、なあ。

 ご飯を作るのも何だか面倒になって、結局出来あいのおかずを買ってきてし
まった……ら。
 ベタ達には、なーんか不評なんである。
「……ぜーたくもんー」
 組んだ手をほどいて、つんつん、と、ベタ達をつついてみる。
 ぶすっくれなベタ達は、ちょっとだけ飛び上がって……また、テーブルの上
で不貞寝状態になってしまった。

「あーいかんわ」
 せめて、お菓子くらいは出そう。
「ほら、ベタ達。そやって冷たい上で寝てたら、風邪引くよ?」
 ……あ、ほんとにふててる。ひれをやたらと鬱陶しげにぱた、ぱた、とやっ
ただけで、やっぱり寝転がったままだもの。
「……昨日の、相羽さんが持ってったお菓子の残り、あるのになあ」
 ぼそ、と言うと、二匹がぴくりと頭を上げた。
「お茶美味しいの淹れて、一緒に食べようと思ってたけど、そーかベタ達は要
らないんだなー」
 ばた、ばたばたたっ。
 言った途端に、二匹がテーブルから跳ね上がる。ぱたぱたこちらの周りを飛
び回るのが、何とも現金なようでおかしくて。

「……さびしいんだよね、ふたりとも」

 考えてみれば、メスベタもどうやら相羽さんについていったようだし、余計
にさびしくて仕方ないのだろう。
 青ベタが、ひょいっとこちらを見る。と同時に飛んできて肩の上に乗り、そ
のままぺったりとくっついてる。赤ベタも一拍遅れて、大慌てで飛んできて、
もう一方の肩にちょんと乗った。

 お湯を沸かして、お茶を用意して。
 お菓子の片一方を、半分に切って、ベタ用に少し大きめのお皿に出して。
 さて食べようか、と、言いかけたところで。
 電話が鳴った。

   

 後で何で、と、訊かれたけど、正直まさか相羽さんからの電話とは思わなかっ
た。そうなるとこの時間かけてくる人は殆ど居ないから、一体誰かと思ったの
だけど。

「はい、もしもし、相羽ですけど……」
 一瞬の間。そしてくつくつと笑う声。
『元気の無い声だねえ』
「…………えーっ!」 

 思わず受話器を握りなおす。ついでに腕時計を確認する。
 ……まだ、9時。

「え、え、相羽さん、電話して大丈夫なのっ?!」

 仕事については厳しい人だから、まさか仕事が終わってない状態で、それも
連絡を入れる必要が無い時に電話を入れるとは思えない。
 ってことは。

『今日はもう、部屋に戻ってるよ』
「うっわ……良かったあ」
 受話器持ったまま、座り込んでしまう。ベタ達がすっ飛んできて、受話器に
ぺっとりへばりつく。 
「夜中通して外で仕事、とかなったら……ほんとどうなるかと思った」 
 また、数秒の沈黙。
『……そこまで危ない仕事じゃないって、言ってなかったっけ』
「……言ってたけど」
 相羽さんを信頼してないわけじゃないけど。
「だって、一週間も、それも北海道まで出張って言うから……」 
『まあ、半分雑用おしつけられたようなもんだからねえ』
 受話器の向こうの、苦笑交じりの声。
「……でも、それでもよかった」 
『まあ、危ない橋とかじゃないから』
「うん」
 あ、なんか顔がほころんでしまうな。
 9時に、こちらにこんな電話かけられるくらい、相羽さんの仕事、大変でも
危険でも無いんだ。
 
「相羽さんが無事なら、出張長くてもいいよ」
『……無事で早く帰れるのが一番かねえ』
 苦笑と一緒に、相羽さんはそんな風に言う。
「……それは、そうだけど」 
 少しだけ、言葉に詰まる。それは早く帰ってきて欲しいけど。
「でも、こちらだと相羽さん、毎度危ない仕事になりそうだもの」

 こちらでだって、仕事の上で危ないことも多い人なのだ。それなら……無論
いつもだと困るけど……雑用でもいい、危なくない出張先でのんびりしてて欲
しい、なんて思ってしまう。

『それでも、さ』
 何だかひどく優しい声で、相羽さんが言う。
『早く会いたいよ』
 ……何だか、言葉に詰まった。

 のんびりしてて欲しいけど。安全であって欲しいけど。
 …………でも。

「……待ってるね」
 
 自分でも……ほんとに何言ってるかなと思う。これまで一人暮らしの長さは
相当、だから自分の不安なんかは無い。でも。

 ああ、と、小さく頷く気配が、受話器の向こうから聞こえてくる。

『また電話するから。早くねなよ?』 
「……相羽さんも、眠れる、のね?」 
 思わず確認。大丈夫、と思ってるんだけど、でも。
『こっちも早く寝るよ。おやすみ』
「おやすみなさい……って、あ、相羽さん」
『何?』
「風邪、引かないようにね?」 
 さっきテレビのニュースで、天気予報を見た。
 北海道の平均気温は……あんまし思い出したくない。

 くくく、と、小さな笑い声が耳に届いた。

『……わかってる』
「うん」
『おやすみ』
「……おやすみなさい」
 言いながら、ふと思い出す。時折花澄が言っていた一言を。
「良い夢を」

 ぽつん、と、切れるまで、受話器をかかえていた。
 ベタ達も、やっぱりぺたっと受話器にひっついていた。

 切れた電話。受話器をゆっくりと元に戻して。

「……お菓子、たべよっか」
 ぷくー、ぱたたたたっ。
 
 さっきより、格段に元気になったベタ達が、ぴょいぴょいと宙を跳ねた。

時系列
------
 2006年1月末。

解説
----
 出張、お留守番組の風景です。
 ……で、真帆は知りませんが、この電話、向こう側では豆柴君が聞いていたり(汗)
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 てなもんです。
 さあ、ひさしゃ任せたわ(謎)
 であであ。
 


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