[KATARIBE 29734] [HA06N] 小説『一週間の出張』

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Date: Sat, 4 Feb 2006 23:04:10 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29734] [HA06N] 小説『一週間の出張』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年02月04日:23時04分09秒
Sub:[HA06N]小説『一週間の出張』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
出張ネタ、また引っ張りますが、まず第一弾。
確かに一週間の出張って……用意面倒だよなあ。

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小説『一週間の出張』
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登場人物
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 相羽尚吾(あいば・しょうご)
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。
 相羽真帆(あいば・まほ)
     :自称小市民。多少毒舌。10月に入籍。 
 赤ベタ、青ベタ、メスベタ
     :以前、相羽家で飼われていたベタ達のあやかし。

本文
----

 初めて会ってから、もうすぐ一年。
 その間、よく考えたら、これだけ長いこと顔を合わせないことって無かった
かもしれない。

           **

 電話があったのは、確かお昼の少し後。
 一体どうしたんだろう、と、あわてる間もなく。
『ちょっと北海道いくから荷物まとめといて』
 ……北海道?
「えっと、何日くらいの出張?」
 咄嗟に尋ねる。今の時期、北海道って……
『ざっと一週間くらいかね、ああ途中東京とかもよるから』
 一週間。
 それも北海道と東京って。
 靴も困るだろうし……いや、でも、そもそも相羽さん、そういう靴持ってな
い筈だし。それにコートとか……
 とか、ぐるぐる考えてたら。
『たしかどこかにごついコートあったんだけど、探しといて』 
「……あ、はい」 
 そもそも相羽さんは、そんなに服を持ってるわけじゃない。押入れかどこか
を見れば、多分見つかると思うけど……
 あ、でも、鞄とかどうしよう。
『適当に揃えといて。三時頃、戻るから』
「……わかりました、出来るだけやっておきます」
『ありがとね』

 ちん、と、切れた音を聞いて、受話器を下ろして。

「……っても、どうしよう」
 単なる出張なら、山の中に10日間、とかいうのもあった。数日とは言え冬
の北海道に行ったこともある。
 だけど。
「そんな、靴とかどうするんだろう……」
 こちらが慌てているのが判るのか、ベタ達がいつのまにか周りをぱたくたと
飛び回っている。
「……いや、あんた達が慌てても仕方ないし」

 とりあえず。
 相羽さんに、途中で洗濯するなんてことは絶対無理だし、あれが無いこれを
忘れたとなっても、コンビニで買うくらいなら無いまんま済ませそうだ(そう
考えると自分の出張の用意のほうがなんぼかましである)。
 ってことは……

「あーこら、引き出しの中に入らないっ」
 ぱたたっと飛ぶベタを、ベッドのほうに追いやって。
「コート……どこにあるかなあ……」
 時計を確認する。
 とりあえず……用意するまで3時間弱。

          **

 とりあえず、出張って言ってもさっぱり判らないので、用意を三つに分けた。
絶対必要なもの、必要じゃないかなと思うもの、微妙なもの。
 一体どの程度の荷物を持ってゆく積りなのか、それが今ひとつ判らない。だ
から鞄も二つ引っ張り出しておいて。

「あー、そこ、鞄に入って遊ばない」

 ふよふよ、と、黒い鞄の中に入り込んだメスベタを、鞄を逆さにして出す。
強引にはたき出されたメスベタは、憤然として宙を二度、三度とぐるぐる回っ
たあと。
「い、いたいいたいっ」
 でしでしでし、と、えらい勢いでつつきまくってくれた。
「でも!北海道にまで行くわけにいかないでしょうっ」
 ……いやそこで、つーんとあっちゃ向かれると、なんか不安になるんですが。



 相羽さんは、電話のとおりに三時頃戻ってきた。
「一応用意したんだけど、要らないものは省いて下さいね」
「うん」
 で、相羽さんがいると言ったものを、鞄に詰めて……
 やっぱり防寒服とか、量がかなりのものになってて。

「……でも、北海道、かあ」 
 思わず呟いたら、荷物を調べていた相羽さんが、顔を上げた。
「なんかお土産いる?」 
「あ、別に……」 

 ふっと、よぎるように不安になる。
 元々相羽さんの専門は、ヤクザと麻薬の筈だ。そりゃ、その組織とか考えれ
ば全国規模のものもあるんだろうけど。
 でも。
 それで、冬の今の時期の北海道に、一週間、て。

 仕事のことについては、基本として聞かないようにしている。相羽さんにし
たら守秘義務から答えられないことも多いだろうし、こちらも訊いて答えが無
いのは、その理由が何であれやはり不安にはなる。
 だけど、こんな時には、それが辛い。どれだけ危険なんだろうか。どれだけ
危ないんだろうか。どれだけ大変な仕事なんだろうか……

 と。

 ふわ、と、頭の上に手が乗った。

「説明できないけど、危ない仕事じゃないから」 
「……うん」
「すぐ帰ってくるよ」  

 仕事のことで、危ない、とは、一度も聞いたことはない。
 この前怪我してきた時も、ある意味不意打ちだった。
 ……今度も、ある意味不意打ちで。

「……気をつけて」
 だけどまさか、不安な顔をするわけにもいかないから。
「……こればっかはね、苦労かけるけど」 
「あ、うん、お仕事だから」
 仕方が無い。こればっかりは仕方が無い、から。
「心配かけるけどさ」 
 相羽さんの手が、何度も何度も頭を撫でる。
 だけど、それだけは。
「……覚悟の上ですから」 
 笑って言うと、相羽さんも苦笑した。

 
 丁度買ってきてた、柿を型どった和菓子。それと有平糖をかわらせんべいで
巻いたお菓子。
 柿の形の和菓子を、相羽さんは手に取る。
「これ、もう一つある?」
「へ?……あ、うん、あるよ」
「豆柴君と一緒だから」
「あ……それじゃ」
 二つとも袋に入れて、鞄の上のほうに詰める。
「こっち、日持ちするから……」
「わかった」

 鞄を玄関まで持っていく。
 ベタ達が、何となくしおたれてついて来る。

「……帰る前には、電話して」 
「ちゃんと連絡するよ」 
「…………うん」 
 気をつけて、と言いたかった。何度言っても言い足りない気がした。
 でも、そうやって言うことが……信用してないことになるんだろうか。

「じゃ、豆柴君と待ち合わせてるから」
「あ、はい……」

 気をつけて、と、言おうとした。
 でも、それ以上何も言えなかった。
 大丈夫だから、心配しないでいいから、と、こちらの心配の言葉ごと、封じ
られたような気がして。

「んじゃ、行ってくるわ」
「……いってらっしゃい」
 出来るだけ笑って、見送って。
 扉の外の足音が聞こえなくなるまで待って、鍵を閉めた。

 振り返るとしょんぼりとした、ベタが二匹。
 …………ん?

「あれ、メスベタはお見送りしてないの?」
 きょとん、と、二匹が顔を上げる。
「意地でもお見送りしそうだったのになあ……どうしたんだろ」
 赤と青のベタは、きょと、と、互いに顔を見合わせると、ひゅん、と部屋の
中にすっ飛んでいった。支度の後、まだ色々出していたものをひっくり返して
は跳ね飛ばす。
「って、こーらっ!」
 慌てて止めたけど、囲い込んだ腕の中で、二匹はぢたばたとひれを盛大に動
かした。
「……居ない?」
 ぷくー、ぱたたたっ。
「居ないって、そんな」

 あ。

 何となく、皆で顔を見合わせてしまった。
 一番相羽さんにくっつきまわるメスベタ。それが今ここに居ないってことは。

「…………無事に帰ってきてよ、ほんとにっ」
 なんかがっくり疲れてしまって、座り込む。
 両側にベタが一匹ずつ、ふよふよふよと沈むように着陸する。

 一週間。
 相羽さんもメスベタも……大丈夫だろうか。


時系列
------
 2006年一月末。

解説
----
 出張ネタのその一。急遽北海道に出張の決まった先輩と、用意する真帆と。
 いやほんと、靴は必須って言われたんですけど、主に長靴が(汗)
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 てなもんで。
 ではでは。
 


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