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Date: Fri, 3 Feb 2006 23:41:45 +0900 (JST)
From: いー・あーる <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29732] [HA20P] エピソード『怖い本』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年02月03日:23時41分44秒
Sub:[HA20P]エピソード『怖い本』:
From:いー・あーる
ども、いー・あーるです。
かなり前のログですが、先日の話から連想して、起こしてみました。
(いや、本の感想→そーいや怖がってるのも感想だよなあ、と)
久方ぶりの西生駒です。
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エピソード『怖い本』
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登場人物
--------
石雲悠也(いしくも・ゆうや)
:西生駒高校一年生。図書委員。石化能力者。
蒼雅至(そうが・いたる)
:西生駒高校一年生。霊鴉使い。忍者同好会所属。
本文
----
西生駒高校、廊下の片隅。
……なんでまたそんなところで、と言いたくなるような場所で。
悠也 :「………………?(汗)」
えぐえぐ、と、泣いている後姿……というか、後ろからも見えるぴんと突っ
立った髪の毛。
悠也 :「…………蒼雅君?」
恐る恐る声をかけた石雲悠也の声に、至はふにゃあとふやけたような顔のま
ま振り返った。
至 :「ぐすっ」
悠也 :「ど、どうしたんだよ(汗)」
至 :「ええと、ええと……火渡先輩にお借りした本を読んで……」
悠也 :「…………は?」
それ以上は言わない。
悠也 :「えっと……あの人に、何て本借りたの?」
怖くてべそべそ泣いている、というのが一番ありそうだが、至の場合、感動
してもべそべそ泣くのは目に見えている。さてこれはどっちだろう、と、疑わ
しげな顔になって問いかけた悠也に。
至 :「こ、これを……」
悠也 :「……え」
差し出される、数冊の本。
牧野修の、ホラー揃い踏みである。
悠也 :(先輩何を考えてるんだ(汗))
至の怖がりには定評(?)がある。少なくとも火渡が知らない筈が無い。流
石に呆れた顔になった悠也の表情を読んでか、あわあわと至は手を振り回した。
至 :「いや、その……面白かったのですっ(涙目」
悠也 :「あ、うん……」
至 :「…………うぅ(でも怖いです)」
悠也 :「……『MOUSE』に『だからドロシー帰っておいで』
:に、『傀儡后』(汗)」
確かに面白い作品であるのは、悠也も知ってはいる。
しかし。
悠也 :「これもしかして、一気読みした?(汗)」
至 :「はい」
相棒たる霊鴉、墨染をしっかりと胸に抱えたまま、至はこくこくと頷く。
悠也 :(あーうー)
確かに、作者が全部違うなら、騙されても仕方ないかもしれないが。
ついでに言うと、悠也が読んだくらいでは、泣くほど怖がるわけはないが。
そこはそれ、『ぼっけえきょうてえ』を読んで、ほろほろ泣くのが至である。
……ある意味作者の夢の実現者と、言って言えないことはない。
悠也 :「ってか……どれか一冊読んだら、怖いって判るだろ?お
:んなじ作者なんだからっ!」
至 :「…………こ、怖かったのですが、ちゃんと面白かったの
:ですっ」
悠也 :「面白いったって、怖いならそこでやめるべきだよ!」
至 :「……読んでるときは、そんなに怖くなかったのですが」
悠也 :「読み終わってから、怖くなる?」
至 :「…………はい」
蚊の鳴くような声で、返事がある。
あーあ、と、悠也は頭を抱える。
悠也 :「えっと、もしかして……昨日寝てない、とか?」
至 :「……寝る努力はしたのです」
悠也 :「…………」
頭痛が痛い、という表現は、こういう時にこそ適切かもしれない、と。
まじめに考え込んでしまった悠也である。
悠也 :「あ……えっとね、この人の作品だったらね、『王の眠る
:丘』とか『呪禁官』なんかは怖くなさげ……」
言いかけて、ふと不安になる。どちらも目立たないながら、怖いシーンが無
いわけではない。
悠也 :「……………だと思うんだけど(ちょっと不安)」
至 :「さ、さようですか」
悠也 :「ってか、ぼっけえきょうてえが怖い人が、どーして『だ
:からドロシー』を読むんだよっ!」
えい、と、本を突きつける悠也に、びくう、と至が身を引いた。
悠也 :「ちゃんと先輩に訊かないと!これ怖くないですかって」
至 :「は、はいっ、これから注意しますっ」
よし、と、それはそれは偉そうに頷いた悠也ではあるが。
悠也 :「……っても……どうも蒼雅君、怖い本の幅広そうだしな
:あ……」
腕を組んで、むう、と、唸る。
至 :「あの……」
悠也 :「えっと……MOUSEなんかだと、何が怖かった?殺し
:方?心理戦?内臓引っ張り出す鼠の王が蘇るとこ?」
……ってそこで、リアルにいうなやおまいわ。
至 :(ごろごろごろ)
てきめんに、墨染を抱えて転がるいたるんである。
悠也 :「……えっと、全部?」
小声で訊いた悠也に、至は涙目でこくこくと頷く。
うーむ、と、悠也は頭を抱えた。
悠也 :「……えっとさ、火渡先輩から本借りる時には」
至 :「はい」
溜息交じりの悠也の言葉に、びし、と至は正座する。
悠也 :「借りたら見せてよ。それなりに読んでるほうだから、怖
:そうだったら言うから」
至 :「ははっ、わかり申した。よろしくお願いしまする」
言葉遣いはともかく、目はまだ涙目のままである。
悠也 :「そういや蒼雅君、アガサ・クリスティとか読んだことあ
:る?」
至 :「……あがさ・くりすてぃですか?」
発音でわかる。確実に読んだことはなさそうだ。
悠也 :「んーとね……階段からおばあさんが転がり落ちて死んだ
:りとか、パーティに出てた牧師さんが毒殺されたりとか」
至 :「……はい」
悠也 :「そういう話の謎を解くっての……怖い?」
至 :「えと、そういうものならば、怖くないです」
まん丸な目をなお丸く開いて、頷く至を見て、悠也は少々疑わしげな顔になっ
たが、
悠也 :「……うん、じゃ、大体わかった」
至 :「はあ……」
悠也 :「火渡先輩に言っときなよ。絶対、少しでもホラーはいや
:です、勧めるならミステリにして下さいって」
至 :「は、はいっ」
とは、言え。
悠也 :(そういうこと言うと、火渡先輩だと、横溝正史だの江戸
:川乱歩だの薦めるんだろうなあ)
何というかこう。
どっちもどっちもな状態では、ある。
悠也 :「でもさ、どっちにしろ、これ、お話だよ?」
取りあえず本に罪は無い。本を返しながら悠也は困ったように言った。
悠也 :「蒼雅君、忍者同好会かなんかに入ってるんだよね?」
至 :「そうであります」
悠也 :「そっちのほうが、リアルなんだから怖くない?」
至 :「えと、えとっ」
正座したまま、はい、と手をあげての発言である。
至 :「お話だとはわかっているのです」
悠也 :「ふむ……」
至 :「…………その、読んでいる間は怖くないのです」
読み終わった後が……と言いかけて、またぎゅっと墨染を抱きしめるのを、
悠也はあーあと(この数分で何度目かの)溜息混じりに眺めやった。
悠也 :「えっとね、それ、想像力過多だと思う」
至 :「……はい」
悠也 :「だって、蒼雅君、カムイ伝とか読むだろ?」
至 :「はい」
悠也 :「ああいう話に出てくる昔の忍者って、拷問とかもしたん
:だろ?」
至 :(びくぅ)
悠也 :「爪の間に針刺したりとか」
至 :(><)(ぞくぞく)
悠也 :「鼻を斬り飛ばしたりとか」
至 :Σ( ̄□ ̄;)
悠也 :「耳削いだり石抱かせたり……」
百面相状態の至をほっぽらかして、うーんうーん、と、悠也は昔読んだ忍者
漫画のおぼろげな記憶を掘り起こす。
……いや掘り起こすのは良いんだが(よくも無いが)。
悠也 :「っての、やってたのが、忍者だよね?」
それをいちいち口に出して確認するもんだから。
至 :(;_;)
悠也 :(……あ、いけね(汗))
火渡のことを、全く言えない悠也である。
悠也 :「や、でも、僕は全部読んでないけどさ!でもカムイ伝と
:か、もっと酷いシーンなかったっけ?!」
そんなこと言うて、次に至がカムイ伝を読んで泣き出したらどうする……と、
普通なら突っ込みを食らうべき悠也の台詞を、素直に聞くのが至である。
至 :「えと、その、そういうしーんはありましたけど。拙者は
:平気でありました」
悠也 :「んじゃ、別に本だって同じじゃないのかな」
至 :「……さようですね……むうう」
悠也 :「やっぱり、想像力が過多なんだよ」
至 :「……考えすぎなのでありましょうか」
言いながら、至はまたもやだんだん涙目になる。
悠也 :(何だかちっちゃい子供みたいだなあ(汗))
いや、それは本当かもしれないが、言っても正に今更だ>悠也。
悠也 :「考えすぎ、というより……」
どうすればいいかなあ、と、暫く考え込んで。
悠也 :「ああ、じゃ、本読んでて怖いシーンがあったら、カムイ
:伝のキャラクターで想像しなおすんだよ。そしたら多少、
:リアルじゃなくなるだろ?」
至 :「はぃ……」
悠也 :「そういうの、多少麻痺させてないと……大変だよ?」
至 :「わ、わかり申した」
こくん、と、至は一度頷き……そしてまた、今度は大きく頷いた。
至 :「つまり自分を制御しろとおっしゃられるんですね!」
悠也 :「……まあ、そうなるのかなあ」
何か微妙に勘違いがあるような気がするのだが……言ってどうなる勘違いで
はなさそうなのも確かなのである。
悠也 :「あ、それ、『怖いと思ってるのをやせ我慢』だと、制御
:になってないからね」
至 :「はっ…………」
悠也 :「本当に怖く思わなくなるのが『制御』だから!」
至 :「……はい」
ぐしぐしと目をこする。ようやくそれでも、涙は止まったようだ。
悠也 :「とりあえず……僕は図書室行くけど、蒼雅君は?部活?」
至 :「今日は部活はお休みですので、図書室で修行するであり
:ます」
悠也 :(つまりカバーかけか(汗))
それを修行というのも何だかなあ……とは思うのだが。
悠也 :「じゃ、一緒に行こう。火渡先輩に僕も言いたいから」
至 :「ははっ!」
悠也 :(まったく先輩も、そんなちっちゃいこいぢめるような真
:似をしなくたって、充分いじめ能力持ってるんだからっ)
何だかこう、それは確かにそうだがそれを言っちゃおしまいだ、みたいなこ
とを考えながら、悠也がずんずんと図書室に向けて歩いてゆく。
その後ろを、やっぱり墨染を大事に抱っこしながら、てこてこと至がついて
ゆく。
それなりに笑える風景なのだが……とっくの昔にその風景は、西生駒の廊下
に馴染んでしまっている。
まだ、夏の暑さの残る、そんな日の一コマである。
時系列
-------
2006年9月頃
解説
----
石雲悠也と蒼雅至。ある意味対称的な一年生の日常です。
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てなもんで。
ではでは。
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