[KATARIBE 29730] [HA06N] 小説『詩歌創作部員』

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Date: Thu, 2 Feb 2006 23:56:41 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29730] [HA06N] 小説『詩歌創作部員』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2006年02月02日:23時56分41秒
Sub:[HA06N]小説『詩歌創作部員』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
少し聡を動かしてみました。
チャットでお世話になりました高瀬夕樹君、お借りしました>ふきらん
一応、会話はチャットに準じていますが、聡の言葉、端々直してますし、
何箇所か、夕樹君の言葉を、「つないだりきったり」してます。
チェックお願いしますー。

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小説『詩歌創作部員』
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登場人物
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 高瀬夕樹(たかせ・ゆうき):http://kataribe.com/HA/06/C/0581/
  :高校生で歌よみ。創作部所属。
 関口聡(せきぐち・さとし):http://kataribe.com/HA/06/C/0533/
  :周囲安定化能力者。片目は意思と感情を色として見、片耳は異界の音を聞く。

本文
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 吹利学校、高等部、創作部。
 どうしたわけか、妙な面々が揃っているこの部は、毎度廊下にまで響くほど
色々な声が噴出す場所でもある。
 流石に最近身の危険を感じて、聡としても足が遠のいていたりするのだ。
 が。

(…………?)

 創作部の部室の引き戸は、半分開いている。
 珍しく……本当に珍しく、人の気配が殆ど無い。
 ただ、蛍光灯が点っているあたり、誰かは居るのだろうが。

 半分開いた扉から、こっそりと中を覗く。
 隅のほうにある机。丁度扉に横顔を見せる向きに座って、男子生徒が一人、
何やら小さく呟いている。
 机の上には、シャーペンとノート。
 高瀬夕樹。一年生の……創作部ではあまり目立たな一人である(周りが目立
ちすぎであるとの意見もある)。
 するり、と、聡は部屋の中に入った。

 片目を細める。
 透明球はくるくると回っている。
 相当、何やら一心に考えているらしい。
 時折、意識の球の中を、ピアノ線に似た鋭い線が走る。しかしその色は、不
思議と穏やかな……どこかしら、千代紙や古い着物で見るような色である。

 はて、と首を傾げながら、聡は一つ隣の机に軽く腰をかける。
(そう言えば、高瀬君って何を作ってるんだろう)
 編み物やビーズ細工、その成功率はともかく、蒼雅紫が作ったものは幾つか
知っているし見ている。それを言うなら一之瀬や御厨が作るものも、多少なり
と聡は知っている。
 しかし、高瀬夕樹については……何を作っているのか、具体的に見たことは
無い。

 ふむ、と、首を傾げた聡の視線の先で、不意に夕樹は視線をあげた。
「雪の降る……」
 呟くように言葉が放たれると同時に、聡は思わず目をしばたいた。
 うーん、と、宙を睨むように見る夕樹の周り。何も無い筈の空間に、うっす
らと見える雪がふわりと現れ、舞いはじめ。 
「……違うな」 
 その一言で、すう、と、溶けるように消える。
 まじまじと見る聡の視線にも気がつく様子も無く。
「桜舞う……いや、これも」
 やはり言葉と一緒に桜の花びらがふわりと現れ、舞い……そして否定の言葉
と同時にふわりと消える。 

(へえ)
 目を丸くして見ていた聡は、ふと気がついて片目を閉じた。異界を、そして
人の感情を見る左目を、今度ばかりは閉じてみる。
「春霞……ってのも」
 それでもやはり、彼の周りには、言葉と同時にほんのりと紅を帯びた霞が漂
い、そしてまたふう、と、消えてゆく。
「うーん……」
 そっと左目を開き、今度は右目を閉じる。透明の中、今は、帯締めを思わせ
る抹茶色の柔らかな波がふわふわと漂っている。
「どうせなら黄粉鳥……それはあんまりか」
 開いた右の目には、夕樹の周りを舞う小さな緑の鳥。
 左の目には、よく似た色合いの、柔らかな色の流れ。
(きなこどり……鶯かな、それ?)
 首を傾げながら、聡が興味津々で見ていた……時に。

「ん?」
 ひょっと夕樹が聡のほうに顔を向けた。途端に「これは如何にもまずい」と
でも言いたげな表情が、その顔をよぎる。
「……見てた?」 
「無論」 
 恐る恐る問いかける声に、聡のほうはあっさりと答え、付け足した。
「和モノのプロモーションビデオ見てるみたいだったなあ」 
「うう……」
 暢気な声と言葉に、がっくりと夕樹は机に突っ伏した。
「……一応、秘密ということで」 
「いや、別に、誰かに言う積りはない……けど」
 言いながら聡はついつい苦笑する。彼の周囲に起こる不思議と、自分の内奥
に在る不思議と。どちらが性質が悪いかといえば、確実に後者の筈だ。
「別に、いいんじゃないかなあ。綺麗だったし」 
「……むう」 
 にこにこ笑いながら、ごく当たり前に答えた聡に、夕樹は小さく唸った。
「でも、或る意味勿体無いなあ。いつもの大騒ぎの中だと、ここの皆、気がつ
かないんじゃ?」 
「気付かない方がいいよ。こんなのできるの普通じゃないし」 
「でも、害無いし、綺麗だし……良いんじゃないかなあ」

 人を攻撃することもない。何か不快な印象も無い。それならば多少奇妙であっ
ても、聡には問題無いように思えるわけだが。
 無論、本人の意見は多少なりと異なるものである。

「……さっきのは雪や桜だったからよかったものの」 
「?」 
「人をも身をも恨みざらまし、とか出たらどうなると思う?」 
「…………綺麗な女の人が七転八倒?」
 言ってみて、聡は考え込む。『あうことの たえてしなくば なかなかに』
と詠ったこの人は……
「あ」
 思い当たった聡の表情を肯うように、夕樹は少々ぶすっとした顔になって言
葉を返す。
「恨みがましい顔のおっさん出るかもよ?」 
「それで夕樹君を恨めしげーに見たりするんだ」 
「まあ、ね」
 からからと笑いながらの言葉に、夕樹も苦笑を返した。

 一月の日は暮れるのが早く、窓の外はかなり暗くなっている。

「それだとでも、ある意味ここが創作部で良かったね」
 首を傾げた夕樹に、言葉をついで。
「ここで大騒ぎしてたら、そんなの誰も気にしないし」 
 創作部の毎度の騒ぎ。無論夕樹も良く知っているから、そうかもなあ、と、
苦笑交じりに頷いた。
「詩歌創作部じゃなくなって、良かったのやら悪かったのやら」 
「……え?」 
「ああ、ここ、元々は詩歌創作部だった、とかいう?」 
「うん、そう」 
「…………遠大なる方向転換してるな、この部……」 
 取りあえず、現在の状況とはかーなり違うのではあるまいか。
「生き残るための苦肉の策だった、って部長は言ってたけどね」
 溜息交じりに夕樹は肩をすくめる。
「本人は「詩歌」を外す気満々だったね、絶対」 
「……うーん……」
 確かに、詩歌を創作する人数は少ないといえば少ないだろうし、部の存続の
危機だったろうことは、想像に難くない。
 しかしそこまで大幅な方向転換しても、部を存続させたいものかなあ、と、
聡は少々首を捻ったが。

(あ、でも)
 ということは、その、詩歌創作部に入りたくて入ってきた、この部員は。

「で」 
 ひょい、と顔を上げて。
「どんな詩歌作るんだろう」 
「はい?」 
「作ったのあったら、読んでみたい」
 わくわくにこにこ。ある意味邪気の無い……故にある意味厄介でもある表情
である。
「え、誰の?」 
「誰のって……そりゃ高瀬君の」 
 まあ、この話の流れならばそうなるだろう。
「やっぱり?」 
「だって、詩歌創作部の最後の生き残りが作った詩なら、読みたいじゃないか」 
 最後の生き残りという表現もどうかと思うのだが……とりあえず夕樹はそれ
どころではないらしい。
「うぅ……そりゃネタ帳には書いてるけど……」 
 目の前に広げていたノートを見やり、また閉じ、また開き、と繰り替えすの
を、聡は黙ってにこにこ笑いながら見ている。

 周囲安定化能力。
 自分の周囲を、多少自分に都合良く傾けてしまう能力。特にこのような、相
手が迷っている場合に、その力はそっと相手の意思を片方に『押す』こととな
る。
 ものを書く人間は、それが詩であれ文章であれ、誰かに見せたい、という意
思を持っている。ただ同時に羞恥心や作品の完成度への疑いが、それを押しと
どめるだけのことで。
 故に。

「まあ、読んでもらわないと詠む意味ないし……」 
 うむーと唸っていた夕樹が、それでものろのろとノートを一度閉じて、聡に
渡すまでの時間は、3分かそこらのものだった。
「はい」
 ありがとう、と、にこにこしながら聡はノートを受け取る。開いて、最初の
幾つかを見る。

(……種田山頭火?)
 言葉のリズム自体は「五七五七七」であるから、本来自由律詩の種田山頭火
を持ってくるのは当たらない。ただ、どこか言葉の自由さに、山頭火の句の自
由さが重なったのかもしれない。
 ふむ、と、小さく呟きながら聡はノートをめくる。その横で、何とも居心地
の悪そうな顔になった夕樹が黙って聡を見ている。
(あ、でも、なんからしいなあ)
 高瀬夕樹という生徒は、確かに創作部ではあまり目立たない。けれどもその
精神のどこかに、しゃんと通った筋がある。
 聡には正直、句のよしあしはわからない。ただ、この句から夕樹が見ていた
だろうもの、見ようとしていたもの、を、考えるに。
 
(穏やかで、落ち着いて、静かで、でも力強い)

 右の耳が、じじ、と、地鳴りのような音を捉えた。


「……高瀬君」
 恐らくじりじりとして待っている夕樹に構わず、聡は最後のページまで読み
終わり、そしてふと目を上げた。
「これ、詠んでる時って、やっぱり周りにそういう風景出てくるんだ?」 
「うーん……どうなんだろ?」
 直接の感想ではないだけに、少し気が抜けたような、それでいてほっとした
ような顔で、夕樹が応じる。
「思い込みが強いと音とかは聞こえてくるけど」 
「……これなんか、作ってるうちにびしょぬれになりそうだね」
 聡が指差したのは、ノートの中頃、ページの最初くらいに書いてある句であ
る。

『灰色の雨のやまないこの街に黄色い傘は売られていない』 

「その歌作った時って、どうだったっけ……」 
 句の内容が内容だけに、声に出して詠む事はせず……そのまま夕樹は首を傾
げた。暫く黙っていたが、ふと笑い顔になる。
「ああ。窓の外がモノクロになってた」 
「…………雨を呼んだな、それは」 
「ははっ」
 聡がくすりと笑い、夕樹が笑う。
 おかしいから笑うというより……何かやわらかく、腑に落ちた時の同意のよ
うな笑い。

「でも、僕は詩歌とか、そんなにどれがどうって判らないけど」
 ノートをそっと閉じて、表紙を一度手で撫でながら、聡は笑った。
「高瀬君の句、好きだな。色とか空気が、ふわっと湧くようで」 
 一瞬身構えた夕樹は、ふう、と溜息を吐くと同時に肩をおろした。
「あぁ、よかった。そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとう」 
「こちらこそ」
 安心したように笑う夕樹に笑い返して、聡はひょい、と立ち上がった。
「また、読ませて欲しいな……読ませてくれてありがとう」
 ぺこ、と頭を下げて、するり、と部室から出る。小柄な分小回りが効くのか
どうか、その動きは十分に滑らかで遅滞が無い。
「詩歌創作部部員、頑張れ」
 戸口のところで一瞬足を止めて、にっこり笑ってそういうと、ごく自然な風
にするすると聡は部室から出てゆく。
「あ……」 
 それこそ、夕樹が呼び止める間も無いくらいに、するすると。

 外はもうすっかり暗くなっている。
 返してもらったノートの表紙を、夕樹は何となくぽん、と、手で叩き……そ
の動作に、何やら思い当たったような顔になった。

「そういや、初めて同級生に読んでもらったや」
 夕樹はぽつんとそう呟いて、ノートをもう一度眺めた。

時系列
------
 2006年1月中旬。

解説
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 創作部きっての常識人(多分)な夕樹と、実は創作部員ではない聡と。
 何となくのんびりとした一風景です。

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 てなもんです。
 ではでは。
 


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