[KATARIBE 29725] [HA06N]小説『ゆっくりと歩く老人』

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Date: Wed, 01 Feb 2006 00:02:55 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29725] [HA06N]小説『ゆっくりと歩く老人』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
23:00 <Role> rg[hukiwrite]HA06event: のろくさい散歩中のじいさまに出く
わした ですわ☆

でした。
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小説『ゆっくりと歩く老人』
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登場人物
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 一白(いっぱく):http://kataribe.com/HA/06/C/0583/
  津久見神羅の式神。

 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
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 買い物の帰り、片手に大きな袋を持った神羅は道路を挟んだ反対側の歩道を
一人の老人がゆっくりと歩いているのが目に止まった。
「ねえ、どうしたの?」
 隣を歩いている一白が神羅の顔を見上げて首をかしげた。
「いや、あの爺さんがな」
 そう言って向こう側の歩道に顔を向けた。一白もそっちの方を見る。その老
人は周りの人の半分ほどの速度で歩いている。しかし、その光景は特に違和感
なく馴染んでいて、まるで彼の周りの時間だけがその進み方を遅らせているよ
うだった。
「あれ? あの人幽霊なんだ」
 目を凝らしてその老人を見た一白が言った。彼の姿は少し透けていて、すれ
違う人たちは彼に接触しても全く気にとめない。
 強い風が吹き、周囲の人は身をすくめ、コートの襟をかき合わせる。しか
し、老人は特に反応することもなく一歩、また一歩と進んでいく。
「気になるんだ?」
 一白が神羅に尋ねる。
「まあ、な」
「どこに行くか、後をつけてみようか」
「うーん……」
 神羅は立ち止まってしばらく考える。手には買い物袋がある。今日の夕食当
番は自分だが、帰ってすぐに食事に取りかからなければいけないというわけで
はない。
「少しついていってみるか」
「うん」
 二人は方向転換して、近くにあった歩道橋を足早に渡った。
 反対側の歩道に到着したとき、丁度彼らの前を老人が通り過ぎてゆく。その
後ろを少し離れて、神羅と一白は彼と同じ速度で歩き出した。
 少し進んだところで、神羅が立ち止まり溜め息をついた。
「どうしたの?」
 先を行く一白が振り返る。
「あの爺さんのスピードにあわせるのは正直辛い」
 老人の姿は普通の人には見えないので、ゆっくり歩いていても気にはされな
いが、それを追う二人の姿はばっちり見えている。現にこれまでもすれ違う人
の何人かがいぶかしげな顔でこちらを見ていたのに気がついている。
「……ああ、式を放てばええんや」
 神羅が言った。なぜそのことを思いつかなかったのか自分でも不思議であ
る。わざわざ自分で追わなくても式神に追わせれば事は足りるのだ。
「そういや、そうだね」
 一白もそのことには気付かなかったのか、何となく照れ笑いを浮かべる。
「というわけで……これ持って」
 神羅は持っていた買い物袋を一白に渡すと、ポケットを探った。そして、す
ぐに苦い表情を浮かべる。
「紙がない」
 一白が、えー、と声を上げる。今ポケットに入っているのは財布と携帯電話
だけ。
「あ、レシートがある……けど、書くものがあらへん」
 いつも持っている物を持っていないときに限って、それが必要になる。まる
で何とかの法則のようである。
 どうするかなあ、と思いながら前を見ると、いつの間にか先を歩いていた老
人の姿が無くなっている。
「おや?」
 神羅が首をかしげる。一白も振り返って、同じように首をかしげた。
「あれ、お爺さんどこ行っちゃったんだろ?」
 すこし先に進んでみるが、神社やお墓といった特に目立つようなものはな
い。ただ道路にそって店が続いているだけである。
「……ま、ええか」
 諦めた口調で神羅が言った。
「えー 諦めちゃうのー」
 一白が不満の声を上げる。
「しゃあないやんか。追いようがないんやし」
「むー」
 口をとがらせている一白の手から、買い物袋を取るともと来た道を歩いてい
く。その後を慌てて一白が追いかけ、やがて横に並ぶ。
「ねえ」
「ん?」
「また会えるかな?」
「さあ、どうやろうね」
 二人は並んだまま歩いていく。
 その後ろの方で、いつの間にか再び現れた老人が相変わらずゆっくりとした
足取りで彼らとは反対方向へ進んでいた。

時系列と舞台
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2006年1月。どっかの道路。

解説
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ちょっとした日常。

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