[KATARIBE 29714] [HA06P] エピソード『任命、マメシバン』

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Date: Sat, 28 Jan 2006 04:06:29 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29714] [HA06P] エピソード『任命、マメシバン』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年01月28日:04時06分29秒
Sub:[HA06P] エピソード『任命、マメシバン』:
From:久志


 久志です。
葵さんありがとーのマメシバンプロジェクト。続けてスカウト編です。

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エピソード『任命、マメシバン』
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登場キャラクター 
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 薗煮広矢(そのに・ひろや)
     :吹利県警広報に所属する『プロジェクト・マメシバン』仕掛け人。
 本宮和久(もとみや・かずひさ) 
     :吹利県警生活安全課巡査の生真面目さん。犬にたとえると豆柴。
 

お悩み相談
----------

 吹利県、生活安全部。
 県警巡査、本宮和久はデスクに座り机の脇に置かれた電話の受話器を片手に
なにやら話し込んでいた。

 和久     :「例えばこういうのはどうかな? その嘘ついちゃったお
        :友達にお手紙を出すというのは。面と向かってだとなかな
        :か言い辛いこととかも、文章にしてみることで伝えられる
        :かもしれないよ? 気を落ち着けて考えて、どうして嘘を
        :ついちゃったのか、謝りたいこととかを書きながら自分で
        :も考えてみるといいと思う。きっとそれは君の為にもいい
        :ことだと思うよ、ね?」

 児童相談ダイヤル担当、本宮和久巡査。あだ名は豆柴くん。
 しかしながらもっぱらかかってくるのは冷やかしやイタズラ電話、相談とは
全く関係ない雑談などが多かったりする。しかし、どんなふざけた相談だろう
と莫迦がつくほど真剣に応じてくれるところが好まれていたりもするようだ。

 和久     :「はい……それはよかった。はい、じゃあまた学校のこと
        :やお家のことで悩んでいることが辛いことがあったらいつ
        :でも相談窓口に電話をください。はい、それじゃあ」

 かしゃんと電話を切って一息つく。
 机の片隅の湯呑みを手にとってすっかり冷めたお茶をひと口飲む。軽く肩を
鳴らして力を抜いた。

 幸      :「はは、相変わらず豆っこは人気ものやねぇ」
 和久     :「あ、桃実課長」

 心持ち椅子の背にもたれかかるように力を抜いた和久の肩に手をのせたのは、
生活安全部の課長である桃実幸だった。

 和久     :「すみません、電話が長引いてしまって……まだ書類が」
 幸      :「ええねんええねん、豆ちゃんさっきから長々と悩み相談
        :で疲れたやろ、一服して調子整えとき」
 和久     :「え? ですが……」
 幸      :「ほれ」

 慌てて机の上の書きかけの書類に向き直ろうとした和久の額にこつんとぶつ
かる感触、目の前に差し出されたのは一本の缶コーヒー。

 幸      :「たまには気ぃ抜かんと、ね」
 和久     :「はい……すみません、課長」

 暖かい缶コーヒーを手に深く一礼して席を後にする。


薗煮時空、発生
--------------

 吹利県警、休憩室。
 忙しい仕事の合間をぬって一息ついている者、なにやら話し合いをしている
者、頭を悩ませながら書類を書いている者、様々だ。

 和久     :「はぁ」

 手にした缶コーヒーをひと口飲んで、心持ち椅子に沈み込むように体から力
を抜いて息をつく。ここ最近、和久が児童相談ダイヤル相談員をはじめてから、
お子様人気がうなぎのぼりである。というか前々から春の安全指導で犬のお巡
りさんの扮装をしてたあたりから結構好かれてはいたのだが。

 和久     :「好かれることはいいことなんだろうけど……こういう好
        :かれかたでいいのかな(汗)」

 子供に好かれることはいいのだ、好かれないよりは好かれたほうがいいに決
まっている。だが、イマイチ釈然としない和久だった。

 そこに。
 缶コーヒーを飲みつつ椅子に座った和久の背後に忍び寄る影が一つ。

 薗煮     :「ふふふ、生活安全部少年課の本宮和久巡査だね?」
 和久     :「わぁっ」

 不意に背後から肩を叩かれ一瞬椅子からずりおちそうになる。

 和久     :「……え?あの、なんでしょう?」
 薗煮     :「吹利県警広報部第一企画課薗煮広矢、よろしく」
 和久     :「は、はい、よろしくお願いします」

 思わず頭を下げる和久の顔をじっと見て、人差し指でくいっと黒ぶち眼鏡の
フレームを直してにこやかに――というかいかにも何か企んでそうに――微笑
む薗煮。

 薗煮     :「本宮和久巡査、生活安全部での児童相談ダイヤル相談員
        :にして、各相談員の中でもピカイチの人気を誇る君を見込
        :んで頼みたいことがあってね」
 和久     :「な、なんでしょう?」

 ふっと、真剣な顔で目の前に立ち和久の両肩に手を置く。

 薗煮     :「豆柴っ!」
 和久     :「はいっ」

 元気良く答えんでよろしい。

 薗煮     :「若さとはなんだ?」
 和久     :「は?」
 薗煮     :「振り向かないことだ!」

 いきなりこれだ。

 和久     :「あの、一体……」

 突然のみょうちきりんな発言に思わず困惑する和久(あたりまえ)だが全く
気にも止めずに言葉を続ける薗煮。

 薗煮     :「そして、豆柴。愛とはなんだ?」
 和久     :「……ためらわないことですか?」

 そこ真面目に答えなくていいから。

 薗煮     :「そうだ豆柴!やはり君俺が見込んだ通りの人材だ!」
 和久     :「あの、話が見えないんですけど……」
 薗煮     :「豆柴、いや本宮和久巡査……」
 和久     :「……はい、なんですか」

 小さく息を吸って止める。じっと見開いた真剣な目が和久を捕らえる。
 ナイフのように尖った鋭い真剣なまなざしに一瞬和久が体を堅くする。

 薗煮     :「吹利の、いや子供たち全てのヒーローになってくれ」
 和久     :「…………は?」

 目が点になった。

 薗煮     :「豆柴、俺たちは警察官だ」
 和久     :「はい……それはわかります、けど。ヒーローって」
 薗煮     :「何故警察官になりたいと思った? 警察官になった時に
        :抱いていた気持ちを思い出せるか? 皆が笑いあって過ご
        :せる穏やかな日々の為、夢に溢れた子供達の輝く笑顔の為、
        :どんな苦しい時も体に鞭打ってきた、そうだろう?」
 和久     :「はい」
 薗煮     :「だが、今はどうだろう? 今時の子供達は仕事や趣味に
        :追われる大人や成長しきれない歪んだ大人達を信じられず、
        :本来頼るべき純粋に信じられるものを失い、まさしく漂流
        :している」
 和久     :「……はい」
 薗煮     :「君も悩み相談の電話を受けていて気づかなかったか?」
 和久     :「ええ、わかります」

 実際、和久自身どうしてその悩みを親兄弟や先生に相談できないのかという
話をいくつも小学生くらいの子供から悩み相談の電話で聞かされたことがある。

 薗煮     :「たとえ豆柴が百匹いて、その全ての相談を聞き救ってあ
        :げられたとして、全てを救えるわけじゃない」
 和久     :「それは……」

 さり気に単位に匹が出てきたのはどうかと一瞬思ったが言わないでおいた。

 薗煮     :「今の子供達に欠けているもの、それを補い、解決しない
        :限りいたちごっこは続く」
 和久     :「欠けているもの?」
 薗煮     :「……そう、それこそがヒーロー」

 すっと目を細める。

 薗煮     :「ヒーローとはただ闇雲に人を助け、救うだけじゃない」

 ぐぐっと目の前で握りこぶしを作り力を込める。

 薗煮     :「ヒーローとは、子供達の心の奥底で灯される命の輝き。
        :正義を愛する心、人を思いやる優しさ、そして何者をも恐
        :れない勇気、子供達にとって灯台であり指し示す光なのだ」
 和久     :「……はぁ」
 薗煮     :「子供達も、人を救いたいという気持ちも優しさも、本来
        :はあるはずなのだ、だがそのために本当にどうすればいい
        :のか、どうすべきなのかがまだわかっていない。相手の気
        :持ちは汲み取ることができても、その気持ちにどう応える
        :べきなのか、どう行動すべきなのか、どう理解を示せばい
        :いのか、その手本となる信頼できる……本当の優しさと強
        :さを持ったヒーローが必要なのだ!!」

 もはや言葉を返すこともできず、完全に薗煮節に飲まれている和久。かくか
くと首を縦に振るのが精一杯だ。

 薗煮     :「嬉しい時には共に喜び、辛い時には共に悲しみ、真っ直
        :ぐに真摯に子供達と向き合い、心を通わせられる。
        :そんな、完全無欠のヒーローを」
 和久     :「……はい」
 薗煮     :「そして」

 がしっと和久の両肩を掴む。

 薗煮     :「そのヒーローこそが、君だ」
 和久     :「は!?」

 今度こそ椅子から転げ落ちそうなほどに驚く和久に更に薗煮が言葉を続ける。

 和久     :「俺が……ヒーロー?」
 薗煮     :「無論、県警全ての人材からもっともヒーローに相応しい
        :人物を探しに探してやっと君を見つけ出した」

 胸ポケットからすっと一枚の紙を取り出す。

 薗煮     :「本宮和久……いや、宇宙刑事マメシバン」

 本人承諾抜きに既に決定事項扱いされている。

 薗煮     :「プロジェクトマメシバンの主役として、吹利の為、平和
        :の為、子供達の為、引き受けてくれ」
 和久     :「…………あの、でっ、でもどうして俺がっ」
 薗煮     :「それこそ、君の資質だよ」
 和久     :「資質?」
 薗煮     :「君が常に与えている、なんの意図もない無条件な優しさ。
        :ただ偶然そこににいたからというだけの理由で与えられる、
        :さりげない親切。他意も無く裏も無いささやかな想いを、
        :子供達は敏感に感じ取っている。それが君が好かれる理由
        :であり、損得関係なく、ただ普通に単純に優しくされる。
        :本来あるべきはずのコミュニケーションを君に求めている
        :からに相違ないのだ」
 和久     :「…………それは」
 薗煮     :「空を見てみろ、たとえ月は明るくともそれは太陽の光を
        :反射しての輝き。しかし星はたとえ小さくとも自ら輝かせ
        :る力を持っているのだ」

 もはやなにがなにやら。

 薗煮     :「世界はそれぞれの人にそれぞれのために用意されている。
        :世界は自分の為にありまた自分も世界を守っているのだと
        :いうことを、我々大人が教えてあげなければならない。
        :……子供達が、自ら輝く為に……」
 和久     :「……はい」

 この時の薗煮の熱弁はある種マインドコントロールの域に達していた、と。
 この説得光景を目撃した石垣巡査部長(刑事部捜査課)は後に語ったという。

 薗煮     :「やってくれるか、豆柴」
 和久     :「……やります」

 豆柴、陥落。


時系列 
------ 
 2005年末ごろ。
解説 
---- 
 プロジェクトマメシバン進行中。薗煮節炸裂で豆柴くん主役任命。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

 いやー薗煮くん書いてて楽しいたらないったら。



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