[KATARIBE 29713] [HA06N] 小説『走り出す』

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Date: Sat, 28 Jan 2006 02:20:25 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29713] [HA06N] 小説『走り出す』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2006年01月28日:02時20分25秒
Sub:[HA06N]小説『走り出す』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ちょっと浮かんだので、ちょっと書いてみました。
……高校生の心情なんて、思い出したくねー<当時の自分のって意味ですが
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小説『走り出す』
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登場人物
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 関口聡(せきぐち・さとし)
  :周囲安定化能力者。片目は意思と感情を色として見、片耳は異界の音を聞く。

本文
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 喪った片目と、喪った片耳。
 それを取り戻す、ということ。
 それが……まずは目的。

         **

 年を越して、また学校に戻ることにした。
 結局休学の間も、殆どの時間を学校の図書室で潰してしまったから、実質居
る場所はあまり変わらないのだけど。
「おお、ヌシやん復帰か」
 そう言って、頭をかき回すように撫でた友人と。
「それは、本当に良かった」
 鋭い目を柔らかく和ませてそう言った先輩と。

「……え、聡さま、休学だったのですか?」
 ある意味ちっともわかっちゃなかった先輩と。


 紫先輩は、創作部にすっかり馴染んだようである。
 創作部の他のメンバーもまた、紫先輩にすっかり馴染んだようである。
 ……とりあえず、先輩の失敗をさらっと流せるくらいには。

「そ、蒼雅さん、だから危ないって……っ!」
「え、え、ど、どうしてでしょうっ」

 廊下にまで響く、そんなやり取りに、ついつい笑ってしまうのだけど。


 最初に紫先輩を見た時に。
 ああ、巧先輩に似ていると思った。意識の球の透明さも、その中に浮かぶ感
情や閃きの一つ一つの色の具合も。
 ただ。
 見ていて時折いらいらするほどに、先輩は自信が無かった。
 自分は弱い、自分は何も出来ない。そんな不安げなモスグリーンのリボンが、
いつもいつもふるふると不安げに震える透明球の中に浮いていて。

 自分勝手な話だけど、腹が立った。
 自分よりずっと強い筈の人が、弱いんです駄目なんですって言ってるって、
それはとても腹が立つことだ……と。
 それはねーさんから何度か聞いたことだったけど、本当だと思った。

 だから。
 応援した。
 
 巧先輩もそうだけど、紫先輩も基本的に人に好かれる。人をひきつける。こ
れは同性だの異性だのって問題じゃない。二人とも正直で誠実で……それだけ
でも世の中で胸張って生きていって問題ないことだと思う。
 自分を見てうじうじするより、先輩が元気になるように。
 そして元々持つものにふさわしく、進めるようになって欲しい、と。


「そこ、ドア閉めてっ」
「は、はいっ」
 そして扉に何やらぶつかる音。
 ……先輩、何かひっくり返したな。


 もう大丈夫だと思う。
 というか……既にあの部には、下手に先輩に声をかけていると妙な圧力を込
めてこちらを見ている人が複数居るのだ。
 確かに先輩は、並じゃない箱入り娘だけど。
 ちゃんと箱から取り出して、元気に歩くまでを見守る人は居る。

 ならば。

 靴の紐を引っ張って結び直し、ほどけないようにきっちりとくくる。
 とんとん、と、何度か踵を打ちつける。

 走ろうと思う。
 走らねば、僕はまた腐ってゆくと思う。
 異世界に飛んだままの耳。この耳を取り戻すこと。

 そのために、走ること。


 ……本当は、わかっている。
 自分で立って歩けるようになった先輩。それを見ているのが、僕はまた悔し
いのだ。
 弱ければいらいらとし、強くなれば悔しいと思う。
 ……だから人に関わるのは嫌なんだ。
(特に、自分のような者は)
(特に……危険物のような者は)


  意図は自己保身。
  けれどそれで誰も傷つけないならば。

  傷つけることが無ければ。
 

 僕の手の中にある自己保身の本能と欲求。
 せめてそれで人を傷つけないように。
 せめてそれが、多少なりと人の役に立つように。

 …………多分それもまた、言い訳に過ぎないのだろうけれど。
(自分の中に善意があるということを、誰かに言い訳するための)


 鞄を押しやって、背中のほうに回す。
 上着のボタンをきっちりと留めて。
 

 僕はまたここから走り出す。


時系列
------
 2006年1月。新学期始まってすぐ。

解説
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 クリスマスをとおり、また学校に戻った聡のモノローグです。
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 てか、自分の高校時代ってゆーと。
 今と比べて、多分、自分ばっか見てたんじゃないかなーと。
 ……そゆのって思い出すとうぎゃーとなるんですけど。
(だからこの長さにえらいてこずって、未だ半端です)

 そのうち書き直すかもですが、とりあえず。
 ではでは。
 


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